【プロローグ】
―――母が死んだ。
当時、俺は六歳だった。母は強く、周りからも愛されている人で、葬式には、多くの参拝者が来ていた。
そのほとんどの人が、俺を見るやいなや、
「可哀想に……」
「まだこんなに小さいもの。きっと、信じられないんだわ」
「しょうがない。あんな惜しい人をなくしては……」
と、同情の言葉をかけてくれていた。
父は、母と離婚しており、連絡もつかない状態だった。そういった経緯で、俺は、母方の親戚の家に引き取られることとなった。
そこの人たちは、俺を本当の家族のように接してくれた。一緒に住むことになっていた祖父も、俺のことを大切に思ってくれていた。
そんなある日、祖父は、俺に一枚の写真を見せてくれた。
祖父の職業はカメラマンだったそうだ。昔は、世界中の写真を取ってみせるという夢に向かい、海外を旅して回っていたらしい。
見せてくれた写真は、そんな旅の中で、自分が最も美しいと思えた写真だったらしい。その時の祖父は、今までで一番輝いていて、意気揚々にその写真について語っていた。
俺は、その時、心が震えた。母がいなくなり止まっていた自分の中の何かが動き始めた気がした。
その後、程なくして、祖父は他界した。残っていた遺産のうち、祖父の使っていたカメラと、幾千もの写真が、俺のもとに来た。
それからというもの、俺は、祖父のカメラ片手に、様々なものを取り続けてきた。
撮った。撮った。撮った。撮った。撮った。撮った。撮った。撮った。
あの日の見た写真を取るために。
―――いつか、俺が言葉を紡げるように。
読んでくださり、誠にありがとうございます。まだまだ、初心者の新参者ですが、これからも読んでいただけると幸いです。