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球団社長

「つまらん政治家や思想家どもよりも人を集めていたな。大したものだ」


「私の力ではありません。皆がつばめさんを愛し、今回のことに憤っている証です」


 みのりが演説を終えると、2人は電車に乗って次の目的地である空港へ向かった。駅でも車内でも、いまだつばめに気がつく人間はいない。種類の違う美少女が並んでいるとしか思われなかった。


「ユニフォームを脱ぎ、帽子を外すだけでこれか」


「『こんなところに正一つばめがいるはずがない』という先入観もあるでしょうね。特に今日は」


 解任騒動で大変なことになっているのに、友人と遊んでいる。しかも公共の乗り物に乗って移動している。普通の感覚ではありえない行動だった。

 


「この格好なら明日のオールスターの観客席にいてもバレないかもな」


「それは厳しいのでは?ずっと同じ場所に座っていたら、そのうち誰かが怪しむでしょう。しかも野球場では……」


 さすがに見つかり、大騒ぎになる。ただのファンとして野球観戦が楽しめるのはもう少しほとぼりが冷めてからになりそうだ。


「空港ではおそらく何事もなく終わるでしょう。帰りはどうしますか?」


「タクシーを使うか。金ならある」


 途中で追い出されはしたが、ここまでの出来高分は支払われる。選手の育成や勝率、経済効果などを考えたら、働かなくてもしばらく暮らせる金額になっているだろう。



「無駄遣いは駄目ですよ。しっかり管理しないとあっという間になくなってしまいます」


「この2ヶ月で稼いだ金も監督の椅子と同じだ。本来ありえなかったものなのだから、失ったところで大して痛くない」


 この調子では1年もしないうちに使い切ってしまいそうだ。金に執着がないと言えば聞こえはいいが、自分の生活や命すらそこまで大事にしていないように思えてしまう。

 

(やはりつばめさんは私が支えていなければ……しかし私たちの繋がりは間もなく終わってしまう……)


 つばめは数日中に部屋から出ていくように命じられるだろう。自力で家賃を払えるなら話は別だが、超高級と呼ばれるマンションだ。球団からの退去命令に従うしかない。


(まだ解任は決定ではありません。どこかで覆れば……)






「全て我々の思い通り……と言いたいところだが、そうもいかないな」


「幾人かの番組司会者にコメンテーター、インフルエンサーたちに金を渡しましたが、世間が我々の味方になりません。まあ時が経てば静かになるでしょう」


 球団社長の神宮寺と側近は、すでに自分たちの勝利を確信していた。言うまでもないことだが、神宮寺が今回の計画のリーダーだ。


「白田オーナーはいまだ身動きが取れない状況です。スキャンダルの揉み消しにはまだ時間がかかりそうです」


「あの爺も追放できれば最高だったが、これで影響力を失うだろう。いずれ自分から身を引くはずだ」


 ペンギンズのオーナー白田と球団社長神宮寺は意見が合わないことが多く、互いに派閥を持っていた。つばめを監督にすると決めたのは白田であり、神宮寺たちは反対派だったが、強引に押し切られた経緯がある。




「正一監督には外苑球場の応援団から激しいヤジが飛んでいましたが、応援団長が命令していたとは……」


「やつも私と同じだ。実は正一つばめ個人に恨みはない。自分の望みに邪魔だから消す、それだけのことだ」


 記者会見には姿を現さず、言及されることもなかった。しかしつばめは応援団長も追放劇の首謀者だとわかっていた。


「監督が無能の嶋田に代われば確実にチームは弱くなります。我々のようにペンギンズよりも金を愛するなら理解できますが、命と同じほどペンギンズを愛している彼がなぜ……」


「ハハハ……正一つばめを憎み、ヤジを飛ばしていた連中の心理が読めないのか?やつらは『弱いペンギンズ』を応援している自分に酔っているだけだ」


 東京には大人気の強豪チーム、後楽園ビッグリーダーズがいる。それなのに弱小のペンギンズを応援する人々が何を思っているか、つばめも理解していた。


 ビッグリーダーズが嫌いだから、緩い空気が好きだから、弱いチームを見捨てない自分は偉いと思いたいから……そんな空気を昔から感じていたので、つばめは選手だけでなくファンも意識を変えるべきだと強調していた。



「選手たちが目をギラつかせてペンギンズが強くなり、人気の監督が新しいファンをたくさん連れてくる……そうなると自分たちが知っているこれまでのペンギンズではなくなる。それが古い連中には許せなかったのだろう」


「……そんな連中、厄介すぎませんか?」


「もちろん純粋なファンもたくさんいる。その代表が正一つばめだ。しかし声が大きいのは昔からの影響力があるファンだ。そいつらの卑屈な負け犬根性が正論を飲み込んでいくのだ……今回のようにな」


 つばめがいなくなれば応援団長の理想の外苑球場が戻ってくる。つばめ目当てのファンは姿を消し、チームの雰囲気は緩くなる。基本的には最下位争いだが稀に優勝のチャンスが来る。改革を拒否し、ぬるま湯を欲し続ける者たちの代表が応援団長だった。




「旧パフォーマンスチームの復活は必要だったのですか?これは別にいらないような……」


「……リーダーの女と約束してしまったからな。正一つばめを追放したら、自分たちを元に戻せとな」


 パフォーマンスチームのメンバーがなぜ球団社長とそんな約束ができるのか。普通ならありえないが、特別な関係なら話は別だ。


 彼女を中心とした数人のメンバーは、球団の幹部たちと『パパ活』を行って金を稼いでいた。その魔の手が選手にまで伸びようとしていたところでつばめが現れ、選手たちは守られた。


「監督の言動や態度が気に入らないと言って脱退したが、選手たちの心が監督に奪われたのが屈辱だったのだろう。化粧もしない、着飾ってもいない女に」


「我々よりも貪欲かもしれませんね。あいつらは」


 大量離脱の際にチームに残り、現在も活動している4人は汚れた行為とは無縁だ。このままつばめが去り、選手たちを狙う集団が戻ってくれば、皆の想像以上にペンギンズは崩壊する。



(それが私の狙いではあるがな……)


 チームの弱体化そのものが目的なのは神宮寺だけだ。つばめがいなくなればペンギンズは以前よりも『ド・リーグのお荷物』、『野球界の排泄物』という蔑称にふさわしい存在になる。暗黒が迫っていた。






「すいません。もうすぐ待ち合わせの時間なので」


「今日は仕事で来ています。また誘ってください」 


「それよりトイレはどこですか?吐きそうで……」


 外出中、つばめとみのりが男たちに声をかけられた機会は3回あった。つばめはその度に機転を利かせた言葉を返し、男たちはすぐに引き下がった。


「よくあんなに速く断り文句が出せましたね」


「正直に言えばよかったのか?あっちへ行け、失せろと。逆上されたら面倒だ」


 ナンパ目的で迫られることはあっても、最後までつばめに気がつく者はいなかった。みのりの選んだ服がこれまでのつばめのイメージとは全く異なるものだったことも大きな要因だった。



「強引に見えるほど勇敢に前へ出るべき時もあれば、臆病に思えるほど慎重に動くべき時もある。監督として成功と失敗を繰り返すうちに学んだよ」


「……たった2ヶ月では学ぶには短すぎます。つばめさんはまだ監督を辞めてはいけません。逆転の道はまだあります!」

 おくちにいれたい ブックマークしたい


 全然10分でついてないやん

 うそつき

 今日高評価確定な

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