第1話 はじめまして
「悪魔戦争」
なんでも、どんな願いでも一つだけ叶えてくれるらしい。
でも、戦争と名がついているようにこの企画?の内容は殺し合いだ。参加者同士で殺し合いをする。ここまでが予選。
そして参加者が残り7人となったところで、参加者の欲望に応じた悪魔を召喚し、使役する権利が与えられる。そして、この7人で殺し合いをし、生き残った最後の1人に願いを叶える権利が与えられる…らしい。
正直、よく分からない。
人を殺してまで叶えたい、そんな欲望が、願いが自分にあったのだろうか?
いや、よく分からないのではない。
僕という人間は、記憶を失っているらしい。
何も思い出せない。気がついたら、ベットに寝ていた。
不思議なことに、記憶が無いことに焦りも恐怖も不安もなかった。
しかし、喜びも怒りも、何も無かった。
ベットから起きてまず…僕がしたことは部屋の探索だ。記憶を少しでも取り戻したかった。
記憶はないのだが、文字を読む能力や知能は失われていなかったらしい。
部屋の探索途中、机の上に日記らしきものがあった。最新のページに『悪魔戦争』とやらの容貌が書いてあった。
それが最初に得た情報だった。 残念ながらこの日記には叶えたい願いとやらは書かれていなかった。
そして、気になっていることがもうひとつある。
それは床に刻まれた幾何学的な模様だ。白いチョークなもので書かれたのだろうか?当たり前だが、書いた記憶はなかった。
怪しすぎて、逆に調べていなかった。
「なんだろう…これ」
僕はなんとなく、その幾何学的な模様に触れた。
触れた途端、床の模様は白く光った。
あまりの眩しさに、目を閉じる。
そして、聞こえてきたのは男性の声だった。
「お前が、【傲慢】に選ばれし魔女か?」
その声に目を開け、見上げると、美青年が模様の上に立っていた。
白く、長いウェーブがかかった艶やかな髪、彫刻のような美しい身体と顔。真っ赤に染る紅の目。そして、黄金に輝いている頭の上にある輪っかと、白く強かな片翼の翼。
まさに、完璧な天使。
頭の上から垂れて、顔にまでかかっている黒い泥のようなものがなければ、の話だが。
よく見ると翼にも垂れている。床に落ちそうになった瞬間に泥は塵となって消えていた。輪っかにはヒビが入っている。俗に言う堕天使なのだろうか?
その堕天使?は美しい顔を顰め、イラついた様子であった。
「…もう一度、問うてやろう。貴様が傲慢に選ばれし魔女か?」
「傲慢に選ばれし魔女…?というのはよく分かりませんが、貴方をここに呼んでしまったのは僕です。」
僕がそう返答すると、彼はより顔を顰め、忌々しそうに舌打ちをする。
「貴様が…?」
「はい。」
「…質問をする。嘘偽り無く、正確に答えろ。」
「分かりました。」
彼からは、裁判長のように厳格で、冷たく残酷なオーラが滲み出ている。
まるで裁かれている気分だ。
僕が模様に触れるためにしゃがみ、彼が立っているいるのもあり、彼から絶対零度の眼差しで見下されている。
「貴様は、人を殺したことがあるか?」
「記憶にないです。」
「…次だ。貴様は自分が傲慢と思うか?」
「記憶がないので答えることが出来ません。」
「………貴様の名は」
「覚えていません。呼ぶ時は人間で大丈夫です。」
先程までの厳格なオーラが、呆れとイラつきに変わる。冷たい眼差しは変わらないままだか。
そしてそのオーラが殺意に変わる。
「殺してやろうか?」
「お好きにどうぞ。」
「………」
殺したいのならば好きにすればいい、僕はあなたの自由を縛るつもりはない。そう伝えると、彼は先程よりも大きい舌打ちをし、付き合ってられるか、と言いたげにそっぽを向いてしまった。
何やらブツブツと呟いているが、内容が聞き取れない。殺気も消え、また怒りと呆れに変わっている。もう質問は終わりなのだろうか?
彼から問われた質問は、僕自身も知りたいものであった。
この戦争に参加している以上、1人は殺している可能性が高い。傲慢な性格かどうかはどうでもいいが、名前はこれから先、必要になるだろう。
僕は彼を無視して探索を再開した。
床の模様は消えている。彼を読んだ際に消えたのだろう。
そういえば、日記を全て読んでいなかったな、と思い日記を再度調べる。
日記は所々破れ、内容は支離滅裂。日記と呼んでいいのかすら危うい。
偶に読める箇所には『クリス』、『殺す』、『イライラする』というものが書かれていた。
特に『クリス』という名前は多く見られた。
おそらく、この人間は『クリス』というのだろう。
そして、最後のページには両親を殺した、という内容が記されていた。
彼からの質問に答えるには充分な情報だ。
未だにブツブツ言っている彼に、質問の答えを渡す。
「質問に答えます。1つ目、人を殺したことがあるかどうか。答えはあります。」
「…」
「2つ目、傲慢かどうか。これに関しては不明のままです。でも、怒りっぽい性格してたらしいです。そして最後ですが…」
そっぽを向いたままの天使に対し、僕は彼の目の前に移動する。そして彼と目を合わせたまま最後の質問に答えた。
「今の僕の名前は『クリス』ということにしました。
―はじめまして。天使さん。」
天使さん、と呼ばれた男は、3度目の舌打ちをした。
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