番外編~第一話~:矢吹虎之助くんの日常でございます(前編)
こんなこともあろうかと。
という言葉がありますよね?
こんなこともあろうかと何かを準備出来る人は、多分産まれてくる時代を間違えた人だと思います。
世が世なら、名軍師として名を馳せていたことでしょう。
まあ、何が言いたいのかというと・・・。
あ、番外編始まりま~す!!
矢吹虎之助の日常。
竜也がいない間、寂しい、もとい暇だった私は、マリンの提案で虎之助、マリア、きぬ、すもも、と親交を深めることとなった。
というわけで、今日は虎之助と親交を深めようと思う。
九時。
そういうわけで、私は今、虎之助の部屋にいる。
「あの~」
「どうした?」
「なんで俺の肩に乗ってはるんですか?」
「駄目か?」
「いや、アカンってことはないんやけど、ちょっと不思議やったから」
「そうか。それにしても・・・」
言って、私は虎之助の肩から降りる。
「虎之助」
「はい」
私の呼びかけに、何故か居住まいを正して答える虎之助。
「お前の肩は乗り心地が悪いな」
「あはは・・・」
乾いた笑いを見せる虎之助。
「虎之助、私はお前ともっと親交を深めたいと思う」
「ええよ~。そんじゃあ、何か話しよか~」
「いや、その必要はない」
「ふ、振られてもうたぁ・・・」
そんなつもりは毛頭ない。
「私は、虎之助が普段どのように過ごしているのかを知りたいのだ。なので虎之助、お前はいつも通りの日常を過ごしてくれ。私はそれを観察する」
「なにそれ? 新しいプレイか何か?」
「ぷれい?」
ぷれいとは何だ?
良くわからん。
しかし、さすがは虎之助といったところか。
博識な奴だ。
そうでなくては、竜也の親友は務まるまい。
「まあええか。そんじゃあ、俺はいつも通り過ごさせてもらうわ」
「うむ、そうしてくれ」
十時。
虎之助は机に向かう。
カチカチと何かを叩いている。
その瞳は、目の前の板に向けられている。
確か、ぱそこんとかいうものだ。
ぱそこんという板には何かが映し出されているようだが、虎之助の身体が板と重なっていて見えない。
「何をしているのだ?」
「・・・・・・」
「虎之助?」
「・・・・・・」
私の声が聞こえていないのか?
「なあ虎―」
「じゃかあしゃぁーーーーーー!」
びっくりした。
いきなり怒られてしまった。
私は何か悪いことでもしてしまったのだろうか?
「今ええとこやねん!」
言うと、再び目の前の板に視線を戻す虎之助。
心なしか、虎之助の瞳は血走っているようだった。
『ハア~ン! 駄目、駄目、駄目よ~!』
突然、どこからか声が聞こえてきた。
「ハア、ハア、ハア・・・」
板を見つめる虎之助の息が荒い。
何だ?
一体何が起きている?
板に何があるのだ?
気になる。
『そこは駄目~!』
そことはどこだ?
『いいわ! ああ~ん、素敵よ!』
良いのか、駄目なのかどっちだ?
しかし、この声を聞いていると、だんだん変な気持ちになるな。
よし、確かめてみよう。
私は翼を広げ、飛び上がる。
板に何が映っているのか?
「ここか~! ここがええのんか!」
『あ! 駄目駄目駄目駄目駄目~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!』
板には裸の女が映っていた。
板の下の方には文字が描かれている。
今の裸の女が言った言葉と全く同じ台詞だ。
その女は何故か顔を赤くして、ぐったりと寝ころんでいた。
『ふふ、良かったわ。虎之助くん』
「ああ、俺も良かったで。また、明日な」
虎之助がそう言うと、板に映っていた裸の女は一瞬で消えた。
むう?
何だったのだ?
矢吹さん家の虎之助くんのお話です。
虎之助くん・・・ぐすん。
自分でも、想像していなかったことに・・・。