2の冪
3匹のバグが死んだように眠っている。
バグのステータスを閲覧してみる。
飛び回っている時にはそんな余裕はなかった。
――――――――――――――――
名前 フライ
――――――――――――――――
LV 1
属性 悪
――――――――――――――――
分類 バグ
性別 不明
年齢 不明
――――――――――――――――
電池 100%
状態 休止
――――――――――――――――
3匹とも同じステータスだった。
属性は悪。
やっぱり、こいつらが悪いやつなのか。
「おーい。ケット・D、起きて」
安峰さんはケット・Dを揺り起こしている。
「あれ? なんで吾輩はこんなところで寝て――って、また貴様の仕業か!」
「ちょっと手が滑っちゃってさ。でも、バグを3匹とも眠らせたよ」
「ようやくかよ」
「褒めてよ。頑張ったのに――」
「まあ、最初だから褒めてやるか。よくやった」
「サンキュー」
「そうしたら、彩輝はバグを〈タイムボム〉で弱らせてくれ」
「目を覚まさないかな?」
僕はケット・Dに尋ねた。
「さすがに目を覚ますだろう。飛び回ることはないと思うが、念のため流伽は〈スリープ〉の準備をしておいてくれ。もう1度、眠らせた方が安全だ」
「準備オッケー」
「じゃあ、投げるよ」
僕は眠り込んだバグに爆弾を投げた。
爆弾はバグのすぐ近くに転がった。
完璧な位置じゃないか。
まあ、実は2投目なんだけど。
1投目はバグに当ててしまいそうになって、慌ててキャンセルしたのだ。
スマホのライトが点滅し始める。
3秒後にチュドーンと爆発が起きてバグがすっ飛んだ。
仰向けになったバグが6本の肢を痙攣させている。
安峰さんがもう1度〈スリープ〉でバグを眠らせると、また動かなくなった。
〈スタット〉を使ってみると、ステータス表示が黄色になっていた。
――――――――――――――――
名前 フライ
――――――――――――――――
LV 1
属性 悪
――――――――――――――――
分類 バグ
性別 不明
年齢 不明
――――――――――――――――
電池 20%
状態 休止
――――――――――――――――
さっきまで100%だったバグの電池が20%まで減っている。
ひょっとしなくても、電池はHPに相当する値なんじゃないだろうか。
「さあ、流伽。〈アタック〉でとどめを刺すんだ」
「あたし、触りたくないんだけど――」
「そんなこと言ってるとLVが上がらないぞ。LVが2ⁿになるたびに新しいアプリがインストールされるから、それに期待することだな」
「2ⁿって何?」
「流伽。貴様、本当に高校生かよ。累乗だよ。中学で習っただろうが。2ⁿは2をn回繰り返しかけた数だよ。2¹は2。2²は2×2で4。2³は2×2×2で8――みたいな感じだよ。そのLVになると新しいアプリがインストールされるわけ」
「そうなんだ? なんて、あたしもさすがに累乗くらいは知ってたけどさ。今のは知らなかった子のためにケット・Dに説明してもらっただけで」
「誰だよ、知らなかった子って。まさか、彩輝か? 貴様、真面目そうに見えて、実は流伽よりもアホの子だったのか?」
「いや、安峰さんの方がアホだって! 数学なんて毎回赤点だし!」
強く否定し過ぎた僕は、安峰さんに小突かれる。
「ぶつよ」
「もうぶたれたんだけど――」
「まあ、時枝でもないんだけどさ」
「彩輝でもないとなると、そうしたら知らなかった子っていったい――?」
ケット・Dが考え込むように、肉球のある手をゴロゴロいう顎の下にあてた。
安峰さんはカメラ目線になる。
「物語の都合上、この先も累乗だけは出てくるよ。知らなかった子は今のうちにバッチリ抑えておいてね!」
安峰さんが右手の人差し指を立てながらウインクをする。
「流伽。貴様、いったい誰と話しているんだ? それに、そんなキャラじゃなかっただろうが――」
確かに安峰さんのキャラなら立てそうなのは中指だけど。