理想郷
この世で罪を犯したことの無い人は恐らくいない。
「私はしたことがない」
と言い張る輩もいるだろうが、それは覚えていないだけ。
例えば小さい頃に蟻の巣を穿ったり、水を流したり、小さな小さな嘘を付いたり。
この世に存在していたとされる或る救世主だとしても自身の説いた教えが彼の知らない未来で多くの人を救っている一方、多くの人を死に追いやっている。
罪を犯した人間を加害者とするとその逆の立場の人間は被害者である。被害を受けたものが1番嫌なのは、加害者が罪の意識を持っていないことであろう。
これ程たちの悪いものはない。ところで私が今長々と良く分からないことを言っている理由は、現在私がこの状況下にいるからである。
この状況というのは、私が被害者であり決して加害者側ではない。
◇◇◇
私は今閉じ込められている。外には野原一面に花畑が広がっていて窓からは、日の明かりが20畳程の広々とした部屋を照らしている。
ここにはキッチンが付いており、トイレやシャワーも別々にある。
「こんな良い場所にいて閉じ込められているという嘘を付くな」
などの声が聞こえそうだが、私は誰が何と言おうと閉じ込められていると断言する。
今までは城下町に住んでいたのだがこのような場所を一度も見たことがないのだから。
私はまずベッドから体を起こし、布団を整えて朝のシャワーを浴びた。最初は何が何だか分からず困惑していたが、最近はこの生活にも少しは慣れてきてこのように自由にしている。
城下町にいた時は、仕事だの、ご近所付き合いだの、やれ不況だの、これまでの生活に辟易していていた所だったのだ。
そうこうしているうちに奴が来る時間になった。
彼女は何の前触れも無く玄関の扉を開けて入ってくる。