第十七話:イタズラはほどほどにね♪ 命に関わります・・・。
前回までのあらすじ。
おいてかないで~。
では、本編をどうぞ!!
茂みに覆われた先を抜けるとオアシスが広がっていた。
命の水だ・・・!
一つの濁りもない綺麗な水が溢れている。
晴れ渡る空の色をした綺麗な水の中には見たことも無い笑顔で柊さんが水浴びをしていらっしゃった。
「ひ、柊さん!?」
「え?」
目と目が合い固まる俺と柊さん。
「いやーっ!!!!!」
両腕で体全体を隠そうとするがそれでも隠しきれていない部分が俺の目に映る。
「見ないでー!! ついてこないでって言ったじゃない!!」
「い、いやっ! 見るつもりは・・・!」
「あっちに行って!!」
見るつもりはなかったと言おうとした俺だったが、柊さんの神々しい肢体に目を奪われて動くことができなかった。
「アイスソード! アイススピアー! アイスハンマー! アイスアックス!」
俺めがけて氷の剣、槍、ハンマー、斧が次々と放たれる。
「うわっ!」
俺は必死に避けた。
だって死にたくないもん。
避けても避けても次々と飛来してくる柊さんの魔法。
死ぬー!
このままじゃ死んでしまうー!
「・・・・・・」
あれ?
魔法の雨がやんだ。
どうしたんだろう?
まさか許してくれたのかな?
と、そんな甘い考えが通用する相手ではなかった。
「アイスダンス!!」
柊さんは大気中にある水分という水分をかき集める。
すると、俺の周囲にあの踊り子の衣装を身に纏った氷の傀儡が、心まで凍て尽くす冷気を放ち見渡す限りに現れた。
「アイススピア!」
柊さんが呪文を唱えると、氷の傀儡たちはその手に水分を集め氷の槍を作った。
そしてそれを俺に突きつけてきた。
「そこでじっとしていて!」
柊さんの怒声が言うと、あっという間に氷の傀儡たちは消えていき、残ったのは俺に氷の槍を突きつけている氷の傀儡が二体。
「絶対にこっちを見ないでね!」
アイサー!
俺も死にたくありませんから言う通りにします!
それから三十分が経ったが柊さんはまだ水浴びをしている。
女性の風呂は長いとは言うが、まさか水浴びでもこんなに時間がかかるとは。
ちなみに俺は三十分間ずっと氷の槍を突きつけられていた。
生きた心地がしねーよ。
「ねえ、藤堂くん」
「なんですか?」
「その、いろいろごめんね・・・」
言われて俺はさっき見た柊さんの裸を思い出してしまった。
思わず鼻血が出た。
「い、いや、俺も柊さんの裸見ちゃいましたし・・・その、とっても綺麗でした! あの、俺さっきのことは絶対に忘れませんから!」
混乱して俺は自分でもなにを言っているのかわからなかった。
「ち、違うわよっ! さっきのことじゃないの! ていうかさっきのことは早く忘れてよ! 私が言いたかったのは、その、藤堂くんに酷いことを言ったり勝手に誤解して別れようなんて言ったり・・・」
「ああ、そのことですか。もう気にしないでください。あれは俺が悪かったんですから」
「そんなことない! 私だって・・・」
「それにですね、前にも言いましたけど俺みたいな落ちこぼれが柊さんのように素敵な女性と釣り合うわけなかったんですよ」
「それは違うわ! 私は藤堂くんが魔法を使えなくても藤堂くんのことを・・・」
「え?」
「そ、それにね! 藤堂くんは落ちこぼれなんかじゃないんだから!」
「落ちこぼれじゃないって俺がですか? でも、俺魔法を使えないんですよ?」
「ううん、藤堂くんは落ちこぼれなんかじゃないよ。マリン先生も言ってたでしょ? 藤堂くんはセレクターだって」
「言ってましたけど、そのセレクターってのはなんなんですか?」
「セレクターっていうのはね、召喚術士の別名のこと。あのね藤堂くん。藤堂くんはドラゴンなんて空想上の生き物がこの世に存在すると思う?」
柊さんはグリシーヌと同じ質問をしてきた。
「存在しないと思います」
「うん、その通り存在しないの。でも実際にグリシーヌさんはいまもこの世に存在しているでしょ? グリシーヌさんたち空想上の生物は幻想種と呼ばれ、精霊界という私たちの世界と隣り合うように存在する世界の住人なの。その世界には私たちの世界からじゃ行けないし、逆に精霊界からも私たちの世界に来ることもできない。でもね、たった一つだけ二つの世界を行き来できる方法があるの。それが、召喚術」
ここまではグリシーヌに教えてもらったことだったのでわかる。
「普通の魔法使いでも召喚術は使えるけど、リスクが大きすぎる。二つ名を持っている魔法使いでも危険。そんな術を好んで使おうとする人間なんてこの世にいないと思ってた。だから藤堂くんがグリシーヌさんと現れたときはなにかの間違いじゃないのかとも思っていたけど、そうじゃなかった。藤堂くん、あなたは知らない間に召喚術を使っていたの。そして呼び出したのは幻想種の中でも最強のドラゴン。そして恐らくここには藤堂くんが呼び出したもう一匹の幻想種がいるはず」
「どうしてそんなことがわかるんですか?」
「どうしてって・・・ここに転移したときからすごく強い魔力の波動を感じるもの。藤堂くんだって感じるでしょ? 私が藤堂くんに『ふざけないでっ!』って言ったあのときね、本当は私、悔しかったの。私より魔力の総量が多い人なんてマリンさんしかいなかった。それなのに、藤堂くんは魔法を一つも使えないなんて言うから・・・」
そうだったのか。
「私はセレクター・・・ううん、召喚術士なんておとぎ話の中に出てくる伝説だと思っていたわ。しかも藤堂くんは二体も召喚した! これはとてもすごいことなの!」
「でもですね。俺からすれば魔法を使えるほうがうらやましいというか・・・。俺、初めて柊さんに会ったとき、柊さんの魔法に見とれてしまったんですよ。あのとき俺は生まれて初めて魔法を使いたいと真剣に思いました。それまでは魔法なんてどうでもいいと思っていましたけど」
「あ、ありがとう・・・」
照れたような声が聞こえてきた。
俺はそんな柊さんを不覚にも愛しいと思ってしまった。
なに考えてんだ俺!
