鬼ごっこ その2
やー子が出てから数分後、ニャイアルたちも移動する。不自然にならないようにするためだ。彼女も怪しまれないように屋台などで時間を潰しているフリをする。
「これ美味しい!」
食べ歩きを始めそうになっているのは気のせいだろう。まだニャイアルの耳には何も聞こえていない。だがいつでも動けるようにはスタンバイしている。
そこからまた少しした後、真横を見覚えのある姿が通過した。
「さっきの脅してた人だ」
「あれは……やー子さんを尾行するために歩いてそうですわ」
ニャイアルの耳にも、烈火の怒りの彼がやー子に対して小声で口にした声が聞こえる。
「さっさと前線に戻れば良いものの……いざとなったら本部が動けばあのような生意気な生産職なんぞ終わる」
「わぁ……逆にリーダーの顔が見たくなるなぁ」
サヤもやー子に連絡を入れつつ、更に待つ。一度に大量のやー子を狙うプレイヤーを引き付けなければならないためだ。
「……次は二人増えた、一々やー子さんに暴言言ってくれるから分かりやすいけど……」
「良い気分ではありませんわね、必ず逃げた後にノーデルさんが来るまで耐えましょう」
「だね、連絡お願い」
「分かりましたわ」
この様な事を繰り返すこと四回目、既に十人は超えていた。ここまで来れば集団ストーカーとして見られてもおかしくはないが、連携はある程度取っているのかそこまで不自然では無い。
サヤはやー子に鬼ごっこの開始と言う旨のメールを送り、彼女もそれを確認する。
「ん、ここから本番だよね」
「えぇ、切り札となるスキルはボス戦で使ってしまいましたので注意ですわ」
「分かってる」
ウルルは今回は非常時のみ出すことにしていた。機動力はトップだが、攻撃が一撃でも当たれば死ぬ確率があるからだ。
それに隠密があまり期待出来ないからこうなった。そうこうしている内にニャイアルたちはやー子とクランのプレイヤーたちが外に向かうのを確認する。
とは言ってもまだ逃走も援護射撃もしない。相手も今は何もしてこないからだ。目標地点に少しでも近づく為に移動を続ける。
しかしこの状況はそう長くは続かない。クランのプレイヤーたちはやー子を包囲するように動き、それに成功していた。
「偶然ですね、やー子さん」
「……偶然で包囲出来るんですね」
「茶番もこれくらいにしましょうか。このまま我々に殺され続けるか前線に戻るか、どっちですか?」
「答えはノーです! 絶対に!」
「なら死……何だ?!」
やー子に集中砲火がされる前に、瓶が割れるような音と共にギリギリニャイアルたちの居た所にまで濃い黒煙が広がる。
「ニャイアルちゃん、次も頼みましたわ」
「右斜に三人くらい固まってる、やるなら今!」
「分かりましたわ!」
「クソ! 暗視が機能しない!」
「何だこの煙は!」
その煙は特にステータスには影響しない。だがスキルの暗視が敵味方諸共機能しなくなると言う厄介な煙なのだ。
その間にやー子はとにかく前に逃げ、ニャイアルたちは聴覚頼りで敵の位置を特定して足止めをしてからやー子の方へと走るのだ。
「《ボムショット》」
「《木槍の祈り》」
「他にも低レベルのプレイヤーが居るぞ! ダメージは少ない!」
「ぐっ……」
戦士職のプレイヤーにはあまり効果はないが、軽装備のプレイヤーには多少なりともダメージがあった。とは言っても回復薬を飲めば問題ない程度だ。
「サヤ、後五秒くらいで逃げるよ」
「分かりましたわ、《石弾の祈り》」
「《ダブルショット》」
「そろそろ煙が消えるぞ! 全員殺してやれ!」
サヤの詠唱時間が終わると同時に石弾が降りそそぐ。これで多少の足止めをしたニャイアルたちはやー子の後を追うのだった。
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