ちょっとした交渉
「この依頼はどうでしょうか?」
「森に居るミニベアの討伐? 森自体見たことないけど」
「草原の奥の方にあるらしいですわね。装備は……どうしましょう」
「お金貯めるしか無さそうだけど……」
そんな会話をしていると、間に割り込むように一人の女性プレイヤーが駆け寄って来た。
「運が良かった……初めまして、ギルド千里眼のカナルルと申します」
「ん?」
「ギルド千里眼……聞いたことがありますわ、情報屋でしたね」
「はい、その通りです。お二人について伺いたいことがありまして……」
装備は派手ではないがそれなりの物を着けている様に感じる。ニャイアルは何も分かってなさそうだが、サヤは少し訝しみながら話を続ける。
「用件は何でしょうか?」
「お二人の種族名とその種族が持っている物を一つだけで良いですから教えて欲しいんです。もちろんタダでとは言いません。そうですね……一人十万Gでどうでしょうか? あ、それと課金で買えるアイテムで会話が周りに聞こえなくなる物を付けていますのでご安心を」
「十万?!」
「分かりましたわ……」
「では教えて頂いて」
「断りますわ」
「え?」
「断……わる……?」
ニャイアルは驚いた顔を、カナルルはまさか断れるとは思っていなかった表情をしている。
「ニャイアルちゃんにも言ったませんでしたが……私の種族も初めて出たエルフに近いものでしょう、しかしこのゲームの未知の情報と言うのは十万では収まらないでしょう?」
「そ、それは」
「十万を一人五十万に変えたら今回は許しますわ。種族も私の方は教えますけど……どうでしょう?」
「う、うん。僕も大丈夫」
「分かりましたわ、なら私の方から。私の種族はエルダーエルフ。見た目はほぼエルフと変わりませんが魔法に大きく補正がかかりますわね」
「僕は猫又、敏捷と知力に補正がかかってる」
「ありがとうございます、ではトレード機能で渡しますね」
「一つ貸しですわ」
「っ……分かりました」
そしてサヤとニャイアルに五十万渡されたのを確認し、カナルルと名乗った女性プレイヤーは逃げるように去って行った。
「ふう……飛んだ目に合いましたわ」
「ええっと……どう言うことだったの?」
「私たち、詐欺に合いましたわね」
「えぇ……」
「私の種族を黙っていたことは申し訳ありませんわ。驚かしたかったのにこんな事になってしまって……」
「大丈夫だよ。でも大変なことになってる気がするけど」
「もしかしたら、これからもっとあの様な方々が来られるかもしれませんわね」
「うへぇ……」
ニャイアルが苦虫を噛み潰したような顔をする。サヤも少し暗そうな顔をしていた。
「とりあえずある程度進むと家を買えると聞きましたわ。当面の目標はそうしましょうか」
「大変だなぁ……」
「私も付いていますから、一度装備を整えに行きましょうか」
「はーい」
そうしてやってきたのは武器屋、しかし二人が使っている武器は無かった。
「ありませんわね」
「無いね、僕はナイフ買っても良いけど……」
「やめときましょうか」
筑紫の身体能力は、兎に角偏っているのだ。動体視力や瞬発力、スタミナはあるがその他は全然出来ないのである。剣道をやった時は木刀を構えることすら出来なかったレベルだ。
次に向かったのは防具屋、金だけはあるので売っている中で一番良い物を買った。
「序盤で手に入る物としてはお洒落ですわね」
サヤが買ったのは巫女服だ。
防具・祈祷師の巫女服
防御力:10
効果:職業が祈祷師系の場合、消費MPが少し減る。
「サヤが巫女服着てるのなんか新鮮」
「ふふ、ニャイアルちゃんも似合ってますわよ?」
「そう?」
ニャイアルが買ったのは迷彩柄の服だった。しかもマフラーの様な物が付いている。
魔銃士の迷彩服
防御力:10
効果:職業が魔銃士の場合、少し敵に見つかりにくくなる。
アクセサリーや、他の部位の装備は売られていなかった。サヤが言うには一つ目のボスを倒して、そこから行ける街からが本番のようなのだ。プレイヤー同士の売買が出来るのも、そこかららしい。
「では行きましょうか」
「はーい」
二人は手を繋ぎながら目的地である森へと向かったのだった。
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