第三話:こんにちはファンタジー、こんにちはモーガン・フリー○ン
フリートークのコーナー!
にょにょ市にお住まいの○◎さんからのお便りです。
え~、さっさと本編始めろ?
あ、はい。
では、スタート。
辺りはもうすっかり暗くなっていた。
月が夜の闇を照らし出してくれている。
「もうすぐ着きまちゅからね~」
そんな赤ちゃん言葉を使いながらマリンさんはなでなでと俺の頭を撫でまくった。
かなり恥ずかしかった。
「あの、陵聖学園は日本のどこにあるんですか?」
「うふふ~」
「えーと・・・」
「うふふふ~」
なんだこの笑みは?
「さあ到着よ~」
そう言ってマリンさんは車から降りた。
続いて俺も車から降りた(運転手さんに無理矢理降ろされた)。
着いたと言われた場所は閑散としたなにもない丘だった。
普通なら安全のために柵が設けられている場所にも柵がない。
街を一望できる高さだったし、実際に街を一望した。
夜の闇に輝くネオンの光が、人々の生活感を感じさせてくれた。
しかしここがどこなのかわからなかったので感動三割、不安七割だった。
そんな俺の心情を知ってか知らずか、マリンさんはニコニコと笑い、肩をポンと軽く叩いて言った。
「さあ~、行きまちょうねぇ~」
「は?」
「お姉さんね~、実はもう大変疲れちゃったのです~。だから~、早く楽になりたいのよ~」
言ってマリンさんは俺の手を取り微笑んだ。
「恥ずかしがらずにお姉さんと一緒に行ってくれるよね~?」
言って、マリンさんはゆっくりと一歩ずつ歩き出す。
向かう先は安全柵のない切り立った丘の先だ。
「い、行くって・・・まさか・・・違いますよね?」
「うふふ~、心配しないでね~。怖いのは初めだけだから~」
行くってのは、逝くってことか!
「ちょっと待って! 考え直そうよ! 人生長いんだしこれから先にきっといいことがあるよ!」
「うーん・・・竜ちゃんなに言ってるの~?」
「だから・・・」
「お姉さん疲れたから早く楽になりたいんだけどな~」
逝ってたまるかっ!
「いいからちょっとこっち来て!」
「もう~。竜ちゃんワガママさんね~? しょうがないな~。お願いしま~す」
「へっ?」
いつの間にか俺の背後にはさっきの運転手さんがいた。
(覚悟はよいな?)
(覚悟とはなんの覚悟でしょうか?)
(主をここから叩き落す)
(どんな命乞いをしても駄目ですか?)
(フッ・・・)
「それじゃあお姉さんは先に行ってるからね~」
命は大事にー!
「嘘っ!」
本当に逝ってしまった。
思わず腰が抜けてその場にへたり込んだ俺の両脇を運転手さんが、がしっ! と、掴んで高らかに持ち上げる。
「へ?」
次いで猛り狂った咆哮を発して俺は投げ飛ばされた。
「おんどりゃー!!!!!!! 死にさらせー!!!!!!!!!!」
ええーっ! わたくしあなたさまになにか粗相を働いてしまいましたかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
ああ・・・。
逝った。
完全に俺は逝った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
あれ?
どこも痛くない?
つーか・・・ここどこ?
いつのまにか俺の周りには綺麗にライトアップされた桜の木々が、誇らしげに何本も並んでいた。
その光景はさながらロウソクのようだった。
暗闇を桜が照らし出してくれている。
「こんなところでなにをしている」
突然、美しい川のせせらぎのように澄み切ったソプラノボイスが聞こえてきた。
俺は声の主を探そうと辺りを見渡してみたが誰もいなかった。
「なにをしていると聞いている」
おそらく女性であるだろう声の主は抑揚のない声で再度聞いてきた。
「答えないのなら敵とみなして排除する」
排除?
ええーと、この場合の排除というと、あなたを殺しますよってことなのかな?
