初配信その2
その後も二人は順調に配信を進めていく。投げ銭こそ投げられなかったものの百人は越えたのだ。
「配信もそろそろ終了時刻に近づいて来てますわね」
「僕のMPも尽きそうなんだけど」
「街に戻りましょうか」
「じゃぁ最後の索敵するね。《魔力探知》」
サヤは次の配信日やコメント欄の確認、そしてレベルの確認をしようとしていた。しかしニャイアルは突然サヤを強く押し倒す。
「突然どうしましたの?! まさか甘えたく」
「後ろ見て!」
そうニャイアルが叫ぶと、サヤが立っていた場所を矢が飛んでいく。押し倒されなければ当たっていただろう。そしてその犯人は……。
「リーダー、外しちまったよ」
「コイツらが粛清対象で間違いなんだな?」
「えぇ、呑気に配信で位置をバラしてくれてました」
三人のプレイヤー、しかもそれぞれ武器が違う。リーダーらしき男は大剣を構え、もう一人は弓、残る一人は魔法使いとバランスが取れていそうなパーティーだったのだ。
「あー…サヤどーする?」
「そうですわね……」
サヤもニャイアルもMPは二割を切っている。火の障壁のクールタイムは終わっているが、敵と二人の位置は大体十メートル離れているくらいだろう。
そして二人が取った選択肢は一つ。
「「逃げるよ(ますわ)!」」
ニャイアルとサヤは左右にバラけながらも、街に向かって走り始める。その行動に反応が遅れた男たちも追いかける。
「待て! 逃げるなんて卑怯だろ!」
「後ろから不意打ちする方が卑怯じゃないかなぁ?!」
「本当にそうですわ!」
魔法使いの男は置いて行かれたが、弓矢使いは油断出来ない。しかも大剣の男はゴツい見た目の割に足が速い。ニャイアルは先に弓矢使いの足止めをすることに決める。
狙いは足、走りながらなので突然手はブレまくる。止まれば大剣の男に追いつかれそうだが覚悟を決めて、足を止める。
「っ……!」
「うぉっ?!」
素早く足に銃口を向けて、発射した。当たったどうかを確認する前にニャイアルは前に転がるように来るであろう攻撃を避ける。その読みは当たり、大剣使いの男の振り下ろしを避け、弓矢使いの男の足にもヒットした。
「もうすぐ街!」
「この調子だったら逃げ切れそうですわね」
サヤもニャイアルよりは遅いが、逃げるには十分な敏捷値がある。男たちは全滅させるのは無理だと分かったからなのか、サヤの方へと視線を移した。
しかし鈍足の祈りを使うにしても、十秒間その場に立ち止まらなくてはならない。だからサヤは火の障壁を使ったのだ。
「(賭けですわ……)《鈍足の祈り》」
「バカめ!」
大剣使いの男は嘲笑いながら大剣をサヤに向かって振り回す。しかしその攻撃は失敗に終わった。何故なら火の障壁の硬度が男の攻撃を上回ったためである。
溜め時間である十秒は過ぎた。男の脚は目に見えて遅くなる。その間にニャイアル達は街に逃げ込むことに成功したのだった。
「あー危なかったぁ」
「はぁ……はぁ……そうですわね……」
街の中でのPVPは出来ない。安心した二人は配信の終わりの挨拶を始めた。
「想定外のトラブルはありましたが、今日は大勢の方に来て頂き感謝ですわ、次回の配信日は三日後。ありがとうございましたわ」
「さよならー」
ニャイアルは手を振り、サヤは深々とお辞儀し配信は閉じられる。そんなこんなで初配信は無事に終わったのだった。この初配信が後に思いもしない事件を生むとは気付かないままだが。
読んで頂きありがとうございます、サヤ視点や重要ではないリアルパートは閑話休題として纏めておきますのでご了承くださいませ