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神宮寺の闇

「GMに嶋田、それ以外の連中……やつらがなぜ私を退けようとしたのかは想像がつく。しかし球団社長だけはいくら考えてもわからん」


 GMは自分の名に傷がつき退任させられることを恐れ、嶋田は自分が監督になりたいだけだ。頭の冴えない人間でもわかる単純な理由しかない。



「オーナーの白田氏の影響力を弱めたいなら、スキャンダルの件だけで十分なはずだ。GMの大川はまだいいとして、どうしようもない男の嶋田を持ち上げたら自分まで無能扱いされ、非難の的になる」


「それなのに監督を代えてチームを弱くしたい理由があるのでしょうか?選手の給料を抑えたいとか?」


「それくらいしか考えられない。しかし高給取りのベテランは今からどう頑張ってもダウン、もしくは元々固定給の複数年契約だ」


 一番削れそうなところは特に手を加える必要がない。何もやりようがないと言うこともできる。


「つばめさんが発掘した若手の方々は?大幅アップは確実ですから、彼らを失速させようと……」


「大幅アップはない。全員活躍しているのは5月の終わりか6月からだ。最初の2ヶ月は何もしていないのだから、出費を惜しむほどの金額にはならない」


 規定打席、規定投球回に到達する選手はいないかもしれない。加林か安岡が新人王を狙えても、それ以外のタイトルは誰も獲れないだろう。


「そもそもペンギンズは選手の給料をケチる球団ではない。ピークを過ぎても緩やかに下げるし、複数年契約もする。高い金で変な外人を連れてくるしな」


 金満球団と競るほどの資金力はないが、たまにFA選手を獲得する。海田鉄人の引き留めにも成功した。設備費や裏方に金を出さないので貧乏だと思われているだけで、親会社の経営状態も好調だ。



「つばめさんがわからないのでは私はもうお手上げですね……あっ、電話です……おじい様!」


 みのりの祖父、つまりオーナーからの電話だ。


「もしもし!おじい様、今回の件は……」


『ああ。こっちは解決した。あとは監督問題だけだ』


 金の力でオーナーは危機を脱出した。数年前に会社が法律に違反していたことが問題だったが、二度とそのことを公にしないという誓約書を書かせて終わりにした。



『つばめを追放しようとする連中についてだが……』


「ちょうどその話をつばめさんとしていたところです。直接お話したほうがよろしいでしょう」


 みのりはスマホをつばめに渡した。


「……代わりました、正一です」


『大変だったな。しかしお前の勝利は近いぞ。まずは社長側から大物が1人こちらの味方になった。GMの大川だ』


 寝返ったのは大川だった。自分の言う通りに選手を使わないつばめに敵対していたが、考えを変えた。



『やつはお前が優勢になったからこっちに来たわけではない。午前中には私に電話をかけてきた』


「それなら受け入れても問題はありませんね……で、彼がこちら側についた理由は?」


『後任になる予定の嶋田があまりにも無能すぎて、これでは駄目だと思ったらしい。こいつが監督になれば来年は確実に100敗、その片棒を担ぐのは嫌だということだ』


 選手起用や戦術について嶋田と話をしたところ、激しい頭痛に襲われたと大川は語った。用具係として二軍に残しておくことすら不安になるレベルで、自分の影響力が落ちるとしてもひとまず今年はつばめが監督のままでいるべきだと結論した。



「そうですか。しかしまだ話はあるのでしょう?」

 

『ああ。次が本番だ。大川が私たちの仲間になった真の理由でもある。球団社長の神宮寺、やつの闇について知らせておこう』


 つばめがいくら考えても答えが出なかった、神宮寺の動機が明らかになる。なぜつばめを降ろそうとしたのか、その真意が。


『以前から調査はしていたが、大川の証言で完全にクロになった。神宮寺は……暴力団と繋がっていた。しかもやっていたのは野球賭博だ』


「……野球賭博」


『神宮寺は金に困っていた。使ってはいけない金に手を出し、それを埋めるために黒い連中と手を組んだ。ペンギンズの球団社長のくせに、チームが沈むことを願うやつらとな』


 社長の派閥がオーナーの弱点を突いて攻撃するのであれば、オーナーにもその準備はできていた。神宮寺の周りの金の動きが怪しく、横領を隠すためにとても悪い方法で金を調達していることは一部で噂になっていて、あとは確たる証拠を掴むだけだった。