いや、いくらなんでもまさか・・・。
「アイスダンス」
驚いた。
ソプラノボイスがそう言った瞬間、俺の周囲を踊り子の衣装を身に纏った五つの人影が現れた。
しかしそれは人ではなかった。
人のように見えるが、身体からは心まで凍て尽くされそうな冷気を放出している。
それらは一体一体が意思を持っているかのように俺を睨みつけた。
「警告だ」
また声が聞こえてきた。
「ここでなにをしていた。答えなければ容赦はしない」
これは魔法なのか?
こんな魔法見たことないぞ!
こんな・・・。
「答えないか・・・」
いまにも殺されそうだってのに俺は魔法で創られた氷の|傀儡≪くぐつ≫たちにみとれていた。
殺されるかもしれないという恐怖よりも俺の心は美しい芸術を見たときのように感動していた。
「と、藤堂竜也!」
咄嗟に俺は言った。
「・・・・・・」
「十五歳で藤堂家の長男! 家は超貧乏だ! 家族構成は五人! 両親と妹が二人! 親父が騙されて借金を作ったおかげでさらに貧乏になった! あと俺は一切の魔法が使えない! 以上自己紹介終わり!」
「キミが・・・藤堂竜也くん?」
あれ? さっきまでと雰囲気が違う?
「ミラージュコートキャンセル」
その声とともに空間がズレた。
いや、少し違うな。
ズレたように見えた。
その空間から現れたのはとんでもない美少女だった。
「初めまして。陵聖学園二年の柊美紀です」
柊美紀と名乗った女の子が手を差し出してきた。
白く柔らかそうな手を、俺は差し出されるままに握り返した。
黒く艶やかな髪が暗闇の中でもしっかりと映えて見えた。
キリッとした瞳の中にも優しさが感じられる。
そんな瞳の彼女に俺は心奪われた。
ゆっくりと手を握り返す俺に柊さんはにっこりと微笑む。
笑った顔が反則なまでに可愛い。
柊さんはスラリとした体に白いシャツと黒いミニスカートを着ていた。
誰もが羨むスタイルの持ち主だった。
一部を除いてだが。
この人は世の女性が望む全てのものを持っている。
一部を除いてだが。
しかし・・・。
「おしい・・・」
どうしても目がそちらにいってしまう。
「藤堂くん」
優しく声をかけられ、そして恐怖した。
それはもうさっきの魔法で殺されかかったときとは比べものにならないくらいの恐怖だ。
たとえるなら、買ったばかりのクレヨンが半分以上折れていたときのような恐怖だ。
「君の言いたいことは大体わかったわ。でもね、わたしは君の口から直接聞きたいな」
顔は笑っているが目が笑ってない。
言えるわけねーだろ!
おしいっ!
胸があともう少しだけでも大きければよかったのにね!
それにしても本当に小さいな~!
これはもう笑うっきゃないね!
あっはっはっはっは!
なんてことをさぁ!
「さあ、言って。ああ、遠慮しなくていいよ? わたし全然気にしてないから」
嘘つけ! めちゃくちゃ気にしてるじゃねーか!
「アイスダンス」
いきなりさっきの魔法を発動させやがった!
相当気にしているじゃありませんかっ!
しかも、さっきより確実に数が多い。
これはやっぱり答えなければ殺す。
気に入らない答えでも殺す。
そういうことなのでしょうか?
柊さんは満面の笑みで「さあ」と促す。
その笑顔が逆に怖いです!
「その・・・」
「うん」
「あの・・・」
「うん」
駄目だ!
何も思い浮かばねー!
こーろーさーれーるー!
「どうしたの?」
じりじりと迫力のあるプレッシャーを放ちながら近寄りそんなことを言う柊さん。
「どうして逃げるのかな?」
死にたくないからです。
「ふふふ」
もう、だーめーだー!
とりあえずなにか言わないと!
なにか言え俺!
「胸が・・・」
ピクッ!
「胸が控えめで、それで・・・」
ピクピクッ!
「ふ、ふーん。それで?」
まだなにか俺に言えと?
既にあなたの中で俺は死刑確定でしょうに!
そんな俺にまだ罪を犯せと?
「そんな・・・」
「うん」
なにか違うことを言え!
胸のことを忘れさせるインパクトのあることを言え!
「そんな・・・」
「うん」
「そんなあなたが好きだー!」
「うん・・・えっ!?」
いまだ!
