大行列
「どういうことだ?何が起きている」
『ご覧の通り、今年のオールスターは二軍戦やオープン戦のようなガラガラのスタンドです!しかもペンギンズの選手がどこにもいません!』
ペンギンズでスタメンを固めると約束していたド・リーグ総監督の棚橋だが、誰もいないので残りの選手たちを集めてオーダーを組んだ。ピッチャーの数は余裕があるが、野手の中にはフル出場を強いられる選手もいるだろう。
『い、いま情報が入りました!ペンギンズの9人は欠場です!棚橋監督と丸藤、水浦両コーチの許可を得て、すでに球場を去っているとのことです!』
『行き先は……あそこしかないだろうな』
つばめを監督に戻す唯一の手段、それが外苑球場に行くことだ。球団の指定した15万人のうちの1人になるために、選手とファンが新潟から外苑へ急いだ。
「つばめさん!これは……」
「……………」
勝機は薄いと思われた戦いに光が見えた。みのりが飛び跳ねながらテレビの前のつばめに近づくと、その肩は震えていた。
(感動で……まさか涙を?)
つばめの顔を覗き込んだ。ところが………。
「ぼけが―――――――――っ!!」
「きゃあっ!」
つばめがテーブルをひっくり返したのと同じ動きでみのりも転んだ。つばめの震えは喜びや感激の思いによるものではなく、制御できないほどの怒りが原因だった。
「一生に一度かもしれない貴重な機会を無駄にするとは……どいつもこいつもプロ失格だ!」
「つばめさん!落ち着いてください!」
「私より先にあいつらを追放しろ!ファンと客を裏切って職務を放棄する連中なんか、プロ野球界にいらない人間だ!草野球でもやってろ!」
怒鳴るだけ怒鳴り、片づけもしないでベッドに入った。夕食はこれからだが、このまま寝るつもりらしい。
『ここで外苑球場の様子を見てみましょう。おお!ものすごい数の群衆です!どうやら時間を繰り上げて、すでに始まっているようです』
署名のためだけに球場を開放し、中も外も人で溢れている。球場内だけでも3万人以上は確実にいた。
『集まったファンへのサービスでしょうか、オールスターに参加していない選手たちやパフォーマンスチームのメンバーが球場の出入り口、通路、周辺道路にいます!』
待ち時間も飽きさせず、集まった人々に感謝の意を伝えるこれ以上ない方法だ。サインや握手といった直接的なサービスはなくても、皆を喜ばせた。
「つばめさん!これなら……」
「どうかな。15万人分の署名を集めたところで約束が守られるとは思えないが」
集計の際に神宮寺の手下が介入し、数を減らしてしまえばいい。スタッフ全員が黙るほどの金を用意すれば、集計すら必要ない。適当な数をでっち上げて15万に届かなかったと言えばいいだけだ。
「しかし……ペンギンズの未来は明るいな。野次馬気分で来たやつらもいるだろうが、非常に大勢のファンが『強いペンギンズ』を求めて外苑球場に集った……ファンの意識は変わっている」
(ペンギンズというよりつばめさんを求めている人々が多いと思いますが……)
「この熱気があればフロントが補強を怠ることもないだろう。強いチームでいることが一番のファンサービスだとついに理解できるはずだ」
つばめが残ることが最大の補強と考えたら、つばめの言葉もみのりの考えも間違いではない。ベッドからテレビの前に戻ってきたつばめはみのりと共に外苑球場の様子を眺めた。
「……なるほど、そうか。どうやら私はとんでもない思い違いをしていた」
「思い違い?」
「あの9人のことだ。プロ失格だと怒鳴ってしまったが、彼らは素晴らしい。オールスターなどというただの遊びよりもチームを優先した……そんな簡単なことを見失っていたとは、やはり私も精神的に疲れていたらしい」
自分でもわからないうちにストレスやダメージが蓄積されていた。それを自覚できたのはつばめにとって収穫だった。体力や精神力を過信せず、弱さを認める必要を再認識できた。
「チームへの忠誠心があれば、来年の春の国際大会を辞退してくれるだろう。他球団の主力のコンディションが崩れている隙に、開幕ダッシュだ!」
(……つばめさんが来年も監督なら、という条件つきでしょうけどね)
今回はみのりの考えが正しかった。ペンギンズの主力たちは、つばめがいなくなれば国際大会に参加する。つばめが残ればペナントレースに専念する。その点でもつばめの存在がペンギンズの順位を大きく変えると言えるだろう。
『……力士です!横綱相手に玉砕し、つばめ監督との結婚は水に流れた無双燕と彼の部屋の力士たち!大きな身体が目立ちます!』
『ペンギンズの私設応援団、緑天会のメンバーが演奏しています!つばめ監督に敵対するのは東京緑天会だけで、各地方の緑天会は監督に好意的です!』
助っ人たちが次々と現れる。人が車道まで溢れ、球場のそばの道路は大渋滞になった。
「全然進まないな……せっかくだし俺たちも署名していこうか、運転手さん」
「そりゃいいですね。どうせ動かないんだ、車は置いていきましょう」
タクシーの運転手と乗客が飛び出し、人混みに加わった。トラックやバスからも次々と降りてきた。
「警官が来たぞ……まさか解散させる気か?」
「いや、署名の列に並んだぞ。仕事はどうしたんだ」
これだけ人がいるのにトラブルはなかった。そして午後8時、最高の大物が登場した。
「見ろ……あれは!首相だ!」
「総理大臣が来たぞっ!」
日本初の女性総理が外苑球場に現れた。何十人というボディーガードに囲まれながら、列の最後方に並んだ。慌てて報道陣が殺到する。
『総理!なぜこんなところに!?』
「正一つばめ監督を応援しているからです。私が女性として初の総理大臣なら、彼女は女性として初めてのプロ野球チームの監督です。それをよしとしない方々に邪魔されるところまで似ているので……一方的に仲間だと思っているだけですよ」
総理大臣が署名しても1票は1票だ。しかし気軽に数をごまかすことはできなくなった。神宮寺たちのイカサマは完全に封じられた。
「この勢いなら勝てます!つばめさん!」
「ああ……おっ!ついに彼らも来たか」
オールスター第1戦を早退した9人が登場し、外苑球場の熱は最高潮に達した。投手は加林、小西、安岡。捕手は大矢木、野手はオズマ、土場、池村、飯館、そしてラムセスだ。すでに球場入りしていた選手たちに合流した。
「ゴーゴーペンギンズ!ゴーゴーペンギンズ!」
『ド・リーグの他5球団の協力もあり、新潟から選手たちが来ました!熱い夜はまだまだ続きます!』
オールスターゲームよりも外苑球場の中継が注目を集めていた。当然神宮寺もその様子を見ている。つばめ追放派のリーダーである彼だが、引導を渡すつもりのイベントで逆に追い詰められる事態になった。
「どうして野球なんかのために総理まで……」
「来場者をカウントしている職員やマスコミがいます!あまりにも人数と票数が離れている場合、言い逃れは不可能かと……」
状況の悪化は止まらない。次々とよくないニュースが届いた。
「裏切り者が出ました!しかも数人ではなく……」
「それに伴いオーナーが自由になりました!不祥事の証拠は処分され、週刊誌も金で黙らせたようで……神宮寺社長!」
神宮寺の思い描いていた勝利への道筋が途絶えかけている。このまま勝ち目の薄くなった勝負を続けるのか、敗北を認めて少しでも被害を抑えるのか、まさに崖っぷちだ。
「ぐぐぐ………正一つばめ〜〜〜っ……!」
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結果……小松さん、たすけてよ




