第二十話:やっちゃうよ? ホントやっちゃうよ?
いやー、なんだか頑張っちゃいました(笑)
え?
何がって?
そりゃー・・・本編をどうぞ!!
更衣室に飛ばされた俺と美紀さんだったが、俺はさっきの男が気になって仕方が無かった。
「・・・・・・」
いくら考えても面識の無い男だ。
「どうかしたの竜也くん?」
「いえ、別に・・・」
「そう? それじゃあ早く着替えましょう」
「はい。あ、すいません! 俺外に出てますから先に着替えてください」
言って扉に手をかけようとした俺の腕を美紀さんが掴んだ。
「美紀さん?」
「行かなくていいよ・・・。う、後ろ向いていてくれればいいから。だから、その、ここで一緒に着替えよ・・・」
ヘブンオアへール!
ここは天国なのか!?
それとも地獄か!?
なんて大胆なことを言い出すんだ!
「はい」
断る理由が見つかりません。
俺は二つ返事で答えた。
「竜也くん」
「な、なんでしゅか?」
思わず声が震えてしまう。
「ふふっ。声が震えてるよ?」
仕方ないじゃないですか。
だって、俺のすぐ後ろから服を脱ぐ美紀さんの衣擦れする音が聞こえてくるんだもんっ!
「竜也くんはもう着替え終わったかな?」
「え、ええ」
「私はまだもう少しかかるかな」
「そ、そうですか・・・」
「もしかして竜也くん、緊張してる?」
「き、緊張するに決まってるじゃないですか」
「私もだよ」
「だったらどうしてこんなこと・・・」
「だって、こういう誰もいない場所じゃないと恥ずかしいから・・・」
「美紀さん?」
「さっきイリーナさんが私になにを言ったか教えてあげようか?」
「へ?」
さっきって・・・ああ、胸のことで美紀さんが泣いてたときか。
「イリーナさんはね、おっぱいは揉んでもらえば大きくなるって言ったの」
「ぶぶぅー!!」
イリーナのやつなに言ってんだよ!
「だから・・・」
俺に美紀さんの胸を揉めと?
触ってもいいんですか!?
「はあ、はあ、はあ、はあ・・・」
息が荒くなり、俺のリビドーは高まっていく。
暴発寸前だ!
「ど、どうしたの? なんだか息が荒いよ? というかちょっと怖いよ・・・?」
おどれのせいじゃー!
こらー責任とってもらわな、わしの熱く煮えたぎったこのリビドーは収まらんなー!
「りゅ、竜也くん?」
そんな美紀さんの怯えた声で俺はハッと自分を取り戻した。
やばいやばい。
危うく狼になってしまうところだった。
「す、すいません・・・」
言った直後だった。
ブツンッ。
と、電気が消え視界は暗闇に閉ざされた。
「停電かな?」
「停電ですかね?」
「竜也くん、私の手を握って」
「え?」
「私も着替え終わったからとりあえずマリン先生のところに戻りましょう」
「あ、はい」
なんだ。
俺はてっきり怖いから手を握ってなんて言ったのかと思ったよ。
「テレポート」
美紀さんの落ち着き払った声が呪文を唱えた。
さっきのパーティー会場(女子寮)に戻った俺と美紀さんだったが、周囲は気味が悪いほど静まり返っていた。
「エアーシールド!」
朝比奈さんの声とともに俺たちの前で突風が吹き荒れた。
「な、なんだー!?」
「二人とも早くこちらへ来い!」
グリシーヌの焦った声が言うと、
パシュッ、パシュッ、となにかの音が連続で聞こえてきた。
「フレイムウォール!」
今度はすもも先輩の声とともに炎が巻き上がった。
「ええからはよこっちこんかい!」
「こっちって言われてもこう暗くちゃどこにいるのかわかんねーよ!」
「みーちゃん! 場所はわかるでしょ~!? 早くこっちに来て~!」
「はい! 竜也くん! 手を握って!」
「え?」
「いいから早く!」
「は、はい!」
「テレポート!」
美紀さんが呪文が唱えると、
「二人とも無事か!?」「二人とも無事~!?」
グリシーヌとマリンさんが俺と美紀さんの体中を触りまくる。
「大丈夫。それよりどうなってんだよ!?」
「俺らにもなにがなんやら・・・。電気が消えたかと思ったらいきなし扉が勢いよく開いてそっから現れた奴らが銃をぶっ放しよってん!」
「銃!? みんな大丈夫なのか!?」
「ああ、多分な」
「そんな曖昧な・・・」
「しゃーないやろ!? ホンマにいきなりやったんやから!? でも生きてることは確かや」
「どうしてわかるんだよ!? もしかしたら・・・」
「アホか。よう見ーや。ここには誰がおって誰がいーひん?」
ここにいるのは、俺、美紀さん、マリンさん、虎之助、グリシーヌだ。
「他のみんなはどこだよ!?」
「知るか! そんなん俺かて知りたいわ!」
「二人とも落ち着いて!」
「美紀さん・・・」
美紀さんの声で俺は少し冷静さを取り戻した。
「わ、悪い・・・」
「ええ、気にすんな」
「竜ちゃん、みんなは無事よ~。さっきすーちゃんときーちゃんの声が聞こえてきたでしょ~? 多分二人はどこかに隠れてると思うの~。それに向こうにはイーちゃんもいることだし~」
二人?
