賽は投げられていた その1
目の前のプレイヤーは息を整えると一呼吸置いて喋り出す。
「どうもありがとうございました! 私の名前はやー子と申します! 貴方方の名前は?」
「僕はニャイアル」
「私はサヤですわ」
「レアな素材を手に入れてしまったがばかりにPK集団に追われてしまって……」
「どうしてそれがPK側に分かりましたの?」
「実は野良で募集したパーティーだったのですが……その正体は悪質なPKだったんですよね。倒されたら所持金の三割とアイテムを一個落とすと言っても、ランダムなのでまさか狙って来るとは思わず……あはは……」
「それは災難だったね?」
そしてここに至ると言うわけだ。事の顛末を話したやー子は安心したように地面に座り込む。どうやらそれなりの時間を逃げ回っていたようだ。
ニャイアルは周りを警戒するように見渡す。近くに襲ってきそうなモンスターが居ないことを確認すると同じように座り込んだ。
「それで……ここからどうするの?」
「えっと……街に一旦戻ります!」
「それはそうですが、またPK集団が襲って来たら今度は助かりませんわよ?」
「あっ……」
「……分かったよ、僕たちが護衛する」
「ふふ、そうですわね」
どうやらやー子と言うプレイヤーはかなり警戒心が薄いようだ。ニャイアルは仕方なく街まで護衛することを決める。
「ありがとうございます! 礼はしっかりしますので!」
「んー、何が出せるの?」
「アクセサリーが作れますのでそれはどうでしょうか?」
「僕は今はいいけど……サヤは?」
「なら有り難く貰いましょうか」
「誠心誠意作らせて頂きます!」
「とりあえず移動する時はもっと声小さくしてね?」
「は、はい」
ニャイアルたちは、やー子を二人で挟むようにしながら街へと向かう。真剣な顔つきになった二人にやー子は押されながらも遅れないように進む。
「サヤ、そっちに多分スライム来てる」
「えぇ、《木槍の祈り》」
「《チャージショット》」
隠れずにプレイヤーを護衛しながら進んでいるため、モンスターとの遭遇率も高くなっている。ニャイアルは聴力をいつも以上に働かせていた。
運が良いことにPKとは遭遇せずに街へと辿り着いた。ニャイアルは安堵したように息を吐き、サヤも安心したような顔をしていた。
「護衛と言うのは大変ですわね……いつも私を守ってくださっているボディーガードに感謝ですわ」
「あー疲れたぁ」
「ニャイアル様もサヤ様もありがとうございます! 色々迷惑をかけてしまってごめんなさい!」
「様なんて良いよ、助けたのほぼ気紛れだし」
「こう言ってますが優しい子なので安心してくださいね」
「ちょっサヤ!」
「何か間違ったことを言いましたか?」
「ぐぬ……」
「ふふ、可愛いですわね」
サヤはそうにっこりと言い、やー子へと向き直る。
「私この街に専用の工房を買っていますので! 良かったら見に来てください!」
「分かった、気になるし行ってみるよ」
「私も行きますわ」
「では案内しますね!」
やー子は二人を連れて自身の工房へと連れて行く。この事件がきっかけで一つの更に面倒な事件が起こるとは知らずに。
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