 互いに後ろめたいところがあるので、武器はあくまで脅しの道具だ。オーナーと球団社長、どちらかの勢力が強くなりすぎないための抑止力だった。ところが昨日、神宮寺は暗黙の了解を破り大きな行動に出た。



「わざとペンギンズが負ける、最下位になるように仕組んでいたのですか?不自然な動きはなかったように見えますが」


『いや……情けない話だが、ペンギンズは何もしなくても勝手に負ける。八百長も敗退行為も必要ない。実力で3割から4割前半しか勝てなかったんだよ、毎年』


 神宮寺はチームの敗戦に一切関与していない。それどころか自分が賭けることもしていない。あくまで『何もしない』、それが暴力団とのルールだった。罪に問える証拠はなく、楽に金が入る。


『しかしそこに正一つばめが現れた。チームは強くなり、当然やつは焦る。私を別の問題に縛りつけておき、その間に元の弱いチームに戻そうとしたようだが……やつは愚かだ』


「球団社長という立場でありながら自分の利益のためにチームの成績や収入を二の次とし、選手たちの未来まで奪おうとするとは……」


 つばめの怒りは先程の比ではない。このスマホがみのりのものでなければ、叩き割っていたかもしれない。


「私を彼に近づけないでください。殺してしまうでしょうから」


『あ……ああ。お前が言うと冗談に聞こえないぞ』


 つばめは誰よりも熱狂的なペンギンズファンだ。チームのためにと本気で神宮寺を殺すだろう。



『あの様子なら15万人はクリアできる。仮に届かなくても私がどうにかするから、チームに戻る準備をしておくように』


「ありがとうございます。では……」


 スマホをみのりに戻し、つばめは再び外苑球場の中継を見る。結局オールスターは一度も見ないまま、試合が終わってから成績だけ確認した。




『首相が署名を終え、それでも熱気は増す一方!おや、列の真ん中で騒いでいる男性がいますね』


 ついにトラブル発生かとマスコミが近づく。するとそこにいたのは人一倍大柄で、肩幅も広い男だった。その顔はプロ野球に関わる者なら誰もが知っていた。


『あ、あんたは横浜スターヒーローズの!』


『ミルミル……三丸充じゃないか!なぜここに!?』


 つばめの悪意に満ちたアドバイスを信じ、ますます二軍から脱出できなくなってしまった三丸が列に並んでいた。様々な業界の大物が登場したが、他球団の現役選手が現れたのは彼が初めてだった。



「つばめちゃん!なかなかトレードが成立しないようだけど、俺は待ってるから!後半戦はペンギンズで大暴れしてやるぜ!」


 騙されたことにまだ気がついていない。トレードの期限まで半月程度しかないが、ペンギンズ入りを諦めていなかった。


「俺は横浜なんか嫌いだ!監督もコーチもバカしかいねーからな!でもつばめちゃんを追い出したらそれ以上にペンギンズを嫌いになるぞ!俺はつばめちゃんがいるからペンギンズに入りたいんだ!」


 絶叫する三丸の周囲の反応は様々だった。ペンギンズに来い、大活躍してくれと声援を送る者たちがいれば、落ちぶれた今のお前なんかいらんと嘲笑う者もいる。公然と自分のチームを批判して平気なのかと、彼を心配する空気もあった。



「なんだ……屑が喚いているだけか」


 つばめは三丸を獲得する気など一切なく、そのまま横浜で埋もれることを期待している。署名をするのも本人がしたいからであって、それに報いる義務はない。三丸のラブコールは人々の歓声にかき消された。

 ブックマークが打つぞ ライトへホームラン

 高評価が打つぞ レフトへホームラン


(高橋眞裕のテーマに乗せて)

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