第十八話:絵本って、たまにグロテスクな表現が含まれているように感じるのは気のせいですか?
今回は本編ということになりますね!
まあ、番外編も本編といえば、本編なのですが、一応わかりやすいようにということで、番外編と銘打っているわけです!
では、本編をどうぞ!!
無表情なまま、俺の背後に迫る柊さん発、俺行きの氷の傀儡たち。
それをなんとか全精神力を持ってして振り切り、柊さんの下へと駆け寄ることに成功した俺。
誰か褒めて~!!
そんな俺を視界に捉えて柊さんは若干引き気味なご様子。
「ど、どうかしたの?」
「恐竜が来てるんですよ!」
「は?」
「こっちです! 急いで!」
「う、うん・・・」
俺は柊さんの手をとりイリーナの下へと全速力で走った。
(急いでマスター!)
そんなイリーナの声が心に直接話しかけてきた。
その間も恐竜は俺たちのあとを追ってくる。
柊さんは恐竜を見て目を丸くし、
「恐竜・・・? え? どして?」
と少々混乱気味だった。
(急いで!)
「もうすぐだ!」
死ぬ思いで疾走してようやくたどり着いたが、
「う、嘘・・・」
柊さんが驚きの声を上げていた。
俺も驚いていたがそれ以上に混乱していた。
なぜならイリーナがいた場所には・・・。
「これって・・・ペガサスだよね? 藤堂くんが召喚したの?」
「そんな覚えは・・・・」
「乗って!」
ペガサスが切羽詰ったように言う。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「なにをしているの! 早く乗って!」
俺と柊さんが呆然としていると、ペガサスはエメラルドの瞳で俺たちを見つめて言った。
純白の白い体と翼が俺と柊さんを囲う。
「二人とも早く乗ってよー! ここなんだか変な魔法がかけられてて気持ち悪いのー!」
泣かせてしまった。
「あ、ああ、悪い」
言って俺はイリーナの背に飛び乗った。
しかし変な魔法ってなんだ?
まあいいか。
俺はイリーナの背の上から柊さんに手を差し伸べた。
「柊さん」
「は、はい!」
差し出した手を握り返した柊さんは、何故か顔を赤らめてはうっとりとした表情で俺を見つめていた。
「二人ともしっかり摑まっててね!」
言うとイリーナは黒く頑強そうな蹄で地面を蹴り上げるとその神々しいほど美しい体が宙に浮かびあがった。
「夢みたい・・・私・・・」
「空なんて魔法でいつでも飛べるじゃないですか」
「そ、そうじゃなくて・・・」
「柊さん?」
「昔、お母さんに読んでもらった絵本に憧れていたの・・・」
「どんな絵本なんですか?」
「主人公はごく普通の女の子なんだけど、ある日悪い魔法使いに狙われるの」
「またどうして?」
「その女の子の心臓は悪い魔法使いがずっと捜していた不死の薬の素になるの」
「な、なかなかグロテスクな内容の絵本なんですね・・・」
「うん。私も小さい頃はお母さんにしがみついて聞いていたんだ」
小さい頃の柊さんかー。
それは可愛かったんだろうな。
「それで柊さんはいまの話のどこに憧れたんですか?」
「あのねー、いまの話のどこに憧れる要素があるのよ!」
「いや、だから俺も気になって聞いてるんじゃないですか」
「もう・・・このお話には続きがあってね、悪い魔法使いに狙われた女の子をたまたま通りかかった王子様が助けてくれるのよ」
「なんだか適当なストーリーですね」
「いちいちケチつけないでっ!」
「はい」
「それでね、その王子様は白馬に乗って現れるの! 王子様は悪い魔法使いから女の子を救い出し、二人は互いに一目惚れし結婚するのよ!」
白馬に乗った王子様って・・・ありきたりだ。
「それから私はいつか白馬に乗った王子様が私を迎えに来てくれることを夢見ていたの。そんなことないってわかっていたけど、夢見るくらいならいいでしょ? でも、その夢がこんな形で叶うなんて思ってもみなかったな・・・」
言って、柊さんは俺の胸に体を預けてきた。
「ひ、柊さん!?」
「いまだけでいいから・・・」
「柊さん・・・」
「お願い。このままもう少し・・・」
そんな柊さんを目の当たりにして、俺はまたしても柊さんを愛しく感じてしまった。
いいか俺!
俺はもう柊さんの恋人ではないんだぞ?
抱きしめたい!
なんて思うのはいいが実行するなよ俺!
頑張れ俺!
耐えるんだ俺!
「と、藤堂くん・・・」
「はい?」
「苦しい・・・」
「え?」
「抱きしめるならもう少し優しくして。私はどこにも逃げないから」
無意識のうちに俺は力一杯柊さんを抱きしめていた。
なんてことしてくれたんだよ俺はよー!
つーか意志弱すぎだろ俺!
