素敵なパーティー その2
扉を開けるとそこは筑紫の住んでいる世界とは違った光景だった。全てが煌びやかに見え、輝いているように見える。
「ぅぁ……」
「大丈夫ですわ」
筑紫から小さな悲鳴が出つつも紗夜が優しくそう言う。周りの客人は驚いた声を出し、それと同時に多数の視線が向けられた。
そして奥に居るのは若々しくも貫禄がありタキシードを着こなす、ツーブロックの黒髪の紗夜の父の姿があった。
「皆様、お待たせいたしましたわ。魔夜美紗夜と申します。此方は私の友人である筑紫癒猫ですわ」
「よ、よろしくお願いします」
紗夜は立て板に水を流すようにスラスラと紗夜は喋るが、当然筑紫は何を言って良いか分からずたどたどしくなってしまう。
そこで紗夜は口を耳まで近づけてこう言った。
「ふふ、そんなに可愛いお姿を見せていたら狙われてしまいますわよ」
「へ?!」
「お静かにですわ、殿方よりも女性の方の人気が凄まじいと予想していますので私から離れないでくださいね?」
「う、うん」
筑紫はその言葉の意味をあまり理解していなかったが、確かに特に二十代頃の女性の視線が殺到していた。
このまま一人で行こうものなら揉みくちゃにされ、最悪個人情報を抜き取られるだろう。それを察知していた紗夜は離れないでと言ったのだった。
「挨拶周りをしなければならないので少し我慢してくださいね」
「はーい」
筑紫も顔合わせのために一緒にしなければならない。最初は六十歳は越えているが物腰柔らかそうな老人に向かった。
「お久しぶりですわ」
「会えて嬉しいぞ、紗夜嬢」
後から聞かされたものだが、紗夜の小さい頃から見守ってきた人物らしい。父とも深く面識があって様々な面で助けられていたらしい。
昔は鍛冶屋、今は鉄鋼関係の大会社の社長なのだ。
「筑紫癒猫さん、だったかの。老いぼれからの言葉じゃがこれから色々大変なことがあるじゃろうが挫けず頑張りなさい、輝かしい将来が見えるからの」
「は、はい! ありがとうございます」
「力を抜いて良いぞ、もっと話をしていたいが……先に行きなさい」
「えぇ、長話も悪いですわ。ごゆっくりお楽しみください」
老人の視線は後ろに向けられていた。紗夜が耳を澄ませると後ろから複数の足音が近づいていることが分かる。
紗夜と老人は不埒なことを考えている複数の客人が少しづつ近づいていることに気づいたのだ。自然に逃すためにこうしたのだ。
そしてまた何人かに挨拶をし終えた時、紗夜の父が話しかけて来る。声は低く圧が感じられるがこれが通常だと筑紫も紗夜も知っている。
「筑紫さん、御気分は?」
「大丈夫です、誘って頂きありがとうございます」
まだ声は強張っているが少しは和らいでいる。それを聞いて安心したのか息を吐いていた。
「紗夜、配信活動の方は上手くやれてるな?」
「順調ですわ、やはり筑紫ちゃんには才能がありますわね」
「買い被りすぎだって!」
「ふふ」
紗夜は微笑むだけでそれ以上何も言わなかった。そしてマイクを持ったメイドが父に近づき、手渡した。スイッチを入れて話し始める。
「今日は来て頂き感謝を、そろそろメインイベントへと移ろうと思う。最近はVRゲームに手を出したのだが……思いの他楽しい業界と気づいた。だからメインイベントにも取り入れた」
メイドたちが最新式のゴーグルと、椅子を運ぶ。そこで筑紫は悟った。筑紫は小声で紗夜に話しかける。
「ねぇもしかしてメインイベントってPVP……?」
「えぇ、とは言っても会社は同じですがオリジナルの戦闘シュミレーションですわ。最後の一人になるまで生き残れば良いだけなので」
「──という訳だ。参加者の八人は向かってくれ」
メインイベントは筑紫を含む八人のゲーム内でのバトルロワイヤルだった。紗夜から見送られながら筑紫は席へと座る。
「それと最後まで残った者には賞品がある、頑張ってくれ」
父の視線が一瞬筑紫へと移る。周りの参加者は筑紫より年上か、同年代だが何よりただの友人枠の女子高校生がメインイベントの参加者だは思っていなかった。
期待や舐めているような声も聞こえるが筑紫の覚悟は決まっている。
「ま、ゲームの中だけでも頑張らないとね」
こうして一人ぼっちの戦いが始まろうとしていたのだった。
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