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オールスター第2戦

「お疲れさまです。ちょうどこれからホームランダービーですよ」


「明日の午後には大阪へ向かう……いろいろあったせいであまり休んだ気がしないな」


 練習の視察や各所への挨拶を終えてつばめが家に戻ったのは夕方だった。解任騒動は終わったが、疲れが溜まってしまった。


「まあこうしてゆっくりとオールスターを観戦できることを喜ぼう。家を失っていたかもしれないからな」


 金に汚い前球団社長がつばめの報酬をごまかして、数百万しか渡さずに追い出していたシナリオは大いに考えられる。散財するつばめはあっという間に路頭に迷っただろう。



『今日はド・リーグのベンチも賑やか!オズマ以外は初出場の選手ばかりのペンギンズですが、オールスターの雰囲気を楽しんでいる様子!』


「ふふふ……怪我さえしなければ結果は二の次だ」


 MVPを獲れるならもちろんいい。しかし張り切りすぎて明後日の試合から欠場という事態は困る。


「他のチームの選手たちに弱点が見つかってしまう……その危険はありませんか?」


「事前に警告してある。もちろん他球団の貴重な情報を盗んでこいとも言っておいた」


 打撃のコツや変化球の握りを教えてくれる選手がいるかもしれない。ペンギンズは若手ばかりなので、こちらは与えることなく受けるだけ……メリットしかない。ただし試合中に観察されて癖がバレることがありえるので、用心深くあるように注意していた。




『大きい!入った、ホームラン!池村、オールスター初打席でいきなり特大アーチ!ド・リーグが2点先制!』


「すごい打球でしたね!」


「ど真ん中に直球勝負とわかっていればあいつは打てる。思い切りのよさはすでに一流だ」


 低い出塁率、三振の多さなど課題は多い。しかしパワーヒッターのイメージを定着させれば、長打を怖がる相手が勝手に自滅することもある。お遊びの舞台でのホームランも無駄ではない。



『土場に続き大矢木も打った!ヤングペンギンズがオールスターでも躍動!』


「おお!いいぞ、いけいけ!」


 皆の活躍につばめも大喜びだ。野手陣は全員ヒットを打ち、見せ場たっぷりだった。




『入った、ホームラン!トリプルクラウンズの武にも豪快な一発が飛び出しました!空中戦です!』


 一方で投手陣の内容は悪かった。先発の加林は1イニングでホームランを2本も打たれた。


「あいつら……普段は投げない球を試したな?」


 プロになったのを機に封印していた球種を試し、もし通用しそうなら後半戦も使うつもりだったのだろう。


「打たれてよかった。あんな球が役に立つわけがないことぐらい、やる前からわかっているはずだが……」


 若いバッテリーが精度の低い球を諦めるきっかけになったのだから、結果は散々でも収穫はあった。本気で持ち球にしたければ、シーズンオフにじっくり練習する必要がある。




『抜けた!三塁ランナー、ホームイン!』


『長打になる!ファ・リーグの勢いが止まらない!』


 小西と安岡も失点した。ただしこの2人はストレートしか投げていないので、こうなるのは当然だった。


「キャッチャーが代わっていたからこうするのが最善だ。いい判断だ」


「楽しいだけじゃないんですね……オールスターは」


 他球団のキャッチャーが投球フォームの癖を盗もうとしている気配を察知したので、小西と安岡は全球ストレートで勝負したいと事前に宣言した。


「いや、楽しんでいるだけのやつも多い。そんな中で賢く行動できれば、差をつけられる」


「賢いのはペンギンズの選手の方々……いや、つばめさんですね。つばめさんが何も言わなければどうなっていたかわかりませんよ」


 初の球宴で舞い上がり、自分の力を見せつけようとする選手がいただろう。もしくは聞かれたことを何でも話してしまい、墓穴を掘った選手もいたはずだ。


「彼らもプロだ。私が言わなくても………」


 選手たちを擁護するつもりだったが、つばめは黙ってしまった。お調子者たちはアウト、頭が弱くてもアウト、萎縮して言いなりになってもアウト。うまくやれていた選手がはたして何人いただろうか。



『試合終了!12対8、今年もオール・ファントムが2連勝!MVPは京都の武で間違いないでしょう!』


 サイン交換が速く、フォアボールはなし。イニング途中での投手交代もなかったので、乱打戦ではあるが試合時間は短かった。


「ペンギンズからは受賞者なしですか……」


「年俸数百万のやつらにとっては小遣いどころか貴重な収入だったのに、惜しかったな。よし、寝るぞ」


 つばめの休日は終わった。明日からはこんなに早い時間に眠れる機会はほとんどなくなり、日付が変わった深夜まで身体を休ませることができない日々が続く。


「この夏休みはあなたも遠征に同行すると言っていたが、大阪には来ないのか?」


「最初の1週間でできることは全て終わらせます。残りの期間つばめさんのサポートに専念するために、急いで片づけます」


「ははは……無理はしないように」




 つばめとみのりは同じベッドで横になる。大きなベッドなので互いに寝返りを打つ余裕もあるが、この日の2人はいつになく距離が近かった。


「つばめさん?どうしました?」


 しかもつばめのほうから近づいてきた。夜中にこっそりつばめの寝顔を観察したり、手を繋いだりしていたのがバレたのかとみのりは緊張した。もちろんそんな理由ではなかった。


「……いつもあなたには支えられているが、この3日間は特にありがたく感じた。改めて感謝する。そして明日からもよろしく頼む……みのり」


「は……はいっ!こちらこそ!」


 解任発表の記者会見から続投が決定する時まで、みのりはずっとつばめの隣りにいた。つばめの言葉に感動したみのりだったが、


「……………」


「……もう寝てる………」


 数秒前まで喋っていたはずなのに、気がついたら寝息が聞こえた。あまりに早いので、寝たというより気絶したのではと思うほどだった。



「……………」


(普段は私と同い年とは思えない迫力と精神力の持ち主なのに、寝顔はまるで小学生のよう………)


 つばめの素顔をここまで知っている人間は自分しかいない。その確信がみのりの心を熱くした。



「……ひゃっ!」


 どんな夢を見ているのか、つばめが右腕を伸ばしてきた。みのりの左胸に触れると、そのまま優しく揉み始めた。みのりは両手で口を押さえ、声が漏れないようにした。


(まさか起きて……やっぱり寝てる!)


 あまりに完璧な触り方だったので、つばめがついに手を出してくれたと期待したが、どう見ても寝ていた。


「……………」


「んうっ……んっ!」


 横浜に3タテを食らい失意のつばめを慰めた時は、つばめが母を求める子どもに思えてきたのでみのりの興奮も醒めた。しかしいま、つばめの手つきはみのりを燃え上がらせるものだった。



「……………」


 そのうちつばめは動きを止め、深い眠りに入ってしまった。しかしみのりのほうはもう止まれない。つばめの手を取り、胸から静かに位置を変え、下腹部に置いた。


(つばめさん……つばめさん!)






 最高地点に達してから、みのりはしばらくぐったりとしていた。呼吸が整うと、つばめに近づき優しく口づけをした。


(愛しています……これからもあなたと共に……)


「……………」


 つばめは眠ったままだったが、僅かに微笑んだように見えた。

 相手投手が千賀さんで、ブックマーク&高評価が入らないのはわかっていたので、とにかく厳しく投げていきました。

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