自分で自分が情けない。
「す、すすすすすいませんっ!! 俺はなんてことを・・・」
「謝らないで・・・」
「でも・・・」
「いいの。それに私はうれしかったから・・・」
「でも、俺には柊さんを抱きしめる資格なんてないのに・・・」
「どうして?」
「だって俺なんかが柊さんと・・・」
「藤堂くん、ごめんね」
「え?」
と、驚く間もなく俺の唇は柊さんに奪われた。
「ひい・・・らぎさん?」
「あなたが好きです。私とお付き合いしてください」
言って、柊さんは真摯な眼差しで俺を見つめてくる。
「いまのは・・・え? いまなんて・・・?」
「私のファーストキス。藤堂くんに捧げられてよかった」
凶悪なほどかわいい笑顔でそんなことを言ってくれる柊さん。
「ただ、藤堂・・・竜也くんのファーストキスの相手が私じゃないのが少し残念」
「どうして俺なんですか? 俺はあんなに柊さんを悲しませたり、酷いことをしたのに」
「そんなの私にもわからないわよ・・・」
「へ?」
「でもね、竜也くんと会えなかった日々が辛かった。竜也くんに酷いことを言ったとすごく後悔した。竜也くんに別れようと言ったあと何度も泣いてしまった。私は竜也くんのどこを好きになったの? 竜也くんのなにを好きになったの? わからない・・・。だけど、私は竜也くんが好き。私の心は竜也くんで一杯。これは恋なの? 私は恋がどんなものかわからないからこの気持ちが恋なのかどうかも確かめられない。でも、私は竜也くんが好き。あんなに辛い思いは二度と味わいたくない。だからね・・・」
「柊さん・・・」
「私の側にいてください。いまみたいに私を強く抱きしめてください」
はあ、と俺はため息をついた。
「私じゃ・・・駄目かな?」
「いえ、そうじゃないです。自分が情けなくて」
「竜也くん?」
「こんな俺でいいんですか?」
「うん」
「魔法が使えなくてもいいんですか?」
「うん」
「貧乏でもいいんですか?」
「うん」
「柊さんを・・・また好きになってもいいんですか?」
「うん!」
俺は柊さんを優しく抱きしめた。
そして、今度は俺からキスをする。
「俺も・・・」
「竜也・・・くん?」
「俺もファーストキスを柊さんに捧げられてよかったです」
「え? でも竜也くんのファーストキスの相手はマリン先生じゃ・・・」
「俺からキスをしたのは柊さんが初めてです」
「竜也くん・・・」
「そしてこれからも俺がキスをする相手は柊さんだけです」
「私も・・・です」
言って、俺たちは互いに抱きしめあった。
「ねえ」
と、そんな俺たちを無粋な声が邪魔をする。
「あのさ、ラブラブするのはいいんだけど、私の背中でラブラブするのはやめてくれないかな?」
忘れてた。
俺たちはいまイリーナの背中に乗っているんだった。
「でも、まあいっか! これでー、マリンに見上げ話がまた一つ増えたことだしー。あとー、グリシーヌにもいまの話してあげようっと!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「う~ん? なんですかマスタ~?」
「それだけはご勘弁をー!」
「うーん、どうしよっかなー!」
「なんでも一ついうことを聞くから許してくれー!」
「本当に~?」
「ああ!」
「なんでもいいんですよね~? マスタ~?」
「あ、ああ・・・」
「だったらさー、『美紀』って呼んでみてよ!」
「は?」
「二人ともせっかく恋人同士になったんでしょ? 私の背中で。あんなに激しく抱き合っていたじゃない。私の背中で。美紀はいいんだけどさー、マスターはおかしいよ。恋人同士なら名前で呼び合うべきじゃないかな~? と、私は思うんだよねー」
柊さんを名前で呼べだと?
「それは、そのー、急に名前で呼ぶのはどうかな~? 俺は柊さんの後輩なわけだし呼び捨てにするのはどうも・・・」
「呼び捨てが駄目なら『美紀さん』でもいいよー? あ、別に嫌なら強要はしないけどねー。まあその場合、今日の夜にはどういった経緯でマスターと美紀が恋人同士になったのか陵聖学園関係者全員に事細かに伝わっていると思うけどそれでもいいなら・・・」
「すいませんイリーナ様、お許しください」
「えー? マスターが謝ることなんて全然ないじゃないですかー」
はからずも俺はイリーナに柊さんの恋人としての後押しをされた。
覚悟を決めた俺は柊さん・・・美紀さんの顔を見つめ、
「み、美紀・・・さん」
「な、名前で呼ばれるのってちょっと恥ずかしいね・・・でも、それ以上にすごくうれしい。ありがとう竜也くん。それと、イリーナさん」
「ふふふ、今後とも私たちのマスターをよろしくねー!」
名前を呼ぶだけでこんなに恥ずかしいなんて・・・。
それでも美紀さんが喜んでくれるならいいかな?
やばいな俺。
完全に美紀さんに惚れちまったみたいだ。
最初の出会いからは想像もつかねーよ。
「竜也くん。これからもよろしくね!」
「はい!」
「あー、二人とも、向こうについたら浦島太郎の気分を味わえるかもしれないよ」
と、イリーナがわけのわからないことを言っていたがこのときの俺たちは、イリーナの言った言葉の意味を少しも理解していなかった。
その後、俺たちが陵聖学園に着いたのは夜の十時を超えたあとだった。
お疲れ様でした!
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ではでは~!