賽は投げられていた その6
「《ボムショット》」
「おっと、危ないですわ……」
「グルルルル!」
剣が空を切る音や爆発音が入り乱れる。サヤはウルルの近くであるが前の方で戦っている。何かあっても火の障壁が使えるからだ。
ウルルはサヤのカバーだが下水道と言う限られた空間のせいかいつもより少し動きにくそうにしていた。しかし役割はこなしている。
ニャイアルは石階段の付近で狙撃していた。密集しているのと、場所の狭さが逆に彼女を有利にしていた。落ち着きながら一人ずつ落としていく。
しかし敵もやられっぱなしではない。純粋な数の暴力で僅かにだが押していっている。合計三十人前後だが、防具をしっかりと揃えている者はニャイアルの狙撃を耐えていた。
そして十分以上が経過した頃、ついにサヤが火の障壁を発動させた。ウルルのHPも半分を切っている。少しニャイアルたちに焦りが出てきたのだ。
「大丈夫?!」
「えぇ、少し不味いですわ。こちらも切り札を切るとしましょうか」
そう言うと一つの小袋を取り出してウルルに渡した。そしてサヤはニャイアルに一つの指示を飛ばす。
「ウルルの援護をお願いしますわ!」
「う、うん!」
ニャイアルはサヤの切り札が分からずとも行動に移る。PKたちはウルルを狙うが、それは防がれる。しかし全身鎧を着ている敵が向かっていた。
「兜の隙間ね……《チャージショット》」
少しでも真っ直ぐ飛ばすためチャージショットで撃つ。隙間と言っても三センチほどだ。しかしそこを撃ち抜かなければ間に合わない。
「がっ……?!」
「当たった?!」
撃った本人ですら驚くほどの奇跡だと思うような魔弾だった。無事に命中し、全身鎧は地面に倒れポリゴンの欠片となった。
そしてウルルはPKたちの背後を取る。そして咥えていた袋を全力で投げたのだ。それと同時にサヤも逃げるように後ろに下がる。
その袋が地面に着いた瞬間に、黄色の粉末が瞬時に広がった。そしてその範囲内に居たPKたちは次々と倒れて行く。倒れなかった者も震えていた。
「粉塵麻痺薬ですわ、前にニャイアルちゃんがくれた素材全てを使って作りましたの」
「おー、役に立てて良かったよ」
「ふふ、なら効果が切れないうちにトドメを刺しましょうか」
ニャイアルたちは次々と動けないPKたちを倒して行く。命乞いなどをしていた者もいたが……。
「貴方たちは命乞いを聞いて見逃したことがありますか?」
「え、いや……」
「じゃ、バイバイ」
そう言って切り捨てていった。そして全てを倒し切った頃、奥から誰か走って来る音が聞こえた。姿を現したのはそれなりに良さそうな装備をした男である。
「な、なんだこれは」
「貴方がPK集団のボスですか?」
「お、お前らが俺の部下を殺したのか!」
「うん、この街から出ていってくれない?」
「そ、そんなことできぐっ……?!」
「拒否権ないよ?」
槍を武器としていたようだったが、ニャイアルによって足を撃たれて動けなくなる。
「ま、待ってくれ俺は命令されて」
「はいはいテンプレね、遺言はそれだけ?」
「久し振りに怒りというものを感じましたわ、それでは死んでくださいね。《木槍の祈り》」
「ガゥッ!!」
「あっ」
男はニャイアルの魔弾とサヤの魔法とウルルの噛みつきによって呆気なく倒された。もう少し奥に行くと男たちが拠点にしていたらしき場所に着く。
そこには天幕や木製の机や椅子などがあったが、そこに似合わない物が一つあった。
「天使の水晶……?」
「効果も序盤の街にある割にはおかしいですわね……」
天使の水晶
効果:設置すると、水晶を中心として半径10メートルはモンスターが入れず、ログアウトが出来る空間に出来る。
説明:上位天使を倒した時にごく稀に落とす物。その力は水晶に封じ込められても衰えることは知らない。
今までなかった説明の欄や上位天使という文字。明らかにここで手に入る物ではない。
「とりあえず私たちが持って行っても良さそうですわね」
「また悪用されても困るしね」
そのアイテムはサヤが仕舞い、その場を後にした。二人は疲れと明日の配信に備えるためにログアウトしたのだった。
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