序盤でレベルを上げすぎた勇者の気持ち
土日は良いですね。いくら寝ても時間があるので
斬撃が魔力を帯び、蒼く光りながら怪物達を細切れにする。
衝撃波は不可避の攻撃となり、轟音が響くとその度に地面が揺れる。
そして空からは雷が降り注ぐ
「自衛隊は・・・とっくにいねぇや」
『いても役立たずじゃない』
「逆にいたら何してんだって話はあるな」
戦いが始まってすぐの時には嫌って程聞こえていた銃声も今は聞こえない。
だが全員死んでしまったわけではなく後退したのだ。
彼らの装備は、一部を除いて本当に意味が無かった。
手榴弾などの火力の高い物は通用したが、それ以外は牽制以外の意味がない様に見えた。
だが俺が一番前で、それも怪物達を後ろに通さない様に戦っていたのでまだ大丈夫だ。
というかそのせいで数発俺に当たったけどな。効かないけど。
なのでここで無駄に戦うよりは、すぐにでも下がってほしかった。
まだ距離はあるが後ろには塔を見に来ていた一般人が大勢いる。
そちらの避難を優先した方が万が一の被害も出なくていいだろう。
「ハァ!・・・それにしても多いな」
『どうやら塔に溜めた魔力全てをこの怪物達を生み出すのに使っているようね』
「どれくらい出てくると思う?」
『怪物達の強さにもよるけどそうね・・・後ろよ』
「分かってるよ」
振り返らずに鎌に変化させたグラディスで何かを斬る。
ちらっと見てみると、トカゲ人間だった。
「リザードマン?こんなのもいるのか?」
『この怪物なら、後2000体は出てくるわね』
「多いわ」
まぁこの程度ならそれくらいいても問題はないか。
それにリザードマンより強そうな怪物もちらほら見えている。
実質的には半分程と見ていいだろう。
「なら一回一掃するか」
『万が一があっても困るものね。剣でいいかしら』
グラディスを手放し、本来の姿である宝珠にする。
魔力を高め圧縮し剣を両手と周囲に生み出す。
『踊りましょうか』
「ブレイドカラミティ。剣の舞ってな」
剣を振るうと共に、周囲に出現させた剣も同時に動く。
建物の被害も一切気にせずとにかく手当たり次第に切り裂いて突き進む。
塔から現れ、俺を狙っていた怪物達はそれで全て全滅する。
「次!」
『竜の誕生ね』
宝珠から槍が生える。
それが空に放たれた後に肥大化、巨大な竜の姿に変化した。
「さぁ。食い尽くせ」
咆哮、そして吶喊。
この竜は俺ではなくグラディスの操作で動く。
俺から離れた位置へ行ってしまった怪物達を、魔力を感知して追いかけ殺す。
これで今出てきている怪物達はすぐに全滅するだろう。
ここからは塔の入口に気を付ければいいだけだ。
「って、急に止まった?」
『魔力が高まってるわ。注意して』
「大物か」
残った魔力をより強い怪物を生み出すのに使うつもりか。
恐らく俺が戦ったことで怪物達の侵攻が止められたことが原因か。
いやそもそも侵攻が目的か?
その割には随分と偏っていた気もするが・・・
「後回しだな・・・」
『来るわよ!』
グラディスの警告と同時に、塔から何かが飛び出してくる。
それをグラディスを即座に大剣に変化させて受け止める。
かなりの勢いだ。
踏ん張ることは出来ていたがそれでも後ろに押されてしまう。
コンクリートの道が砕ける程の勢いだが、それでも抑えきった。
「こいつは!」
動きが止まると何が突っ込んできたかようやく判明した。
二本の角を持つ人型の牛。ミノタウロスだ。
どうやらその角で俺を突き殺そうとしていたらしい。
今まで出てきた怪物達とは比べ物にならない強さだな。
「だけど。まだまだ足らないんだよ!」
お返しとばかりにミノタウロスの顎下にアッパーをかます。
自分が圧していた状態での、視覚外からの不意打ちに思わずミノタウロスはたたらを踏む。
それは大きな隙だ。逃すわけがない。
「ナイフ二刀」
体全体を魔力で黒い魔力で覆い、ナイフだけが蒼く光る。
ふらふらと動くと、そのうちナイフすら見えなくなる。
そのまま近寄っても、既にミノタウロスは俺を見失ってしまっている。
「これ効くのか」
『貴方が作った技じゃない』
シャドーシフト
そう名付けたこの技の効果を実感するのは初めてだがここまでとは。
懐まで入り込んだら後はすぐに終わる。
豆腐を切る様な感触を感じながら右脚を切り落とす。
そのまま姿勢が崩れ落ちてきた右胸にナイフを突き刺し、もう一方のナイフで首を刺す。
ナイフを手放して離れて、ナイフが爆発する。
「これにてお終い」
『お疲れ様』
跡形も残らずミノタウロスは消えた。
その後塔から怪物は出てくる様子はない。
頂上の宝石の光も収まっている。
「これで終わり?ミノタウロスで2000匹分あったか?」
『そうね。ちょっと弱すぎた気もするわね』
「だよな。何か他の事に魔力使われてたか?」
考えられるとしたら怪物を生むのに俺達が考えているより魔力を多く消費する。
或いは外に出す事に魔力を使うかとかその辺か。
『それでどうするのかしら?』
「何が?」
『あら。忘れたの?ちょうど良いタイミングだと思うのだけれど』
「だから何が・・・ってあー」
そうか。今なら中に入れるのか。
だけど俺が中にいる間にまた怪物が外に出てくると不味いんだよなぁ。
でもそれを言うとずっと俺がここに張り付かないといけなくなる。
あんまりここにいすぎると俺の事がバレそうなんだよな。
「・・・はぁ。暫く様子見だな」
『勿体ない』
「そうは言うけど。被害が出るのを黙って見過ごすのもなぁ」
俺は自分がある程度人でなしである自覚はあるが、最低限のモラルはあると思っている。
戦う事を決めた奴がどれだけ死のうと知ったこっちゃないが、
そうではない人が死ぬのはどうなのかと疑う程度にはな。
「全力で走った場合、ここまでどれくらいで来れるかな?」
『30分くらいじゃないかしら』
「30分・・・それくらいなら耐えられると思いたいがはてさて」
そろそろ自衛隊も戻ってくる頃合いだな。
ここで引かないと面倒なことになるか。
「ここ以外の塔の事も知るべきか。やっぱり帰るか」
『はぁい。暫く楽しくなりそうね』
「ああ。忙しくなりそうだ」