修学旅行は甘酸っぱく? その1
配信から数日後の夜、筑紫は忙しなくクローゼットや棚とキャリーケースを行き来していた。理由はただ一つ、修学旅行前夜だからだ。
「あれとこれとそれと後は……何でこんなことに!」
今のこの状況は面倒くさがってしまった結果なのだが、当の本人は気付いていない。筑紫は何とか全てを詰め込んでケースを閉じる。
「多分これで大丈夫、もう遅いから寝なきゃ……」
彼女はベッドに倒れ込んでそのまま眠る。そして次の日、アラームと共に目が覚めた。急いで最終準備などをして家を出る。
「おはようございます、筑紫ちゃん」
「おふぁよう……」
「アホ毛が立ってますわよ?」
「あっ?!」
「ふふ、直してあげますから少し止まってくださいね」
紗夜は櫛を取り出してアホ毛を無くした。二人の服装は完全に私服であり、筑紫も多少はお洒落をしていたのだ。
「少し急ぎましょうか、時間が危ないですわ」
「だね」
少し小走りをしながら二人は集合場所へと行き、無事に時間までに着いてバスの座席も確保出来た。だが座る前に紗夜にクラスメイトの女子が声をかける。
「紗夜さん、是非私の隣に!」
「申し訳ありませんわ、私には筑紫ちゃんが居ますので」
「……はい……」
少し間があったものの大人しく引き下がり、紗夜は筑紫の隣に座る。
「お待たせしました、筑紫ちゃんの隣は落ち着きますわ」
「……僕を大切な人みたいな言い方して良いの?」
「何も問題はありませんわよ? この前も言いましたが私は筑紫ちゃんのことが好きですので」
「……恥ずいからやめて」
「もっと言っても良いですのよ?」
「ダメ」
「そう言われるとやりたくなりますわよ?」
「ま、周りの人も見てるから……」
「ふふ、そうでしたわね」
周りが少しザワつきながらもバスは空港に向けて出発する、最終目的地は北海道だ。その間談笑や簡単な編集などをして時間は過ぎて行く。
そして遂に北海道へと着いた。まだ九月くらいだがいつもより肌寒く筑紫は感じていた。
「さむっ……」
「上着はありますか?」
「うん、紗夜は北海道来たことあるの?」
「ニ回ですわね、とは言っても最後に行ったのは数年以上前ですわ」
「ふむふむ……」
「自由に動けるのは最終日の前日だけですから楽しみましょうね?」
「ん、そだね」
初日は動物園に向かって、そこでの観光が終わったら後はホテルまでひたすら移動なのだ。動物園もそこまで大きくないので一時間もかからないだろう。
「シロクマだ」
「こうして見ると迫力がありますわね」
そうこうしているうちに一時間はあっと言う間に終わり、バスへと二人は戻って行くのだった。
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