なんでもいいからこのままたたみかけろ!
「一目見て惚れた! この世にこんな綺麗な女性がいたなんて知らなかった! さっきまでは俺の中の世界一美しい女性ランキング一位はぶっちぎりでマリンさんていう女の人だったけど、柊さんはそれを遥かに上回る美しさだ! それに可愛い! 俺にとって胸の大きさなんて関係ない! むしろ柊さんの控えめな胸が俺の好みだ!」
だから許して殺さないで!
「あ・・・う・・・」
柊さんがなにか言っているが怖くて直視できない。
「ね、ねえ・・・」
「はい!」
「いまのは・・・こ、こ・・・」
うん?
どうも様子がおかしいな?
俺は勇気を振り絞ってチラッと柊さんを見た。
辺りはさっきよりも暗くなっていた。
しかし、それでもはっきりとわかるくらい、柊さんは顔を真っ赤に染めていた。
「告白なの?」
「こ、告白!?」
「違うの?」
そうだと言え!
違うと言えば確実に殺されそうな雰囲気だ!
「そ、そうです! 俺の人生で初めての、そして恐らく最後になるであろう一世一代の告白です!」
「そ、そっか。私・・・告白されちゃったんだ」
うーん?
この乙女っぽさは一体なんなんだ?
さっきまでとまるで違う。
そんなとき、
「あ~、見つけた~!」
マリンさんののほほんとした声が聞こえてきた。
「竜ちゃんごめんね~! やっぱりいっしょに行ったほうがよかったかな~?」
助かった!
「あれ~? みーちゃんもいっしょだったんだ~!」
「・・・・・・はい」
柊さんの顔はまだ真っ赤だった。
「どしたの~?」
「いえ、なんでもありません」
そうは言っても真っ赤な顔の柊さんは俺と目が合うとすぐに顔を逸らしてしまうという大変
な挙動不審ぶり。
絶対にどうかしたのだと態度が物語っている。
「本当にどうしたの~? みーちゃん、お姉さんに話してみなさ~い!」
柊さんはマリンさんに全幅の信頼を寄せているのか、可愛らしくコクンと頷くとそっと耳元でなにかを話し出した。
たびたび俺をちらちら見ながらマリンさんはふんふんと頷いていた。
「も~! みーちゃんは可愛いな~!」
柊さんをおもいっきりハグするマリンさん。
羨ましい。
「きゃっ! ちょっと先生・・・」
「素直にいまの自分の気持ちを竜ちゃんに伝えなきゃ~!」
と、文字通り背中を後押しされる柊さん。
「あの・・・」
胸の前で手をもじもじとさせながら、柊さんはご主人様におねだりをする子犬のように愛ら
しい瞳で俺を見る。
「私は、その・・・こ、告白なんてされたの初めてで、どう答えていいのかわからないし・・・
それに、私たちはいま知り合ったばかりだから・・・」
あー、これはお友達から始めましょうパターンですな。
お友達から始めましょう。
↓
ごめんなさい。あなたとはそういった関係になれないわ。
↓
つーかさぁ、あんたあたしの胸が控えめだって言ったわよね?
↓
俺、天に召される。
・・・・・・・・・・・・・・・。
いやだー!! 死にたくねーよ!
死にたくないという思いからとっさに出た言い訳が、俺の死亡ルートを確定させていたわけで。
「だから・・・」
だから・・・ね?
↓
ここらで命の一つでも置いてってもらおうか!
↓
やはり天に召される俺。
あ~! どうなろうとも俺の死は免れないってことか!?
「だからね!」
「はいー!」
殺さないで、殺さないで、殺さないで!
すみません! すみません! すみません!
「だから・・・これから付き合っていくなかで、私のことを知ってほしいの」
「ふぇっ!?」
「私、付き合ったことなんて一度もないから自信がないんだけど、君が自慢できるような可愛い恋人になれるよう頑張るね!」
「え? え? ちょっと、えっ!? いまのって、もしかして・・・」
「んもうっ! 告白の返事に決まってるじゃない!」
マリンさんに怒られた。
いや!
それよりもだ!
