【祝】ダンジョン突入・前編
塔の内部にあったのは、地下へと続く階段のみであった。
それを下ると土の壁に覆われた細い道が続いていた。
「結構明るいな」
壁が光っているようにも見えるが、とにかく明るい。
光源らしきものは存在していないのに不思議だ。
ともかくこれなら懐中電灯はいらないか。
鞄に仕舞って代わりに方位磁石を取り出す。
「普通に使えるか」
これならここまで戻ってくるのに苦労はしなさそうだ。
良かった良かった。あるのと無いのとでは大違いだからな。
現在向いている方角を再確認して、グラディスを宝玉状態にしてから進む。
これは何があっても咄嗟に対応するためだ。
グラディスの形態は主に2種類ある。
一つは武器形態。
何かの武器の形を宝玉を中心にして魔力で構成する。
圧縮された魔力で構成された武器は圧倒的な攻撃力を得られる。
二つ目は宝玉形態。こちらが本来の姿でもある。
主に魔力を扱うことに特化した形態。
怪物達相手に使ったことから分かるように、この形態でも魔力で武器は作れる。
しかしその攻撃力と耐久力は武器形態のそれとは大きく劣る。
主に手数が必要な時に使われる方法だ。
実は宝玉形態はもう一つ強力な武器が無いと本来の力を発揮出来ない・・・らしい。
俺は今までグラディスに釣り合うような武器を見たことが無いのであくまでも聞いた話だ。
話は戻るが、この宝玉形態は非常に出が早いというのも特徴の一つ。
武器形態で体を動かして対処するより、宝玉形態で魔力攻撃で対処する方が早いんだ。
何せ己の意思一つで行動出来るからな。両手をポケットに入れてても大丈夫。
『しかし、おもしろい場所ね』
「何がだ?」
『壁をよくごらんなさい』
言われた通り目を凝らしてみる。
すると壁の中を・・・いや。この塔の地下全体を流れる魔力が見えてくる。
地下から地上へ流れている。流れが循環しており、淀みが一切ない。
「何で出来てるんだこれ?」
『恐らく錬金術で作られた物でしょうね』
グラディス曰く、この世界に現存している物質で魔力を100%通せる物は存在しないとのこと。
故にこの塔の地下にある壁は通常の方法で作られた物ではないんだとか。
錬金術については俺もいつかの時に図書館などで色々調べたことはあるが、あれは大体嘘らしいからなぁ。
「削れるか?」
『無駄な努力になりそうだからやめておきなさい』
「どうしてだ?」
『こんなに綺麗に魔力を通してるのよ?それが必要だったってことよ』
「必要性の分、保護はキチンとしていると」
『そういうことね』
成程。なら無駄な事はしない方が良いか。
その後、塔地下の探索を続けて30分以上が経った。
だがその間特に発見は無い。
ここにはモンスターはいないのか・・・?
そう思った矢先。
「お、いたな」
『いたけど・・・あれ、何かしら』
「ん?グラディスはスライムしらんのか?」
『スライム?知らないわね』
これは意外だな。普通にその手のモンスターは全部知ってる物かと。
まぁグラディスの知識って微妙に偏ってるっぽいからそういうこともあるか。
スライムの見た目は、パッと見では中に石の入った水饅頭。
恐らくあれがコアか何かなのだろう。
スライムによくあることとして、物理攻撃に強いってのがあるがあそこを攻撃すれば効きそうだな。
「ま、俺には関係ないけども」
『倒すの?』
「んー・・・敵意が無いなこいつ」
近寄ってみてもこちらに反応すること無くその場でぷるぷるしている。
試しに偶々鞄にあったビニール袋を置いてみると、ゆっくりと動いて袋を吸収し始めた。
「炭酸みてぇだな」
『ゴミ掃除をするモンスターなのね』
「スライムが絶対そうだってわけじゃないけど。こいつはそうみたいだな」
うーん。流石に怪物とはいえ、敵意ゼロの奴を倒すのは気が引けるか。
最近スライム需要?があるのかいやに可愛らしいのも増えてるしな。主にアニメで。
『怪物萌えってやつね・・・分からないわ』
「そこは人それぞれだからなぁ」
結局スライムには何もせずその場を離れる事に。
だが一度発見があると違うのか、そこからさらなる怪物も見つける事が出来た。
「お、角兎だ」
『兎・・・可愛くないわね・・・』
「もうちょい目の充血とか、何とかならんのかねあれ」
角から除くと、2匹の兎がいた。
その兎の額には見るからに鋭い角が生えており、目が完全に血走っている。
纏めると全然可愛くない。庇護欲が全く湧かない。
うんまぁ。殺すのに躊躇わなさそうってのは良い点だな!
