素敵なパーティー その6
筑紫はやはり、声に聞き覚えがあると感じるが今は戦闘に集中した。幸い相手のエイムはそこまで正確ではなく、走り続けていれば当たらない。
「よく当たらないね?」
「そろそろMP尽きるでしょ……!」
「まだ余裕はあるから安心してくれ」
筑紫もハンドガンで応戦しているが、手元がブレまくり全く当たらない。当たりそうになっても何故か避けられるのだ。
距離を取ろうにも詰めようにも、相性が悪すぎる。まだ男のもう一つの武器が分からない以上、筑紫は何も出来なかった。
「マジでっ?!」
「足で良かったね?」
ナイフを投げられたのだ。銃声と自分の足音によってかき消されてしまい足に刺さる。ダメージはそこまでだが何本も喰らうと不味い。
「ここまで使わずに来れたからね、残り九本だよ」
「わざわざ言ってくれてありがと!」
「ここまで君に避けられるとは思っていなかったな……」
男は回復薬を取り出し、射撃を止めて飲んだ。HPではなくMPを回復させたかったのだろう。筑紫はそのチャンスを逃さずに接近した。
それなりに量があるのか男は焦って流し込んでいるがもう遅い。筑紫は男の目の前まで辿り着く。スナイパーライフルで撃たなかった理由は、空いてる手で投げナイフを使われる危険があったためだ。
男はハンドガンによる発砲を回避しようとして横に飛ぶ。しかし……。
「銃床で殴ってくるのは聞いてないよ……?!」
「あっぶなかったぁ……」
後で知ったがアサルトライフルは両手で持たないと反動でマトモに撃てないらしい。銃床で殴られた男は反撃しようとするが遅かった。
「僕の勝ちだから」
「やっぱ戦闘なんてやるもんじゃないね……」
それよりも先に筑紫がハンドガンを頭に向ける。男は諦めた目で手を上げて、頭を撃ち抜かれたのだった。そこで戦いは終わり、その場に大きく文字が浮かび出た。
『勝者 筑紫癒猫』
花火が上がり、視界は暗転する。するとゴーグルが外され、パーティー会場の歓声が聞こえてきた。それは筑紫を讃えるものだった。
「筑紫様、やりましたね!」
「え? う、うん」
「お嬢様とご主人様がお待ちです」
メイドに支えられ、舞台へと上がる。そこには拍手をしている紗夜と父が立っていた。それと雨音と先ほどの男が居たのだ。
「き、僅差で三位でした」
「おめでとう、君の勝ちだよ」
「ふふ、信じていましたわ」
「あんなに心配していた癖に何を言ってるんだ」
「それは秘密ですわ。こほん……これより表彰式を始めますわ」
「先ず三位、小学四年生ながら優秀な成績を収めた神狩雨音だ」
「お、お爺ちゃんに見てもらえて嬉しいです!」
手を振っている先は挨拶回りに行った時に出会った老人だった。孫娘と言うわけだろう。老人の方も満足そうに笑っていた。
「大健闘の二位、賤ヶ岳晴翔だ。初参加のパーティーのメインイベントだが感想は?」
「いやぁ悔しいね。結構自信はあったんだけどな」
悔しいと言っているが、その顔は清々しかった。戦闘中は気にする暇はなかったが、かなり整えられた顔で若々しい。
「最後に一位、筑紫癒猫。おめでとう、拍手を送ってやってくれ」
「おめでとうございますわ」
「何回か心が折れそうになったけど……勝てて良かったよ」
その瞬間今までで一番大きい拍手が湧き上がる。そして父は話を続けているが、紗夜は三人を奥の部屋へと案内した。
「筑紫ちゃん、カッコよかったですわよ?」
「やめてよ……」
「しっかりとビデオに収めていますので安心してくださいね」
「何も安心出来ないから!」
メイドが汲んだ紅茶をのんだ晴翔も喋り始める。
「君は凄いよ、さて……そろそろ自己紹介でもしようか」
「晴翔さんは悪戯好きなのですね」
「辞めてくれ、僕は楽しみたいだけだよ」
「……やっぱりまさか」
「その通り、僕は晴翔、君たちに武器を売ったプレイヤーだよ」
「ふぇ……?」
ゲーム内で聞いた声とそっくりのものを出しながら答えたのだった。なお雨音は理解出来ていなかったがメイドにオレンジジュースを貰って喜んでいた。
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