俺に!
この俺に!
可愛くて綺麗で美少女な彼女ができてしまった!
こ、これはさすがに想定外だぞ???
「あの・・・藤堂くん」
「はい!」
「君のこと、これからは名前で呼んでもいいかな?」
柊さんはおずおずと上目遣いで言ってきた。
くぅ~! 可愛すぎる!
「もちろんです!」
「竜也くん・・・」
「柊さん・・・」
見つめあう二人。
そんな二人を見つめるマリン。
ドキドキ、ドキドキ。
竜也と美紀の距離はお互いの息がかかるくらいに近づく。
そんなとき、
「おーい! マリン先生!」
男の渋い声が聞こえてきた。
男は何故か息を切らしていた。
そして男は何故かモーガン・フリー○ンに似ていた。
「マリン先生、藤堂くんは見つかりましたか!?」
「あ~! 牛丸先生~! はい~! そこに~!」
と、マリンさんが指差す先にいるのは、第三者の視点から見れば抱き合っているように見えなくもない俺と柊さんだ。
つーかこの人が牛丸普利男先生ですか!?
似てるどころじゃねーよ!
むしろ本物だろ!?
「これは・・・どういうことでしょうか?」
困惑するモーガン・フリー○ン。
「あのですね、実は・・・」
モーガン・フリー○ンの耳元でニッコリ顔のマリンさんがごにょごにょと楽しそうになにかを話している。
「ふむふむ。ほほう。おおっ! なんと! そんなことまで!?」
そんなことってどんなこと!?
俺の心情そっちのけで楽しそうなモーガン・フリー○ンとマリンさん。
「竜ちゃんってすごいでしょ~!」
モーガン・フリー○ンに俺をアピールするマリンさん。
なんだか自分のことのようにうれしそうだ。
「そ、そうですな」
と、何故か赤くなった頬に両手を添えてくねくねするモーガン・フリー○ン。
どうして頬を赤らめていらっしゃるのですか!?
「竜也くん!」
喜色満面なモーガン・フリー○ンが近づいてくる。
「君はすごいな!」
なにがすごいのでしょうか?
と、思っているところをモーガン・フリー○ンが不意打ち気味に肩を叩いてきた。
「いや~、しかし柊さんを射止めるなんて、さすがはマリン先生が見込んだだけのことはある! 将来は世界を代表する魔法使いになるかもしれないねっ!」
「わたしもそう思います理事長先生!」
理事長?
誰が?
もしかしてこの人が?
あのハリウッドの名優モーガン・フリー○ンじゃなくて?
「あの・・・」
この人たちはなにかとんでもない勘違いをしていらっしゃるのでは?
「竜也くん?」
「どうかしたかね?」
柊さんとモーガン・フリー○ンが二人同時に同じように首をかしげた。
「もしかしてですが、お二人とも俺のことを知らないんですか?」
「竜也くんのこと?」
「柊くんの恋人だろ?」
「り、理事長先生~!」
「わっはっは!」
もしかしなくても俺のことをご存知ない?
「あの、すごく言いにくいことなんですが・・・」
「なーに?」
柊さんのキリッとした意志の強い瞳が、デレデレに緩みきっている。
「俺、魔法なんて使えません」
「はっはっはっはっ! なにを言い出すのかと思えば。いいかい竜也くん、謙遜するにしてもそれは言いすぎだよ」
と、再び肩をバンバン叩かれた。
「いえ、謙遜とかじゃなくて事実です」
俺の言葉に、モーガン・フリー○ンは肩を叩く手を止めて、いままで楽しそうに傍観していたマリンさんへ振り返った。
「マ、マリン先生。彼は一体なにを言っているんですか?」
「うーん」
と、考える仕草を見せたマリンさんは笑顔で答えた。
「あ~、そういえばまだ言ってませんでしたね~! そうですよ~、竜ちゃんは魔法が使え
ないですよ~!」
二人ともびっくり仰天なご様子。
「一つも使えないのですか?」
「はい~、魔法は一切使えません~! 魔法に関してはもう無能もいいところです~」
そ、そこまで言わなくても。
わかってたことだけど改めて言われると無性に悲しい。
「ふ、ふざけないでっ!」
鼓膜が破れるかと思うほどの大声で抗議されてしまった。
裁判沙汰はご遠慮したい。
「この世界で魔法が使えないなんてそんなことあるはずないじゃないっ! それに・・・」
「いや、本当に使えないんですよ」
「竜也くん、使えないといっても基礎魔法くらいはできるんだろう?」
「基礎魔法ってなんですか?」
「なにって・・・本当になにも使えないのかね?」
「だからさっきからそう言ってるじゃないですか」
「なんてことだ・・・」
頭を抱えて嘆くモーガン・フリー○ン。
ここだけ見たらまるで映画のワンシーンだ。
「マリン先生・・・」
「はい~?」
この人はいつでもどこでものほほんとしているな。
「残念だが・・・竜也くんの入学を認めるわけにはいかないよ」
はあ!?
