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番外編~第九話~:美水すもも軍曹の野望その③

久しぶりの番外編でございます!


それではどうぞ!!


 竜也たちと桜子&クリスティーが顔を合わせたそのとき、別の場所でも事件が起きていた。

 





 頭髪全てが白髪に染まった老人を中心に、三人の老人がその背後に控えている。


 中心にいる老人の名前は柊孝美(たかみ)


 日本の魔法界、四大貴族のトップに君臨する男である。


 そして孝美の背後に控えているのは、それぞれ美水、矢吹、五十嵐家の長たちである。


 「美紀」


 厳かな雰囲気の中、孝美が孫娘に対して口を開いた。


 「はい」


 答えた美紀は真っ直ぐな瞳で孝美を見据える。


 老人たちとちょうど対称になるように、美紀を中心に、すもも、虎之助、孝太郎(村人A)がその背後に控えている。


 「あの噂は本当のことなのか?」


 「あの噂とは何のことなのでしょうか?」


 「お前が、例の落ちこぼれと親しくしているという噂のことだ」


 孝美が言う『例の落ちこぼれ』とは、竜也のことである。


 「・・・・・・」


 おおー!


 美紀が怒ってるよ!


 自分の彼氏を落ちこぼれ扱いされて怒ってるのかにゃ?


 そうだったら美紀も可愛い所があるんだね~!


 すももは心の中で、今の堅苦しい雰囲気を楽しんでいた。


 「どうなのだ、美紀よ」


 「貴族とは名ばかり。やっぱり馬鹿じゃ本当の実力ってものを理解出来ないみたいだねー、なははははは!」


 孝美様、お言葉ですが、孝美様の仰る『例の落ちこぼれ』藤堂竜也くんは我々の力を遥かに凌駕しています。


 瞬間、空気が凍りついた。


 「ちょっ、すもも姉ちゃん!」


 と、突然虎ちゃんが慌てた様子で私のことを見てきた。


 あらら~、私の女としての魅力がまさか今になって虎ちゃんを魅了するなんて。


 私も罪な女ってことね!


 「・・・・・・(ブルブルブルブル)」


 孝太郎くんは何故かその場で(うずくま)り、震えている。


 キメェ~。


 「すもも」


 こちらに振り返った美紀が、冷淡な口調で私の名前を呼ぶ。


 口調こそ冷淡そのものだけど、美紀はすごく楽しそうな、嬉しそうな、そんな表情で私を見ていた。


 「すもも、恐らく、考えていることと、実際に口に出した言葉が逆になっていると思うわよ?」


 「あちゃ~、本当に? やっちゃったよ~!」


 「困ったものね、うふふ」


 まあ、自覚してやったことだからね!


 恐らく美紀も私と同じ考えなんだと思う。


 虎ちゃんは・・・どうなんだろう?


 話せば虎ちゃんもこちら側に付いてくれるだろうけど。


 孝太郎くんは別にいらないかなー。


 というより、孝太郎くんは確実にあちら側に付くだろう。


 そう思って、私は孝美の爺に視線を向ける。


 「すももよ。今の言葉はどういう意味だ?」


 「まあ、バレちゃったら仕方がないですね~!」


 「どういう意味だと聞いている!」


 孝美の爺が怒ってるよー。


 おお、怖っ。


 「どういう意味も何もその言葉のままの意味ですけど? それとも、一から十まで説明してあげなくちゃ理解できないほど、孝美の爺様はボケているのかな? そうならそうと言ってくれればいいのに! だってホラ、小さい頃に言われたでしょ? 御老人は労りましょうってね!」


