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つばめ解任

 その会見は深夜3時、異例の時間に行われた。リアルタイムで視聴した者の数は少なかったが、その後何度も繰り返し流されたので、皆が衝撃的なニュースを知ることになった。


「つばめさん、これは……」


「……………」


 当時者であるつばめが知ったのは10時過ぎだった。みのりと共に会見の映像を確認した。




『本日、我が東京グリーンペンギンズは正一つばめ監督の解任を決定しました。正式な手続きはこれからですが、この場を借りて皆様に報告いたします』


 会見の席には3人の男が座っていた。球団社長の神宮寺(じんぐうじ)大川(おおかわ)ゼネラルマネージャー、そして元ヘッドコーチで二軍の用具係に左遷させられていた嶋田の3人だ。



『18歳の女性、しかも素人をプロ野球球団の監督にした前代未聞のスキャンダル、それに伴い世間を大いに騒がせたことをお詫びさせていただきます』


『なぜいま解任の決断を?もっと早く辞めさせることも、そもそも就任させないこともできたはずですが』


『彼女を監督にしたいオーナーとその派閥の力が強く、なかなか動けませんでした。そしてオールスター休みのこの期間が一番混乱を最小限に食い止められると判断しました』


 前半戦終了直後の深夜、これが社長たちの考えた最善のタイミングだった。つばめや対抗勢力を完全に出し抜いた。


「なるほど……オーナーと球団社長の権力争いか。こんなことだろうと思ってはいたが」


「……!」


 つばめが度々『いつ辞めさせられるかわからない』と話していた意味をみのりもようやく理解した。



『正一監督はチームを立て直し、成績を上げています。それなのに解任する理由は……』


『目に余る素行不良です。ベンチでの態度、選手たちへの威圧的な接し方、記者の皆さんに敬語も使わない……それだけでも十分な理由になります』


『彼女のせいでチームは殺伐としています。レギュラー争いを必要以上に煽るので仲間が敵になってしまい、空気はとても息苦しいです。二軍の選手もギラギラして、健全とは言えない状態です』


 真偽をうまく混ぜ、誇張した表現も使う。社長や大川の話術は巧みで狡猾だった。


「嘘だろ……監督が……」


「つばめちゃん……」


 ほとんどの選手やコーチにも知らされず、この会見は開かれた。若手たちはもちろん、能登や池端といったベテランも寝耳に水だった。当日まで極秘に準備が進められていた証だ。



『プロ野球は実力主義であり勝利を第一に求めるのは当然では?』


『……東京グリーンペンギンズは家族のような集まり、ファミリーチームであることを目指してきました。勝利より大事なものがある、それを正一監督は理解していませんでした』


『ある選手たちは6月の段階ですでに戦力外とみなされ、二軍でも雑な使われ方をしています。お前はプロ野球選手に向いていない、今年限りで田舎に帰れ……監督に罵倒されて心が折れている選手もいました。これはペンギンズのチーム方針に反しています』


 数日前、二軍の一部の選手にだけつばめを辞めさせる計画を知らされ、彼らはそれに協力した。つばめに酷いことを言われた、チャンスを貰えず不当に干されたと証言する役で仲間に加わった。


「私がいなくなればやつらへのクビ予告は反故になる。やつらがこの話に乗るのは当然だし、乗らないほうが大問題だ」


 プロ野球選手として生き残りたいという当たり前の気持ちを利用されただけだ。選手たちは悪くない。断れない立場の者を駒として使う社長たちはずる賢いやり方に長けている。




『もう7月です。後任の監督は置かずに監督代行を内部の誰かが務めることになりますか?』


『今回は休養ではなく解任ですので、新監督を用意しています。ここにいる嶋田博元(ひろもと)です!』


 国村と入れ替わる形で二軍の用具係になっていた嶋田が監督になるとGMは言う。元々嶋田は次期監督のポジションにいたので、ありえる話ではあった。


『彼は正一監督の無茶苦茶な采配に異を唱えたせいで不当にも配置転換させられてしまいました。本来の居場所に戻すのが最善でしょう』


「ふふっ……妙だな。彼は自分で申し出たのに」


 事実が捻じ曲げられている。しかし圧倒的な権力を持つ者たちから脅されたら、球団関係者は選手から裏方に至るまで全員黙るしかない。家族を養えなくなる。



『私が監督になったらすぐに荒れたチームを元に戻します。一発狙いの雑な野球をやめて、確実に1点を取りに行く丁寧な戦術を教え直します』


『丁寧な戦術……と言いますと?』


『送りバントやエンドランなど、走者を先に進める攻撃です。2番には小技ができる器用なバッターを置き、秦野や池村にもバントのサインを出します。そもそも守備力が一定のレベルに達していない選手は使いません』


 つばめの改革をなかったことにして、前監督の高塚と嶋田が目指していたチームに戻すと宣言した。大きな欠点はないが長所も少ない、小さくまとまった選手たちを重用していく構えだ。


『経験の浅いルーキーとベテランピッチャーは中10日で先発させます。ゆとりのあるローテーションで最高のピッチングができるように助けます』


(………こいつは駄目そうだな)


(典型的な無能監督だ)


 会見場に集まった記者たちは、嶋田監督がチームを再び暗黒に戻すと確信した。うまくいっていることをわざわざ変えて自分の色を出そうとするとまず失敗する。スモールベースボールと中10日ローテは今のペンギンズとは明らかに相性が悪く、皆を呆れさせた。




『そしてファンの皆様には嬉しいお知らせです。活動休止状態だった旧パフォーマンスチームを復活させます!レベルの高い歌やダンスが帰ってきます!』

 

 16人中12人が脱退し、崩壊した旧チーム。つばめに反発して仕事を放棄した彼女たちは、つばめがいなくなれば戻ってくるようだ。


『今のチームはどうなるんですか?以前よりもファンの反応がよく、大好評ですが……』


『珍しいだけです。質そのものは低いのですぐに飽きられるでしょう。よって今日限りで解散します。すでに契約してしまったので違約金は支払います』


 つばめが集めたも同然の新チームは、つばめの解任と共に終わりを告げる。このメンバーたちもそれぞれの場所で今日知った。球団からの連絡はまだない。


「えっ……そんな!」


「ふざけた真似しやがって……」


 球団社長は違約金を支払うと約束したが、金の問題ではない。家や故郷を離れて東京に来た者もいるだけに、簡単に終わらせるべき話ではなかった。




『つばめ監督がペンギンズにもたらした経済効果は計り知れません。球界全体を活性化させ、野球人気は爆発しています。それでも辞めさせるというのは……』


『球団にとっては大損です。それでも大切なものを守るためにはこうするしかありません。チームを、そして野球界を正すために自らの身を犠牲にする私たちの強い決意と覚悟、どうか理解してください』


 3人は同時に頭を下げ、カメラのフラッシュが眩しく光った。女子高生監督の快進撃は誰も予想できなかった形で突如終焉を迎えたと、各テレビ局は予定を変更して一斉に報じた。

 神宮寺……ペンギンズの球団社長。野球界のためにつばめを解任すると語るが、真相は不明。


 大川……ペンギンズのゼネラルマネージャー。自らの地位を守るために社長側につく。


 

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