ちょっと待ってくれよ!!
それじゃあ俺はどうすればいいんだよ!!
本来入学するはずだった学校の校長直々に入学を拒否されて、挙句の果てにはこんなところまで拉致されてきて!
しかも家に帰ろうにも道はわからないし、仮に帰れたとしてもいま家には誰もいない。
今頃みんな楽しく世界一周豪華クルージングツアーの真っ最中だ!
「そうですか~」
「すみません。竜也くんも本当にすまない。君の獲得権に支払ったお金はせめてもの謝罪金だと思って受け取ってほしい」
あの額を?
それはそれでなんというか・・・。
あれだけあれば一生遊んで暮らせるなー。
でも、その対価が青春の学生時代か。
いやしかし! 来年受験しなおせばまだ俺の青春は終わっていないのでは?
そうだよ!
そうすりゃお金も貰えて青春も謳歌できるじゃないか!
いやっほーい!!
「わかりました! そうですよね! 魔法が使えないのに魔法を専門的に勉強する陵聖学園に入学できるはずないですよね! あはは! 仕方ないな~! 残念だけどスッパリ諦めます!」
心の中でモーガン・フリー○ンに敬礼をする俺。
「なによ・・・」
「えっ?」
かすれた声に振り返ると、柊さんが悔しそうな表情で俺を睨んでいた。
瞳には光るなにかが溜まっている。
涙・・・。
「魔法が使えないのに私に告白だなんて・・・。そうよ、コレは気の迷いだったのよ。ふんっ、勝手にすればいいわ。あなたは私よりお金を選んだんですものねっ!」
なにも言い返せなかった。
確かに、柊さんの言った通り俺は柊さんよりお金を選んだことになる。
だけど俺にとって、いや誰にとってもお金は大切なものだ。
それに俺はどんな人間よりもお金の大切さをわかっているつもりだ。
でも・・・悪いのは確実に俺だよな。
「あの・・・」
「マリン先生の推薦入学だからって変に期待した私が馬鹿だったわっ! 所詮この『氷の女王』柊美紀にふさわしい相手ではなかったってことねっ!」
氷の女王?
「ふん・・・私のときめきを返してよ。本当に好きになりそうだったのに」
「い、いまなんて・・・」
「な、なんでもないっ!」
「でも・・・」
「もういいわ。この世界にはあなたなんかよりも私の恋人にふさわしい相手が山のようにい
るでしょうから!」
それはそうだろう。
俺と柊さんではまったく釣り合わないからな。
まあ、主に俺のせいでだけど。
「さよなら」
そう言うと柊さんは踵を返して帰っていった。
「彼女にも辛い思いをさせてしまったな」
はぁ~。
俺はなんてことをしてしまったんだ。
自分で自分が許せない。
お金に目がくらんで柊さんを泣かせてしまうなんて・・・。
「さあ、家まで送っていこう」
家までってかなり距離があると思うのですが?
「その必要はありません」
「マリン先生?」
「竜ちゃんは私が送っていきます」
いつもの雰囲気と違うマリンさん。
いまのマリンさんはなんだか少し怖い。
「マリン先生がですか? しかし、溜まっている仕事があると言ってらしたじゃありませんか」
「ええ、でももういいんです」
「もういい?」
「はい。私も竜ちゃんと一緒にこの学園を去りますから」
「は?」
「たしか・・・イギリスのホリックが私と竜ちゃんを欲しがっていましたからそちらに向かうことにします」
「マ、マリン先生?」
なんだ? どういうことだ?
