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SOS

「とりあえず、2人ともスマホに〈SOS〉をインストールしてほしい」

「何のアプリ?」


安峰さんが尋ねるとケット・Dは「アプリじゃなくてOSだ」と答えた。


「〈SOS〉のアカウントは必ず実名で登録する必要がある。貴様らの氏名と生年月日を教えてくれ」

「あたしは安峰流伽。2019年5月4日生まれ」

「僕は時枝彩輝。2020年6月10日生まれ」


ケット・Dがスマホを操作する。


「オーケイ。一意に特定できた。今、2人分のライセンスを発行したぞ」


ケット・Dがそう言った直後、突然、僕のスマホが震えて起動を始めた。

安峰さんのスマホも同じらしい。

さっきまでウンともスンとも言わなかったのに。


「画面の指示に従ってインストールを完了してくれ」


最初に画面に表示されたのは長文の英語だった。


どうやら、〈SOS〉の利用規約のようだった。

だが、英語の授業では習わない法律関係の難解な用語や言い回しがされていて、正直、利用規約に何が書いてあるのか、僕にはほとんど理解できなかった。


「どうかしたか?」

「いや、利用規約の英語が難し過ぎて読めないんだけど、要約してもらえない?」

「あ? 吾輩なら2ミリ秒で読めるけどな。出動義務とか守秘義務とか――免責事項とか。まあ、そんなありきたりの内容だ」


どうもケット・Dの歯切れが悪い気がする。


ひょっとすると、これは何かの罠なんじゃないか――と僕は疑い始めた。

このユーモラスなデーモンこそが実は基底世界からの侵略者で、あのおぞましいワームの方が救世主という可能性もあるんじゃないか――?


そう。

この時、もしもデーモンではなくワームの方に助けを求めていれば――。


僕たちは無事、ワームに寄生されてゾンビになっていただろう。

危なかった。


「インストールしたよ」と安峰さんが言った。

「ちょっと待ってろ。こいつがまだインストールしていない」

「まだなの? 早くしなよ」


安峰さんに急かされて、僕はしぶしぶ利用規約に同意した。

〈SOS〉のインストールが始まる。

すると、さきほどとは比べ物にならないほどの頭痛が同時に始まったのだ――。


「おい。大丈夫か? 様子がおかしいぞ――?」


ケット・Dが心配そうに言う。


「まさか、ゾンビになるんじゃないだろうな?」

「――ゾンビ?」


安峰さんが聞き返す。


「ああ。利用規約に書いてあったと思うが、〈SOS〉の歩留まり率は99%で、残りの1%にはワームが混入している。だから、運の悪いやつはワームに寄生されてゾンビになっちまう。いわゆるゾンビプロセス症候群だ」

「どういう理屈で? というか、そういうことは先に言いなさいよ!」

「吾輩は先に言ったぞ。免責事項があるって」

「ゾンビって単語を出しなさいよ! 全ッ然ありきたりじゃないじゃん!」

「出したら貴様ら、絶対にインストールしないだろうが!」

「当たり前でしょ!」

「そうしたら、誰が世界を救うんだよ!」


2人が言い争う声が頭にガンガンと響く。

保健室でも思ったが、安峰さんは同級生相手でなければ結構多弁になるらしい。


ゾンビになる前に彼女の意外な一面を知れてよかった。

いや、よくないけど。


「うう――」


堪らず僕は呻き声をあげる。


「ゾンビなの? ゾンビになっちゃうの?」


安峰さんがケット・Dの陰に隠れる。


「吾輩にもわからん。まだ、実際にゾンビになっちまった運の悪いやつを知らん」

「時枝がゾンビなっちゃったら、どうすればいい?」

「流伽が倒すしかないな。吾輩は弱いから戦えないし」

「あんた、無責任すぎない?」

「実際、免責されているしな」

「これとか効いたりしないかな?」


安峰さんがブレザーのポケットから錠剤を取り出した。

保健室で僕によこそうとしたやつだ。


「ノートンAI頭痛薬じゃないか! それなら効くかもしれん」


僕は救いを求めるゾンビのように安峰さんに手を伸ばす。


「ほい。水ないけど」


安峰さんは、その手のひらの上空から錠剤を落とす。

僕の手には触れたくもないらしい。

ゾンビになるかもしれないと言わていれば仕方がないけれど、さすがに少し傷つく。


涙と一緒に錠剤を飲み込む――。


すると、嘘のように頭痛が収まってしまった。


「効いたの?」

「なんか効いたみたい」


もう少し遅ければ、本当にゾンビになっていたんだろうか。

僕はケット・Dを軽く睨む。


「吾輩は悪くない! 悪いのは貴様の運だからな!」


そんな言い訳をするケット・Dの耳を僕は引っ張ってやった。

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