残留挨拶
「無償トレードか……ゴネたら好きなチームに移籍できる悪例になりそうだな」
「彼の性格や言動はチームに悪影響を及ぼすかもしれません。ここは静観といきましょうか?」
首脳陣やチームそのものへの批判を繰り返し、ペンギンズにトレードしろと叫ぶ三丸。彼がペンギンズに入りたい理由はつばめがいるから、それだけだ。チームの和を乱す問題児になる可能性は高かった。
「そうだな。やつは………」
つばめも三丸のことはいらないと思っている。コーチの指導に従わないくせに、つばめの嘘を信じてプレースタイルを曲げるような男だ。獲得しないという結論で話は終わろうとしていた。
(……球界への悪影響やチームの和なんかを気にして……優勝できるはずがない)
しかしここでつばめは止まった。もう1人の自分が考え直せと言っているかのようだった。
(あいつは私の指示なら喜んで従う。うまく矯正すれば今からでも主砲になれる……)
横浜の戦力を落とすために三丸をポンコツにしたが、逆のこともできるはずだ。正しく指導し、彼が持つ素質を最大限に発揮させる。そうすれば日本を代表するホームランバッターになれる。
「………前言撤回だ。タダで獲れるというのなら獲ろう。横浜の罠かもしれないが、あえて乗ってやろう」
「……監督がそう決めたのなら私はその通りにします。現状は彼が守るポジションがありませんが……」
「最初は二軍で調整させるが、すぐにやつを試す機会は来る。大博打になったな……楽しみだ」
下田の支配下登録、三丸の獲得でひとまず今シーズンの補強は終了した。彼らが期待通りに結果を残せば、上位争いに割って入れる。逆に低調に終われば、チームも下位のままだろう。今は育成選手と他球団所属だが、2人とも後半戦のキーマンだった。
「いやいや、どうなることかと……」
「とにかく無事に終わってよかった!これからも頑張ろうぜ!」
つばめがいなくなれば共に追放されることになっていたパフォーマンスチームのメンバーが集合し、つばめの勝利を喜んだ。
「ペンタロウの継承はまだ道半ば。夢が途切れてしまう危険があった」
「てゆーかいまだに復活を狙ってやがったのかよ、あのビッチども。これでホントに諦めたのか、まだ怪しいぞ」
ペンタロウの中の人もその輪に加わり、つばめの続投を祝う。明後日からの試合は敵地なので彼らの出番はないが、それぞれじっくりと腕を磨き、後半戦最初の外苑開催に向けて心身を整えることを誓った。
「おお……ここか。まさか全員集まっているとは」
「えっ!?監督!?」
そろそろ祝いの席も終わりというところに、つばめが登場した。皆のテンションが再び高くなり、つばめを中央の席へ座らせた。
「いつかつばめ監督も踊りませんか?ファンの皆さんも喜びますよ!」
「踊るのが難しいなら歌うだけでも!」
ペンギンズの応援歌やダンスは全て記憶しているので、つばめもやろうと思えばできる。つばめの性格を考えればこの少人数の場でもやるはずはないので、メンバーたちも本気で言ってはいなかった。
「そうだな……優勝したらやろう」
今のつばめは機嫌がいい。優勝すればもっとよくなるだろう。乗り気でチアのコスチュームを着て誰よりもキレのあるダンスを披露するはずだ。
「ホ……ホントですか!?」
「是が非でも優勝してもらわないと!」
パフォーマンスチームの士気はさらに高まった。その後は新たな企画の提案や、ペンギンズ博士の雪と今後のペンギンズについて語り合ってからつばめは去っていった。
「というわけで……いろいろあったが今後も私が一軍監督を務めさせていただく。おそらく今シーズン終了までは私ということになるだろう」
選手たちにも改めて挨拶をした。オールスター組はすでに第2戦の舞台に向かっている。昨日出場しなかったので、今日の試合で全員まとめて出ることになる。
「私が辞めていればよかったと皆が思うぐらい厳しくいく。そうでもしなければ目標には届かない」
「目標……優勝ですね?」
岩木の言葉につばめはにやりと笑った。
「当たり前だ。もしここでAクラスだなんて小さなことを言っていたらあなたは二軍落ちだった。5位をキープし最下位回避などと口にしたら命はなかった」
「命?ははは、冗談でしょう」
「冗談だと思うならそれでいい。後半戦はチームとしても個人としても激しい戦いが続くだろう。志が低い者は自然と脱落し、プロ野球選手として死ぬ。予告通り、10人から15人程度はユニフォームを脱いでもらうことになるだろうからな」
すでに見限られた選手たちはほぼ決まりとして、あと数人が追加で戦力外となる。選手層の薄いペンギンズと契約できない選手が他球団に拾ってもらえる望みはほぼないので、引退だ。
「野手のレギュラー陣はこの場に不在だが、彼らが最後まで好調を維持できるとは思っていない。故障する者もいるかもしれない。絶対にチャンスはあるのだから、いつでも出られるようにしてほしい」
「はい!」 「おおっ!」
「ピッチャーは野手陣以上に呼ばれる機会が多いだろう。先発もリリーフも今のメンバーだけで戦い抜けるわけがない。前半戦に活躍するより後半戦に活躍したほうが評価は上がることを知っているはずだ」
「はいっ!」 「よっしゃ!」
一軍の控えや序列の低いリリーフ、二軍生活の長い選手たちに気合いを入れた。この数十人の中から後々チームの救世主になれるのは、多く見積もっても5人だろう。誰がその座を勝ち取るのか、つばめは心から楽しみにしていた。
「一軍メンバーはともかく、二軍にこれ以上掘り出し物が残っているとは思えませんが……」
「投手は下田のような短期間なら通用する変則タイプを優先的に使う。野手は一芸に秀でた選手がいい。弱点の克服は後回しにして、とにかく長所を伸ばせ。打撃、守備、走塁……どれか一つでも平均以上ならこっちでどうにかする」
実力で活躍できそうな選手、将来チームの柱になれる素質を秘めた若手はおそらくもういない。一軍での経験が二流選手を大化けさせる可能性もあるにはあるが、今は彼らの覚醒よりもチームの白星が優先だ。
「もし今も監督が就任した時と同じようにぶっちぎりの最下位で、今年の順位はもういいから来年以降を見据えた戦いを……なんて状況だったら使っていた選手はいますか?」
「どうだろうな。来年のための戦いだとしても、見込みのない屑を使うことに意味はない。しかし何もしないのでは高塚や嶋田と同じ……意外と難しいな」
ただのファンだった時は、こんな順位なら若手を試せばいいのにとつばめは毎年のように思っていた。しかしいざ監督になると、話はそう単純ではなかった。
身体が完成していないルーキー、チーム全体のムードを悪くしそうな落ち目の選手、経験を積ませるだけ無駄な役立たずは一軍に上げられない。結局いつも通りのスタメンを続け、気がつけば9月末になっている。何も収穫がないままシーズン終了だ。
「最後までそんな展開にならないことを願いましょう。常に順位を争う痺れる日々を……」
「いや、早々に優勝を決めるならその限りではない。プレーオフに向けた調整のために公式戦を使い、前向きな消化試合となるなら大歓迎だがな」
つばめは自分の言葉で笑ってしまった。現在のペンギンズは最下位とゲーム差なしの5位。逆転優勝するとしても、消化試合を大量に残す楽勝はありえない。自分には冗談のセンスがないという自嘲の笑いだった。
千葉ブックマークマリーンズ対阪神評価点タイガース
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