俺にはもうそんな資格なんてないのに。
俺と柊さんはもう恋人でもなんでもないんだぞ?
「だ、だからね! 藤堂くんは落ちこぼれなんかじゃないんだよ! たしかに藤堂くんは魔法を使えないけれども、魔法なんかよりももっとすごい力を持っているんだよ! 藤堂くんはね、世界最強の落ちこぼれなんだよ!」
そ、それは褒められてるのか?
それとも貶されているのか?
どっちなんだ?
「あ、ありがとうございます・・・」
「う、うん・・・」
なんだか妙に気恥ずかしかった。
「う~ん青春ね~!」
と、マリンさんのようにのほほんとした声が俺たちの妙な雰囲気を中和した。
「誰・・・?」
「はーい、マスター! 私を迎えにきてくれたのねー! イリーナ感激ー!」
現れたのは銀の髪にエメラルドの瞳、むっちりボディの綺麗なお姉さんだった。
シンプルな黒いジャケットとデニムパンツを着ているその女性は言って俺の手を取りぴょんぴょん飛び跳ねた。
「イリーナってもしかしてイーちゃん?」
「そーでーす! マリンにイリーナって名前をつけてもらったのー! それよりもー、 美紀を呼んできて! 早く!」
「ど、どうして?」
「私ね、マスターに呼ばれてからずっとここで彷徨ってたのよ」
「はあ・・・」
「それでね、マスターが迎えにきてくるまで暇だからさー、ちょーっとしたイタズラをしてたら相手を怒らせちゃって・・・」
相手?
こんなジャングルに俺たち以外にも誰か住んでるのか?
「相手って?」
「うーん・・・」
ギャース!
ズンズン!
大きな足音と恐竜のような鳴き声が聞こえてきた。
恐竜?
「アレ」
てへっ!
と可愛らしく舌を出して、こつんと自分の頭を叩いて見せたお姉さん。
指差す先にいるのはティーレックス。
なんか俺こんなのばっかだ・・・。
「早く美紀を連れてきなさい! 逃げるわよ!」
「逃げるってどこに!?」
「いいから美紀を連れてきなさい!」
「わ、わかりましたよ!」
とは言ったものの、俺の行く手を氷の傀儡たちがガードしている。
「ねえ藤堂くん。この音ってなに? それにさっきは誰と話してたの?」
「すいません!」
「えっ? どうして謝るの?」
「後でどんな制裁でも受けますからいまだけはどうか許してください!」
言って俺は生まれたままの姿でいるであろう柊さんの下へ駆け寄った。
言うまでもないが氷の傀儡たちはそんな俺に攻撃を仕掛けてきた。
だが避けている暇もなく俺はそのまま突き進んだ。
「と、藤堂くん!? どうしたのその傷!?」
柊さんは既に着替えを終えていた。
「アレにやられました」
俺は背後からやってくる氷の傀儡たちを指差し答えた。
「藤堂くん・・・。そこまでして私の裸を見たかったの?」
ああ、俺もう完璧に終わった。
さっきまではいい雰囲気だったのによー!
「もうなんでもいいですから俺と来てください! あとアレをどうにかしてください!」
どんどんこちらに迫ってくる氷の傀儡を指差し叫ぶ俺。
無表情が逆に恐ろしい!
このお話でやっと登場予定キャラのうち三分の一のキャラが登場しました~!
少しでも皆様に楽しんで頂けたのなら幸いです!
ご意見、ご感想などがあれば是非に!!
ではでは~