夏の少女
『今回の解任騒動、金玉川さんはどう思われますか?』
『プロ野球はスポーツですが興行ですからね。せっかく盛り上がっていたのに水を差されたような気がしますよ。その一方で勝利よりもチームの和を重視するという考えも納得できますし……』
どのテレビ局でもつばめの解任について報じていた。再放送のドラマや通販番組を休止してニュースの時間を延長、議論を続けている。
『この点で日本も先進国である韓国や中国を見習ってですね……』
『あんたはそればっかりだな。いいか、プロ野球はリトルリーグとは違うんだ。楽しければいい、そんな甘い考えのやつはいないんだよ』
これまでは野球に詳しくない人々がつばめを褒め称え、元プロの解説者たちがつばめを厳しく評価していた。ところが今は逆転し、野球に詳しい者たちがつばめを擁護してペンギンズを批判した。
「どこを見てもこれか……横綱に謝りたいな」
ペンギンズが15日間懸賞を出した大相撲は昨日が千秋楽だった。つばめが応援する横綱が全勝優勝を飾り、本来ならその偉業がもっと大きく扱われるはずだった。
「人のことを気にしている場合ではないような……」
「こんな時だからこそ視界を広げたほうがいい。見えていなかったものに気がつくぞ」
相変わらずつばめはのんびりとしている。当初の予定通り休日を満喫し、英気を養うつもりのようだ。
『ペンギンズにはペンギンズの考えがあるのでしょう。他のチームの方針に口は出しません』
『これで元通り弱いペンギンズが帰ってくる。戦いやすくなったけど、残念だよね』
コメントを求められた各球団の監督の反応は様々だ。確実に勝ち越せるチームの存在はうれしいが、プロ野球バブルもこれで終わりだ。球界全体の繁栄を考えたらつばめの解任は痛恨だった。
『小澤選手、すでに知っていると思われますが……』
『ああ。俺の妻は落ち込んでいるから慰めておいたよ。まだベッドで寝ているよ』
小澤流の冗談に記者たちは倒れそうになった。こんな時に妄想を語るのだからこの男はとんでもない大物か大馬鹿のどちらかだ。
『渡辺選手!因縁のつばめ監督が……』
『ハハハ……ようやく世の中が真実に、正義に目覚めた。この渡辺ジュンに勝てなかった悔しさを抱えながら残りの人生を静かに過ごすといい』
つばめにノックアウトされた渡辺は、都合の悪いことをすぐに忘れる男だった。リベンジを受けて立つ側であることを終始強調していた。
「ふふふ……どいつもこいつもくだらない言葉ばかりだ。こいつらから得るものは何もないな」
つばめは立ち上がった。そしてみのりにも立つよう促す。
「出かけるか。せっかくの休日だ、遊びに行くぞ!」
「………えっ?ですが外に出るなとおじい様が……」
敵や第三者だけでなく、味方の言葉すらつばめは無視する気だ。誰もこの女を縛ることはできない。
「バレなければ構わないだろう。ユニフォームを着ていなければ私の正体なんか……」
「人が殺到すると思いますよ。毎日のようにテレビや新聞、ネットを騒がせていますからね」
記者会見、移動中など公の場ではずっとユニフォームを着ていたので、私服ならわからないとつばめは言う。みのりは疑ったが、それ以前の問題があった。
「つばめさん……ユニフォーム以外の服、ありますか?見たことがないような……」
「……パジャマしか持ってきていないな」
持参したペンギンズの応援グッズを漁っても、選手のレプリカユニフォームや法被しかない。こうなると逆にみのりのやる気が出てきた。
「私の服を着ましょう!誰にも気がつかれないような、つばめさんのイメージとは全く違うコーディネートを用意します!髪型も変えれば完璧です!」
「………急にどうした?まあいい、頼む」
みのりも祖父の言いつけを軽んじ、新たなつばめの誕生へ向けて張り切った。すでにつばめよりも外出に乗り気になっていた。
「ふむ……暑い日にはこんな薄手の服もありか。制服以外でスカートなんか履いたのは初めてかもな」
明るい色のキャミソールとスカート、髪は結わえていない。普段のつばめとは全く違う夏の少女が完成し、サングラスで目を隠す必要はなかった。
「いつもはクールなつばめさんがキュートになりました!素材がいいから何を着ても似合いますね!」
実は家を出る前に何度か着替えている。つばめが自分に合うものを探すというよりは、みのりがファッションショーを楽しんでいた。
「何を言っている。あなたのような美女に比べたら私なんかおまけにもならない」
「び…美女だなんて……」
「私は誰からも声をかけられないとしても、みのり目当てで男どもが近寄ってくるかもしれない。記者やファンよりも気をつけるべきだな」
互いに褒め合うが、赤くなるのはみのりだけだった。色んな意味でつばめは強者だ。
「どこへ行きましょうか?お昼ですが……」
「そうだな……駅に行こう。それから空港だ。誰も私に気がつかないか、面白いゲームになるぞ」
まさかの提案だった。人の多い場所に自ら向かい、スリルを楽しもうとしている。
「……わかりました。行きましょう」
ボディーガードなしの危険な冒険になる。しかしみのりは反対せず、つばめの案に乗った。先が見えなくなったことで自棄になり、つばめと2人ならどうなってもいいという気持ちになっていた。
『いきなりの解任劇に街の人々は何を思うのか!つばめ監督の追放に賛成か、それとも反対か……調査を行っていきます!』
「さっそく見つけたぞ、面白そうなやつを」
賛成なら赤いシールを貼り、反対なら青いシールを貼る。ニュース番組の街頭アンケートだ。その最初に本人が現れるとは誰が予期できるだろうか。
『お時間があればぜひ……』
みのりはすぐに青いシールを手に取り、剥がれないように力強く貼りつけた。
「うーん……迷いますね」
一方でつばめはどちらにしようか考える演技をしながら、最終的には青のシールを手にした。声も変えたので、テレビのスタッフたちはつばめの正体を見抜けなかった。
『まずは2対0、反対派がリードです。それではそちらのお嬢さん、意見をお聞かせください』
みのりにマイクが向けられた。迷いながら選んだつばめよりも、すぐに決めたみのりのほうがはっきりとした考えを持っていると思われたのだろう。
『なぜ解任に反対なのか……うおっ!』
アナウンサーのマイクを奪い取り、みのりはカメラの前に立つ。大演説が始まろうとしていた。
『東京グリーンペンギンズは愚かな決断をしました!12球団で最も有能な監督を追放し、ペンギンズを再び無価値なチームに変えようとしているのです!』
「そーだそーだ!」 「その女の言う通りだ!」
通行人が立ち止まり、人集りができた。つばめは黙ってその様子を見ているだけだった。
『誰よりもペンギンズを愛し、ペンギンズを強くすることができる正一つばめ監督を解任する者たちには必ず災いが起こります!偽善者たちの悲惨な滅びは間近です!』
「滅べ!滅べ!」 「地獄へ落ちろ!」
みのりに煽られた人々が次々と青いシールをボードに貼りつける。赤いシールを燃やせと叫ぶ者まで現れた。つばめとみのりがその場を離れても騒ぎは収まらなかった。
『ひゃ……100対0……圧倒的です!』
「解任を撤回しろ!」 「監督を戻せ!」
身の危険を感じた撮影班は逃げようとしたが群衆に囲まれ、狂乱の生中継が続いた。
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