鬼ごっこ その4
「《フライングハイ……」
「横に飛んで!」
「スラッシュ》!」
「きゃぁっ?!」
サヤが横に飛んだ瞬間にその場所に淡い黄色の弧を帯びたモノが通り過ぎる。幸い飛距離はそこまでないのかやー子に届く前に消えた。
「当たったら即死と考えて良さそうですわね」
「そろそろ当たるだろ、《フライングハイスラッシュ》」
「まだ大量に使えるみたいだし……ねっと」
ナイフの投擲を凌いだかと思うと、今度は斬撃が飛んで来ているのだ。ニャイアルがスキルの名前を聞き取って大体の飛んで来る方向を当てている。
お互い走りながらのため、それでもニャイアルたちに当てて来るのはプレイヤーとしての技量が多少なりとも高いと言うことだ。
その証拠に他のフライングハイスラッシュが使えるプレイヤーは精々横を掠めるくらいだった。
「おい! 当てられない奴らは一旦止めて別の方法を考えろ」
「良いんですか? 一発くらい当ててくれるかもしれませんよ?」
「俺の斬撃が避けられてる時点でお察しだろ」
「……そうですね」
クランのプレイヤー側が焦って来ている中、二人の男たちだけは冷静に周りを見ている。一方はやー子の店に来ていた方、もう片方はニャイアルたちは見たことが無いがリーダー格ような雰囲気がある。
「残りのマラソン薬っていくつ?」
「次でラストですわ、やー子さんを信じて走りましょう」
「オーケー……」
あと数十秒程でマラソン薬の効果が切れる。切れた瞬間は当たり前だがバフが無くなるので時間ギリギリで飲み直さなければならないのだ。
「《フライングハイスラッシュ》」
「僕側に避けて!」
「はい!」
ニャイアルの手に引っ張られながら二人とも回避する。斬撃は横向きになっており尚且つ左斜めの方向に飛んでいた。
先ほどまでように避けていては斬られていただろう。ニャイアルたちは安堵しつつ最後のマラソン薬を飲み干した。
「もうこうなったらやるだけやります!」
それと同時にやー子の悲鳴染みたような声が聞こえる。もちろん演技だが後ろから笑い声が起こった。彼女がヤケになったと勘違いしたのだろう。
やー子がこのような声を出したのはもう一つ意味がある。
「そろそろ目的地かぁ」
「頑張らないといけませんわね」
「だね」
クランのプレイヤー側も油断して来たのか攻撃の手が少し緩くなる。
「これはもう買ったんじゃないか?」
「嫌な予感がします、念のため警戒だけしておきましょうか」
「そうか? ……まぁするだけしとくか」
だがこのプレイヤー二人だけは最低限の警戒はしていた。とは言ってもまさかノーデルが来るとは思っていない。この鬼ごっこの終わりも近づいて来たのだった。
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