修学旅行は甘酸っぱく? その8
「大丈夫ですか? 筑紫ちゃん」
「なんとか……」
時に楽しみ、時に恥じらい、時に気まずくなりながら時間は過ぎていった。紗夜の告白と自分の気持ちに向き合いながら筑紫は自問自答を繰り返している。
(本当に僕が付き合えるの? 告白されるまで分からなかった、ちょっと特別な幼馴染の関係だし。でも……)
「どうかしましたか?」
「な、なんでもない」
「……十分ほどここで待っててください、私は少し近くを散策して来ますから」
「う、うん」
そんな筑紫の心情を察したのか紗夜はいきなりそれを言い出し、何処かへと歩いて行った。流石の筑紫も何故紗夜が自分の元を離れたのか理解する。
「どうしよ……もう時間が無い」
時間は刻一刻と無くなっていく。この十分が筑紫に与えられた最後の考えられる時間なのだ。
(僕は紗夜のことを……どう思ってるんだろ。友達? 親友? 幼馴染? ……なんか違う気がする。憧れ……目標……好き……意識してなかったのに)
筑紫の心臓はバクバクと音を立てながら冷静さと思考力を奪っていく。時間は半分を切り、さらに余裕がなくなる。
(好き嫌い? でも紗夜は僕が好き、僕は紗夜が……好きなの? 恋愛的な意味で? 確かに今日一日心臓がうるさくなる時が何回もあった。本当は僕は紗夜が好きなの? でも……)
頬に冷や汗が流れる。残された時間はあと僅か、そろそろ何らかの決断をしなければならない。そこで一つの言葉を思い出す。
(素直に……素直って何? 僕の気持ち……筑紫とずっと……隣に居たい……でもでもでも)
脳がオーバーヒートする前に紗夜が戻って来る。手には飲み物が握られていた。
「お待たせしました」
「…………おかえり」
「飲みますか?」
「飲む」
紗夜からお茶を受け取って飲んだ。冷えていたからか少し肌寒くなったが多少なりとも落ち着くことが出来た。
「では最後の場所に行きましょうか」
「最後の?」
「えぇ、とっておきの場所がありますわ」
「ん、分かった」
紗夜に連れられるまま着いた場所は、夜景が見下ろせるビルの頂上だった。人は彼女たち二人しかおらず、来る気配も無い。
「……筑紫ちゃん」
「……」
「改めてですが……私と付き合ってください。絶対に離しませんわ」
紗夜も緊張していたのだろうか。少し顔は赤くなっており、指先が震えていた。だが筑紫はそれの比にならないくらい焦りや緊張が限界突破していた。
体は震え心臓の音は紗夜に聞こえるかもしれないと言うほどに鳴っている。呼吸も早くなり視界もおぼつかない。
「僕は……僕は」
「はい」
筑紫は紗夜の目をなんとか見つめて口を開く。
「………………紗夜の隣にずっと居たい、紗夜と笑ったり遊んだりしたい」
口から自分の気持ちが次々と流れていく。
「紗夜と色んなことしてみたい。それと……す、素直に……なりたい。紗夜の前くらい僕になりたい。僕も紗夜の役に立ちたい。だから……紗夜のこと好き」
「……」
「こんな答えじゃダメ、かなぁ……素直になってみただけ、だけど」
「ありがとう、癒猫ちゃん」
「んぐっ」
それを聞いた紗夜は筑紫を抱き寄せてキスをした。数秒後、唇を離した二人は互いにさらに顔が赤くなっている。
「本当は不安でした、癒猫ちゃんが振り向いてくれるかどうか。私も努力はしましたが後は祈るしかありませんでしたわ」
「うん」
「ですがちゃんと……自分の気持ちを言ってくれて嬉しかったです。ずっと隣に居ます、ずっと愛します、ずっと素直でいられるようにします」
「……僕たちこれで恋人、なんだよね」
「えぇ、そうですわ」
「もう一度キス、良い?」
「何回でも大丈夫ですわ」
彼女たちはもう一度キスし、ハグし合う。言葉に出来なかった気持ちも全てそれで溶かしてしまおうと言う勢いで。
そして二人は手を繋ぎ、楽しそうに喋りながら集合場所のホテルへと向かうのだった。
読んで頂きありがとうございます
長々と続いた修学旅行編はこれで終わり、この章も何とかして三話以内に締めます。