「理事長先生、一年間お世話になりました。では・・・」
綺麗なお辞儀をするマリンさん。
日本人より日本人なマリンさん。
「待ってください!」
「なにか?」
「どうしてですか!?」
「どうしてですって? どうしてもなにも竜ちゃんのいないこの学園にいても意味はありませんもの」
モーガン・フリー○ンの表情が凍りついた。
口を金魚のようにパクパクと開け閉めしている。
「理事長・・・いえ、牛丸普利男さん」
底冷えのする声で言い、不敵な笑みを浮かべるマリンさん。
あなた完全な悪役ですよ。
「言っておきますが、竜ちゃんはこの私が敵わないすごい子ですよ?」
「私がって・・・すごい自信ですね。マリンさ・・・じゃなかった、マーちゃんってそんなにすごい魔法使いだったんですか?」
「まあね~! どう? お姉さんってばすごい?」
あれ? いつものマリンさんだ。
いつの間に?
「へー、マーちゃんって若いのにすごいんですね」
「キャー! お姉さん照れちゃう~! もう~! 竜ちゃんはおだて上手ね!」
でも実際すごいことだよな。
マリンさんが学園を辞めるってだけでモーガン・フリー○ンがこんなに焦っているんだから。
「お姉さんってそんなに若く見える?」
あっ、そっちに照れてたのね。
「いくつくらいに見える?」
「えーと、そうですね。二十・・・」
「うんうん!!」
「二十五、六歳かな?」
「・・・・・・」
しまった! 実年齢よりも上だったか!?
「き・・・」
「き?」
「キャー! うれしいっ!! ホントに!? 本当にそう見える!?」
「う、うん」
「もうやだ~!」
そういう割にはうれしそうですね。
「違いましたか?」
「違うよ~! そんなに若くないよ~!」
「じゃあ、何歳なんですか?」
ウフフ。
ニヤニヤ。
アハハ。
幸せそうな顔のマリンさんは俺の顔の前で人差し指を立てて、
「いい~? 女の子に年齢を聞くのは駄目よ~?」
と、はぐらかされてしまった。
「そうなんですか?」
「そうなの~」
プンプン! という効果音が聞こえてきそうだ。
「わかりました!」
とはモーガン・フリー○ン。
「竜也くんを我が学園で受け入れます」
「本当ですか~?」
「ええ! ですから学園を去るだなんて言わないでください!」
必死に懇願するモーガン・フリー○ン。
「あれ~? ねえ竜ちゃん。お姉さんそんなこと言ったかな~?」
ええ、言いましたとも。
「きっと理事長先生の聞き間違いですよ~」
「そ、そうですか・・・」
「で~も~」
「はい?」
「今後、竜ちゃんが学園を追われるようなことがあったら、そのときは・・・わかっていますよね?」
「は、はい・・・」
かわいそうなモーガン・フリー○ン。
心底同情するよ。
「と、とりあえず竜也くん。君が住むことになる学生寮へ案内するよ」
寮か。
そういえば、車の中でマリンさんが気になることを言ってたような・・・。
「あ~、理事長先生~! 竜ちゃんは~、私の寮でお世話しますからいいですよ~!」
「マリン先生の? しかしあそこは女子寮じゃないですか。女子寮に男の子を住まわせると
いうのは・・・」
女子寮だって?
女子寮・・・そこは男にとって禁断の楽園。
可憐な乙女たちの園!
「はぁ・・・そうですか~。理事長先生は竜ちゃんをここから追い出す・・・と?」
味方ながら卑怯なマリンさん。
「い、いえ・・・そうですね・竜也くんはマリン先生のところでお世話になりなさい」
もうなんでもありなマリンさん。
「それに~、そのほうがみーちゃんも喜ぶでしょ~?」
それはないと思いますよ。
それどころか視界にさえ入れてもらえないと思うのは俺だけだろうか。
ですね。
え? 何が?
感想お待ちしてま~す!