賽は投げられていた その7
「準備が出来ましたわ」
「はーい、やっぱまだ緊張する……」
「いつも通り肩の力を抜いてくださいね?」
そう言って微笑みながらニャイアルの頭を撫でる。撫でられた彼女は緊張が少しほぐれたのか表情が柔らかくなる。
そしてサヤは配信開始のボタンを押した。
「皆様ご機嫌よう、サヤですわ。今回はのんびりレベル上げをしようと思いますわ」
「ニャイアルだよー」
「今日は既に四百人近くの方が来られてますわね」
「そんな来てるの?!」
「それだけ私たちが有名になってきたと言うことですわ」
「うぅ……今になって緊張してきた……」
「大丈夫ですわ、荒らしなどの対応はしておりますし。私もついてますわよ?」
「うん……」
サヤはニャイアルの頭を撫でながら優しくハグをする。その頃コメント欄では墓が乱立していた。死因はどうやら尊死とギャップ萌えだ。
「……しばらくこのまま抱きついておきたいですわ」
「今度は羞恥心が勝つからやめて?!」
「……」
「無言で離さないのは駄目じゃないかなぁ?!」
流石にそろそろ配信の方を進めないと不味いと思ったのかとても名残惜しそうに離した。そして二人は本来の主旨であるレベル上げのために砂漠へと向かう。
PK集団はニャイアルたちの殲滅に懲りたのか見なくなった。そのおかげで安心して配信が出来るのだ。無事に潜伏ポイントならぬ実家ポイントと視聴者から呼ばれている所へと辿り着く。
コメント欄を確認していると一つ気になるコメントが見つかった。
名無しさん:お二人ってどう言う経緯で知り合ったんですか?
名無しさん:気になる
名無しさん:年齢は未成年だと分かるけどな
「あー……どする?」
「答えましょうか、確か初めて会った時は五歳の時でしたね」
「うんうん、その頃から抱きつき癖は健在だったよ」
「ニャイアルちゃんにだけですわよ?」
「中学生の頃は修学旅行で抱き枕にしてきたじゃん……」
「ふふ、そんなこともありましたわね。話が脱線しましたので戻りましょうか、友達を作ろうとして一番最初になったのがニャイアルちゃんでしたわ」
紗夜はそう懐かしそうに言った。資産家の令嬢と言うことであり、なかなか馴染めずにいた。そこで筑紫が転んでいるのを助けて友達になったのだ。
「何をするにしてもずっと一緒だったしね、プールの時は危うく着替えまで手伝われる所だったよ」
「あれはニャイアルちゃんが大変そうにしていたからですわよ?」
「それはそうだけど!」
ニャイアルは恥ずかしさを誤魔化すように頭をかいている。しかしここで何かを彼女は捉えたようだった。
「ん? 走ってくる危ないっ!」
「きゃっ?!」
この潜伏ポイントは狭いのでウルルを出していたら咄嗟にサヤを外に突き飛ばさなかったかもしれない。ニャイアルも潜伏ポイントの外に転がり出るように出るとそこには黒い双剣を持ち、サラシを巻いてボロボロの赤いズボンを履いた血のように赤い宝石の首飾りが目立つ女性のプレイヤーが立っていた。
「反応したか……やるじゃない」
「っ?!」
「嘘ですわ?!」
「我にそんな豆鉄砲が効くと思うか?」
魔弾を放つもそれは弾かれる。そのプレイヤーは身長が二メートルもあり、鬼の角のようなものが大きく一本あった。
「まさか避けられるとは思ってなかった、スキルでもなさそうだし聴覚が良いのか? まぁ良い。私が差し出したPK集団を壊滅させたお前は我のお気に入りリスト入りを喜べ」
「……全く嬉しくないけど」
「ニャイアルちゃん、明らかに勝てる相手ではありませんわ。ここは逃げるしかありませんわよ」
「小声で喋っているつもりでも聞こえているぞ? 今は戦う気はないから安心してくれ。我もそこまで暇ではない。後あの水晶は好きに使え。既に賽は投げられている、じゃあな」
「っ!」
女のプレイヤーは何かを取り出すとそれを下に投げつける。その瞬間煙幕が立ち込め姿を見失った。コメント欄も騒ついている。
見ていくとどうやらこのゲームでトップレベルに有名なPKだそうだ。公式が開催したPVPイベントでもキル数はトップだった。
それを見たニャイアルは呆然と立ち尽くしていた。一旦二人は街へと戻ることにしたのだった。
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