「黒崎さんは?」
「まーちゃんは・・・」
嫌な予感がした。
マリンさんはみんな無事だって言ってたじゃねーか!?
大丈夫だ。
心配するな!
「・・・・・・戻りました」
黒崎さんのか細い声が聞こえてきた。
無事だったのか。
「よかった・・・」
「・・・・・・?」
「マリア、状況は?」
「敵は全部で二十人。エレベーター付近に三人。扉に四人。中央に五人。四隅に二人ずつ。朝比奈さんと美水先輩、イリーナさんは扉の近くに隠れている。他の人たちは理事長先生がうまく逃がしてくれたみたい。敵が理事長先生たちを素直に見逃したことから狙いは私たちの中の誰かということだと思う」
「すごいな黒崎さん、どうしてわかるんだ?」
「竜ちゃん、まーちゃんの二つ名はなに?」
黒崎さんの二つ名・・・?
「・・・・・・私は『無音の暗殺者』。偵察は得意」
「そうか・・・。それで、ここはどの位置なんだ?」
「・・・・・・ここは中央付近。一番敵の数が多い。危険。先に二人と合流するのがいい」
「そうね、まーちゃんの言う通りにしましょうか」
「うむ、そうだな」
「・・・・・・矢吹くん。いまの敵の正確な位置が知りたい。一瞬だけ辺りを照らして。だけど一瞬じゃなければ逆にこっちの位置を敵に知らせることになる。・・・できる?」
「おおっし! 任せとけ! リトルライト!」
虎之助の呪文によって寮内が一瞬照らされた。
「やっぱり・・・」
「どうしたマリア?」
「敵は全員対魔法防御の呪いをかけられている。私たちじゃ手出しできない」
「対魔法防御の呪い?」
俺の言葉に黒崎さんは頷くと、
「アレは解呪しようとすれば呪いにかかった人を殺してしまう」
「殺すって・・・そんな危険な呪いを誰が・・・」
「わからない・・・でも、多分あの人たちは操られているだけだから殺すのは駄目」
「ねえ、黒崎さん。私の氷の傀儡に氷の武器を持たせて突撃させるのはどうかな?」
「それは駄目。あの呪いは少しでも魔力を感知すると呪いが発動する仕組みになっている」
「そっか・・・」
俺は呪いについて詳しい黒崎さんのことをじっと見つめる。
そんな俺の視線に気づいた黒崎さんは、
「・・・・・・なに?」
言って、小首をかしげた。
「いや、そんな呪いをよく知ってるなーと思って・・・」
「・・・・・・・・・・・・趣味」
頬を赤らめてそんなことを言う黒崎さん。
「へ?」
「竜也! いまはそんなことどうでもええやろ!」
「あ、ああ・・・」
いま趣味って言いましたよね?
「それよりこの状況をどう打破するかだな・・・」
グリシーヌの一言に俺たちは沈みこんでしまった。
「そんなん言ーても魔法が通じやんてことは・・・」
「それよ~!」
と、マリンさんがいきなり虎之助を指差した。
「な、なんや!?」
「・・・・・・そうか。魔法使いじゃなければいいんだ」
「は?」
俺を見てそんなことを言う黒崎さん。
そりゃ確かに俺は魔法使いじゃないですけど・・・。
「グリシーヌもイリーナも俺の魔力で呼び出したんだから、それじゃ駄目なんじゃ・・・」
「そうじゃないの~! 竜ちゃん、あの質問をよ~く思い出して~!」
「は?」
「問一、好きな武器は? 問二、好きな動物は?」
「マーちゃん?」
「答えて~!」
「こんなときになにを・・・」
「こんなときだから必要なの~! いいから答えて~!」
なんだって言うんだ?
答えろってんなら答えるけども・・・。
「弓と猫です」
答えた瞬間だった。
俺の手に全体が赤く輝く複合弓が、俺の前にベレー帽を被った二足歩行の黒猫が現れた。
「へ?」
呆然とする俺に黒猫は敬礼し、
「竜也様の要請により参上しました! ご命令をどうぞ!」
と、言った。
なんだこいつは?