 「貴様・・・自分が誰に何を言っているのか分かっているのだろうな?」


 「爺様こそ分かっているんだろうな? 自分が誰に向かって偉そうにしているのかを!」


 「何?」


 「爺様たちはただの老人。四大貴族の長という肩書を持ってはいるけど、でもそれだけ。そのくせ、いつもいつも偉そうにして」


 「・・・どうやらキツイ仕置きが必要のようだ――」


 パチン。


 という指を鳴らす音に、孝美の爺は言葉を途中で遮られた。


 指を鳴らしたのは美紀だった。


 「頭が高いっ!」


 美紀がそう言った瞬間、孝美の爺の真横に、氷の槍が突きたてられていた。


 「王の名を冠する私たちに、その態度はどういうことですか?」


 「つーか、私たちが何も知らないとでも思ってた?」


 「・・・何のことだ?」


 「私たちに黙って、結婚話なんて勧めていたようですね」


 怒ったときのマリンの姐さんのように、美紀は底冷えのする声で言う。


 「今どき政略結婚なんて流行らないよ~」


 私は思ったことを素直に口にすることにした。


 『全くだ』


 『それに美紀には既に王子様がいるものね』


 『すももには未だいないがな!』


 そんな陽気な声が室内に響く。


 声の主に、私と美紀以外の全員が驚いていた。


 周囲を溶かすような、そんな強烈なオーラを纏う灼熱の瞳を持つ大男。


 周囲を凍てつかせるような、そんな強烈なオーラを纏う氷結の瞳を持つ美女。


 大男は私の後ろに。


 美女は美紀の後ろに。


 突然現れた二人に皆言葉もない様子。


 「彼らのことを紹介せずとも、長の皆さまなら理解しておいでですね?」


 「・・・まさか」


 『我はボルケーノ。炎の化身であり、炎の精霊たちを統べる王である』


 『私はシヴァ。氷の化身であり、氷の精霊たちを統べる王です』


 「あのさ~、政略結婚のこともそうだけど、いい加減アンタら老人のやり方にはもううんざりしてるんだよね~。だから――」


 「今日を持って、私が柊家の長」


 「そんで、私が美水家の長になるから! よろしくね~!」


 「美紀姉ちゃん、すもも姉ちゃん」


 「うん、ごめんね虎之助くん。こんなことになっちゃって」


 「いや、それはええねんけど」


 「そいで、虎ちゃんはどうする?」


 「どうって?」


 「私たちの側に付くか、あちら側に付くか」


 言って、私は孝美の爺を見る。


 「姉ちゃんたち分かってんのか? 今、自分たちが何をやってんのか?」


 「もちのろん!!」


 分かってなきゃ、こんなことなんて出来ないっしょ!


 「戦争が起きんで? 日本の魔法界貴族は世界で言えばホンマに弱小やけど、それでも貴族や。姉ちゃんたちが今やってることは立派なクーデターや。こんなことが世界に知られたら、それこそホンマに戦争が起きてまうで?」


 「だーかーらー! 全部分かってるって!」


 虎ちゃんは本当に優しい子だなー。


 私たちに、今ここで引き返すための逃げ道を作ってくれるなんて。


 でも――。


 「全部、了承済みなの。私もすももも」


 美紀の言葉に虎ちゃんは黙り込んでしまう。


 ああー、そうか。


 そうね。


 虎ちゃん。


 ごめんね。


 「うん、そんならええんや! 俺は姉ちゃんたちに付いてくわ!」


 虎ちゃんはいつも私たちの味方だったね!


 「虎之助、お前まで!」


 孝美の爺がそう凄んで言うけど、虎ちゃんといえば――。


 「そんでこの後はどないするん? こんなんになってもうて、こっから何も無かったように出ていくのはメッチャ難しい思うで?」


 華麗にスルー!


 凄いよ虎ちゃん!


 そこに痺れる、憧れるー!


 「心配ないよ。手は打ってるからね」


 言って、美紀は再び指をパチンと鳴らす。


 『オーケー美紀』


 そう言うと、シヴァは胸の前で両手を大きく広げる。


 そして、大きく息を吸い込み、空気を飲み込んでいく。


 広げられた両手の掌を、何かを掴むように握り込む。


 『雪歌スノウソング


 シヴァは握り込んだ掌を開く。


 そこから氷の結晶に手足が生えたような、可愛らしい小人たちが次々と生まれ出る。


 小人たちはケラケラと笑い声を上げている。


 その笑い声が次第に冷気と化し、辺りに霧のような何かを作り出す。


 「・・・これは!」


 孝美の爺は何かに気付いた様子だけど、もう遅いよ!


 甲高い音が外から聞こえてきた。


 「待たせたね!」


 聞こえてきたのは、私たちにはとても馴染み深い人の声だった。


 陵聖学園では、ハリウッドの名優、モーガン・フリー○ンのあだ名で親しまれている、牛丸先生の声だった。


 「さあ、早く!」


 牛丸先生は黒く大きなワゴン車から顔を出してそう叫ぶ。


 「行くよ、虎ちゃん!」


 私は虎ちゃんに声を掛けて走り出す。


 美紀は既に車に向かって走っていた。


 「ちょ、あいつはどないすんねや?」


 こんなときでも優しい虎ちゃんは、孝太郎くんを指さして言う。


 「ああ、放っといていいよ!」


 「は?」


 「だって、孝太郎くんは向こう側の人間だから!」


 孝太郎くんは、柊家、五十嵐家の命令で今までの私たちの行動を逐一チェック、報告していた。


 そして、この前の陵聖学園寮を襲撃したあの事件。


 軍服姿に顔を黒いフェイスガードで覆い隠した人物を引き入れたのも孝太郎くんである。


 「すもも、虎之助くん! 早く乗って!」


 牛丸先生は既に発進の準備を整えていてくれている。


 「おのれ、『雷帝』までも仲間に引き込んでいたのか!」


 孝美の爺は牛丸先生を睨みながらそう呟く。


 そんな声を耳にしながら、私と虎ちゃんは車に乗り込む。


 「さあ、では行こうか! 行き先は打ち合わせ通りでいいんだね?」


 「はい!」


 美紀は牛丸先生に気合の入った返事を返す。


 「では、出発だ!」


 牛丸先生がアクセルを踏み込み、車は目的地へ向かって発進していく。


 やっぱり、このワンシーンだけ見てとれば、まるで映画のようだなー。


 私はそう思いながら、背もたれに身を預けてこれからのことに想いを馳せていた。




御意見・ご感想などがありましたらお待ちしております!!

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