鬼ごっこ その3
「来ないでください!」
「素直に引き下がる奴が居るもんか!」
「そろそろマラソン薬の効果が切れますわ」
「オッケー、《ダブルショット》」
「お前たちもくっ……」
やー子から余ってるからと渡された移動速度とスタミナがかなり上がる薬を、追い付きそうな敵の妨害をしながら飲みつつ走る。
走りながらの狙撃は手ブレが酷いがニャイアルはそんなことは意に介さずに、足に正確に当てて行く。目的地まではまだ距離があるので使えそうな手段は取るしか無いのだ。
「マラソン薬が無かったらとっくの昔に追いつかれてたよね……」
「そうですわね、薬自体もあまり数はありませんのでやー子さんの姿を見失うことの無いようにしなければなりませんわよ」
「だnぅわぁっ?!」
「?!」
「クソっ!」
ニャイアルは何かが飛んでくる音を即座に聞き取って横に避ける。そこを通り過ぎて行ったのはナイフらしき物だった。
サヤも反射的に避けつつ振り返ると一人のプレイヤーが悪態を吐きながら何かを投げようとしていた。
「まだ来ますわ!」
「分かってる!」
「何で避けられるんだよ! この投げナイフだって高いのに……!」
「そんなこと知らないよっ!」
「単純な軌道なら簡単ですわ」
再度投げナイフを飛ばすもニャイアルたちには当たらず、壁に弾かれる。ヤケになったのか男は両手に挟めるだけの投げナイフを挟んで構える。
「あれは避けたらやー子さんにまで被害が及びますわ……」
「撃ち落とすしかなさそうだね」
「《強投擲》!」
「《ボムショット》」
狙いは甘いものの四方八方から押し寄せる投げナイフは厄介だ。他の敵も当たりたくないのか男よりも後ろに下がる。
ニャイアルが放った魔弾は丁度投げナイフの波の中心で爆発し、半分以上を撃墜した。
「おっとっと……全部は無理!」
「これくらいなら問題ないですわ!」
「私にまで来た?! ほっ!」
残っているナイフの内一本のみ、やー子の場所まで届くが危機察知のスキルを取得しているのか間一髪で感知して避ける。
「チッ……全部使い切ったか」
「ふぅ……危なかったぁ」
「まだ油断は出来ませんわよ、他のプレイヤーも仕掛けて来そうですし」
「うぅ……守護対象が居るのは戦いづらいし……」
「貴重な経験として頑張りましょう?」
「はーい……」
他の敵は様子を見ているのか何もして来ずにただ距離を詰めようとして来るだけなのだ。とは言っても少しでも隙があれば仕掛ける気なのだろう。
「あーもう! まだ来るんですか!」
「そこを曲がりますわよ」
「うん、曲がったらノーデルさんに連絡だよね」
「任せましたわ」
「サヤは走りながらの画面弄るの苦手だからね」
「酔ってしまいますわ……」
ニャイアルたちはT字路を右に曲がると、ノーデルの出動の合図を送るために画面を開く。立ち止まる暇はないので走りながら手ブレを抑えつつメールを送るのだ。
通話だと作戦がバレる可能性があるためこうするしかないのだが、ニャイアルと言えども少し苦戦する。
「こうして……違うそうじゃないって!」
「落ち着いてください」
「うん……よし!」
無事にノーデルにメールを送り、目的地まで半分を切ったのだった。
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