「あ、バレた」
『今度は殺意アリね』
「ヨシ死ね」
強さとしては物凄く弱い。多分素手でも勝てる。
これは先週の怪物騒動の時に分かっていたことなので驚きはない。
魔力剣を2本飛ばし、串刺しにして終わりだ。
だが倒した後、死体が消えた事には驚いた。
「は?消えた?」
『還元されたわね。そういうシステムなのね』
消えた死体は一部は塔の魔力としてまた全体を巡っているように見える。
では塔に戻らなかった他の魔力はどこにいったか。
「見間違いじゃなきゃ、俺か?」
『ちょっと微量すぎて良く分からなかったわね』
見た感じ、倒した瞬間に魔力のいくらかが俺に流れ込んできた。
それで何かあるわけではない。グラディスも良く分からなかったレベルだ。
それにこれで魔力が回復したとかも起こっていない。
つまり別の所に魔力が消費されたことになるんだが・・・何なんだろうな。
「もうちょい倒さんと分からんかもな」
『でもあまりいないのよね』
「そうだな。さらに下に行けるとかだったらワンチャンあるかもしれないんだが」
『なら私が探した方が早そうね』
「効率は悪いけど、仕方ないか」
俺が歩き回って探すのは非常に効率が悪い。
そこでグラディスが操作する魔力動物を使うことに。
「犬かな」
『何でも良いわよ』
まぁ犬で良いだろう。
この魔力動物。感覚的にはラジコンが近い。
俺かグラディスが感知できる範囲までなら自由に動かせて情報集種が出来る。
視界共有とかは出来ないんだが、魔力を共振させることで周囲をの地形を探れる。
まぁ例外はあるんだが。
「ほれ行ってこい」
『これも自動に出来ればいいのだけれどねぇ』
「俺魔法は使えないからな・・・」
まぁ魔法と魔力行使は別物ってことだ。細かくは聞くな。
魔力動物探索は魔力の消費が多い。その為俺もあまり多用は出来ない。
それでも探索にかかる時間はぐっと縮められる。
実際開始5分程で目的の物を見つけられた。
『ここから400mくらいかしら?』
「近いな。走るか」
既にそこまでの道のりも分かっているので迷うことは無い。
道中で2回程角兎を見かけたが態々倒す程ではないので無視。
十数秒で目的地にたどり着くことが出来た。
そこにあったのは地下へと続く階段だった。
「今は・・・まだ余裕あるな」
昼くらいに出てきてるがまだまだ夕方にも遠い。
これならあと2つくらい同じ様な階層があっても調べられそうだ。
「そういやあのミノタウロスってどこにいるんかね」
『あの程度で良いの?』
「あー。手ごたえって意味なら、もっと強いのがいいなぁ」
他のが弱すぎてあれだったから忘れてたけど、ミノタウロスでもそこまで強いとは思えなかったんだった。
勿論普通の人間基準で考えたら脅威以外の何物でもないんだが。
てか下手したら角兎にも負けるだろうからな人間って。
リザードマン何て絶対に無理では?
「もしかして、これ結構下の階層まで行かないと敵弱いままか・・・?」
『まぁ人を中に誘っているのならそうでしょうね』
「うっへ・・・」
どこまで下に続いているか知らないが、もしかして割と手間がかかるやつかこれ