「私は竜也様の使い魔です!」
「そ、そうか、名前は?」
「ありません!」
「ないのか?」
「はい!」
「ねえ、竜也くん・・・」
と、何故かふるふる震えて言う美紀さん。
「はい?」
「こ、この子の名前、私がつけてあげてもいいかな!?」
「い、いいですけど・・・」
俺が言うと美紀さんはベレー帽を被った黒猫を抱きしめて、
「君の名前はニャン吉に決まり! どうかな!?」
言って、美紀さんはきらきらと瞳を輝かせて俺を見た。
「いいんじゃないですか・・・」
な、なかなかいいネーミングセンスをお持ちだ。
「素晴らしい名前を賜りありがとうございます! 貴女様のお名前は?」
「柊美紀! よろしくね、ニャン吉くん!」
「はっ! こちらこそよろしくであります!」
それにしても、使い魔・・・か。
それなら俺でもかろうじて知っている。
使い魔は主人の目となり遠くの位置にあるものでも自身の目として見ることができる・・・だったかな?
「・・・・・・これなら作戦を立てられる。みんな耳を貸して」
言われるまま俺たちは黒崎さんに耳を傾けた。
「は? 俺がそれするのか?」
「・・・・・・あなたしかいない」
「頑張って竜也くん!」
「安心しろ竜也。いざとなれば私がなんとかしよう。例えば敵を一人残らず八つ裂きにするとか・・・」
「俺がやるからそれだけはやめろ」
「そうか・・・?」
「心配しないで~! お姉さんたちが全力でサポートしてあげるからね~!」
「せやで! 竜也はなんも心配すんな!」
「・・・・・・そういうことだからよろしく。私は向こうにいる三人に作戦を説明してくる」
言って、黒崎さんは音も無く消えた。
さすが『無音の暗殺者』だ。
「本当にうまくいくのかな・・・」
「大丈夫。私を、私たちを信じて」
美紀さんは俺の手を優しく握って言ってくれた。
「美紀さん・・・」
「・・・・・・作戦を伝えてきた。決行はいつでも大丈夫」
「お疲れ様~、まーちゃん! それじゃあ早速お願いね~、虎ちゃん!」
「任せとき! いくでー! サンダーメイドさん!」
美紀さんの傀儡と似た、雷で作られた人影が一つ姿を現す。
ただし、虎之助が作りだしたそれは、美紀さんのアイスダンスように、どこか美しさを感じられるような神秘的なものではなかった。
名は体を表すというが・・・。
雷のカチューシャ、エプロン、スカートを纏い、優雅にダンスを踊るように敵に近づく全身雷メイドさん。
全身雷メイドさんは、敵の前でスカートの端を優雅に摘み、見事なお辞儀をする。
そして、にっこり微笑む。
全身雷メイドさんが微笑むと、辺りが突然青白く光り出す。
次いで、微笑みを向けられた相手の真横に轟音と共に巨大な落雷が落ちた。
相手は、この場の雰囲気にそぐわないメイドさんの姿に動揺し、次に落ちてきた落雷に目を奪われる。
うん、君の気持はとても良くわかる。
あー、それにしてもなんだか大変な事態だってのに、妙に和むなー。
魔法で作られてるってわかっているけど、あのメイドさん可愛いな~。
しかも、ちょっと色っぽい・・・。
「・・・竜也くん」
美紀さんの視線が氷点下!?
いえいえ、違います。私は何も考えていませんよ?
あのですね、えーと、これはそのー。
そんなことを考えている間に、全身雷メイドさんはエプロンからお玉を二つ取り出して、装備する。
知らなかったな。
メイドさんにお玉は標準装備だったのか。
全身雷メイドさんは、取り出したお玉を軽く二度ほど打ち鳴らした。
「竜也行けー!」
ドゴーンッ!
広場に爆発が起きた。
メイドさんのお玉怖い。
「あ、ああっ! ニャン吉! 辺りの偵察頼んだぞ!」
「はっ! 了解しました!」
俺は広場を全速力で走り抜けた。
「クソチキン野郎! 早くこっちに来て!」
あの毒舌は朝比奈さんか・・・!
