固有アプリの使い方
「それで〈スリープ〉はどんなアプリなの?」
「〈スリープ〉もカメラ系のアプリだから〈スタット〉と一緒だ。フォーカスを当ててボタンを押せばいい。それだけで相手は眠る」
「普通にすごくない? 試してみていい?」
そう言った安峰さんは、ケット・Dの答えを聞く前にすでにボタンを押してしまっていた。
ケット・Dが立ったままガクンと眠りに落ちる。
「うわ。本当に眠っちゃったよ。もしもーし」
安峰さんがケット・Dの体を揺り動かしてもケット・Dはなかなか起きない。
それでも、しつこく耳を引っ張ったり、髭を引っ張ったり、尻尾を引っ張ったりしていると、ケット・Dはようやく目を覚ました。
「流伽。貴様、吾輩に何しやがる」
「いや、本当に眠ると思わなくて」
「――ったく。少しは考えてから行動しろよ」
ケット・Dは安峰さんに愛想を尽かした様子で僕の方を向いた。
「それで、彩輝の方は何がインストールされたんだ?」
「〈タイムボム〉っていうアプリ」
「〈タイムボム〉か。さては彩輝。貴様、負の感情をため込んで爆発するタイプだな? まさか、まだ吾輩に怒っているのか?」
「別にもう怒ってないよ。適当なプロファイリングやめてよ。それより、どうやって使うの?」
「クロック系のアプリだ。アプリを開くとタイマーが表示される。デフォルトは5秒だ。開始ボタンを押すとカウントダウンが始まる。爆発の3秒前にはライトが点滅して教えてくれる。ボールを投げる感じでスマホを振れば爆弾が飛び出す。投げないでいると自爆するから注意しろ」
「ちなみに、どのくらいの威力?」
「危害範囲は1メートルくらいかな。万が一、自爆しても1発や2発で死ぬことはない。一応、キャンセルもできるから、投げた後で失敗したと思ったらキャンセルするといい。投げた後だとクォータは減るけどな」
「試しに校庭に投げてみていいかな?」
「無駄になるからやめた方がいいぞ」
「なんで? 屋上からワームを倒した方が安全じゃない?」
「ワームを倒す方法を教えるとは言ったが、実はワームを倒しても意味がないんだよ。それに善良なワームだっているし。今回、倒さなくちゃいけないのはバグだ。ワームが1か所に集まって地面に巨大な大穴を開けることがある。ワームホールというんだが、バグはその中から出てくる。そいつを倒すんだ。それでワームホールは閉じて、ワームもいなくなる。さあ、下まで降りてワームホールを探すぞ――」
屋上からエスカレーターを駆け下りて、僕たちは1階を目指す。
エスカレーターを乗り継ぐための踊り場に1匹のワームがいた。
「キッショ――キッショ――」
低くボソボソと呟くような誰かの声。
どうやら、それがワームの鳴き声らしい。
僕は〈スタット〉を開いてワームにカメラを向けてみた。
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名前 アンチワーム
――――――――――――――――
LV 1
属性 善
――――――――――――――――
分類 ワーム
性別 不明
年齢 不明
――――――――――――――――
電池 100%
状態 正常
――――――――――――――――
「アンチワーム――。属性が善になってるけど、これが善良なワーム?」
「そうだ。他のワームを食ってくれる。まあ、厳密には自分よりLVが低い相手を見つけると集団で襲いかかる性質を持っているだけで、ワーム以外も食うけどな。吾輩も何度齧られたことか――。だが、貴様らがいれば大丈夫だ。無視して行くぞ」
ケット・Dの言葉通り、ワームは僕たちが近付くと後ずさりして、エスカレーターを転がり落ちながら逃げていく。
「チクショウ――チクショウ――」
1階まで下りた僕たちは、ワームをすべて無視して廊下を駆け抜けた。
上履きのまま校庭に出ると、さっそくワームが集まっている場所を見つけた。
ワームホールを開けているのかと思ったら、1匹のワームを取り囲んで集団で噛みついているらしい。
「キッショ――キッショ――」
「キッショ――キッショ――」
「キッショ――キッショ――」
〈スタット〉で見てみると、取り囲んでいるのはアンチワームだ。ツールチップにそう表示されている。
取り囲まれているワームは――。
――――――――――――――――
名前 マイナーワーム
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LV 0
属性 中立
――――――――――――――――
分類 ワーム
性別 不明
年齢 不明
――――――――――――――――
電池 64%
状態 正常
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見た目は一緒だが、マイナーワームという別のワームだった。
アンチワームよりもLVが低いから攻撃されているのか。
「助けなくてもいいの? 属性は中立だけど――」
「マイナーワームだろう? ほっとけ。あれが集まるとワームホールを開けるんだよ」
「なるほど」
攻撃されている方は害虫なのか。