「はい!」
俺は朝比奈さんの声がするほうへ飛び込んだ。
「はあ、はあ、はあ、朝比奈さん、イリーナ、作戦通りお願いします!」
「任せてブタ野郎!」
「マスター、きぬ、私の背に乗って!」
言うと、イリーナはペガサスの姿に戻り俺と朝比奈さんを背に乗せる。
「飛ばすよー! すもも! そっちはお願いね!」
「まっかせてー! こっから先は蟻の子一匹通さないからね! さあ、そんじゃあいっちょ暴れますかー! いくよー! フレイムダンス!」
すもも先輩が呪文を唱えると、美紀さんのアイスダンスと対をなすような炎の傀儡たちが現
れた、。
「ここは通さないからねー!」
すもも先輩を、マシンガン(俺銃器について何もわかりません。多分、形がマシンガンっぽいからマシンガン)を構えた男たちが取り囲む。
男たちは、無機質で虚ろな瞳ですもも先輩を見て、マシンガンを構えた。
「なめんじゃないぜよ! さあ、ここから私たちのショーの始まりですわよ! さあ、行け! 我が娘たちよ!」
相変わらずテンション高いなー。
つーか、テンション高すぎて台詞がなんだか変なことになってますよ?
「はははははははっ! では奏でよう! 炎熱の交響曲を! 歌え! 唄え! 謡え! 謳え! 詠え! 観客は貴様らだ! なーに、見物料は君たちの命どすえ~」
殺しちゃ駄目でしょ!
この人たちだって操られてるだけなんだから!
というか、すもも先輩。
よく恥ずかしげもなくそんな台詞を言えますね。
イリーナは自身のスピードを完全に生かしきれない狭い寮内でも、なんの違和感もなく高速で走り回った。
「藤堂くん、敵がどの位置にいるかわかってるんだよね?」
「ああ!」
ニャン吉が偵察してくれているおかげで敵の位置は手に取るようにわかった。
「うん、それじゃあ藤堂くんは敵に弓を放って! 外してもいい! 私の風で軌道を修正するわ!」
「ああ! 頼む!」
俺は弓をぎりぎりっと力の限り引き、そして放った。
「ぐわっ!」
敵の呻き声が聞こえてきた。
「あ、当たった!」
弓なんて使うのは初めてだったのに運よく敵に当たった。
「その調子!」
俺は次々と矢を放った。
外しそうになるたびに朝比奈さんの風魔法に救われた。
「マスター! 残りあと一人だよ!」
「ああ!」
最後の一人に狙いを定めて引き絞る。
「ぐうっ!」
命中した。
「よしっ!」
ガッツポーズをしたそのときだった。
扉が激しく開かれ軍服姿の人影が入ってきた。
「本当に使い物にならない。どうやらここまでのようですね」
誰だ?
というか本当に誰?
「お初にお目にかかります。セレクター、藤堂竜也くん」
男はそう言うと、周りの様子を確かめ、一人でうんうんと頷いている。
「僕も『王の名』を冠するあなたたち四人と、二つ名を持つ方々を簡単にどうにかできるなど思ってもいませんでしたが・・・まさかこれほどとは。やはりただの軍人上がりの素人魔法使いでは話になりませんか。これでは僕のかけた呪いも意味がありませんね。いっそ魔法を使って彼らを攻撃してくれればもっとデータが取れたものを」
人影の顔は黒いフェイスガードに覆われてわからなかったが、声を聞く限りそいつは男で、若い感じだった。
「あなたは誰~?」
こんなときでものほほんとしているマリンさんだ。
「お初にお目にかかります。魔王、マリン・ヘッケル。僕のことはブラックとでもお呼びください」
「あなたは~、なにしに来たの~?」
「ある方の命令でセレクター、藤堂竜也くんを拉致しに参りました」
「俺を・・・?」
「はい」
「そっか~! それが目的なんだ~! だったら~、殺されても文句はないよね~?」
「ははは、僕も死ぬのは嫌ですよ。この状況では藤堂くんの拉致は無理そうですからね。任務遂行が困難な場合は可能な限りの情報を入手して離脱します。幸い、いまの戦闘であなた方のデータは少しですが入手できましたからね。いやー、それにしても藤堂竜也くんはなかなか弓の腕がいいですねー」
「そりゃどうも」
「それでは僕はこれで失礼します。これ以上この場にとどまっていると、そこの美しいご婦人に殺されてしまいそうだ」
グリシーヌを見て男は言う。
「ふん、私が素直に貴様を見逃すとでも思うか?」
「ええ」
「見くびられたものだな!」
言うと、グリシーヌは口から黒い炎の玉を吐き出した。
しかし、
「無駄ですよ」
男に当たったと思った瞬間、男の姿がかげった。
「ここにいる僕は幻影です。本当の僕は別の場所にいます。まあ、それほど遠くにいるわけではありませんがね」
「くっ」
「それでは失礼します。ああ、そうそう。僕たちは竜也くんを諦めたわけではありませんからね。また、いずれお目にかかることもあるかと・・・」
言って、男は姿を消した。
今までの話数の中で一番長いお話になったのではないかと自問自答している私です(笑)
ご意見・ご感想などがあれば是非に~!!