鬼ごっこ その1
動き出したいもののこれと言った具体的な案は無い。だがこのまま留まる訳には行かないのだ。ノーデルは工房の前に立ちつつ、残ったメンバーで作戦を立てる。
「戦闘は避けたいですね、仮にも相手は高レベルプレイヤーですから。ノーデルさんしか戦えませんわ」
「私も戦闘は無理! 援護くらいなら出来るけどね」
「でも流石にあっちもノーデルさんのことは警戒してるんじゃないの?」
「それが問題ですわ、それにもし倒したとしても直ぐに復活されては……」
「それは大丈夫! スポーン地点ってクランのホームとかさえあればそこに設定出来るし、何ならそうしてるプレイヤーが多いよ! それにここまで来るのにそれなりのお金はかかってるはずだしそう何回も簡単に来れる訳じゃない……はず!」
「なら大丈夫そうですわね」
「問題はどうやって倒すかなんだけど……」
「上手く外に誘導出来れば良いのですが」
烈火の怒りやその他諸々のクランも来ているとなると、それなりの人数になるだろう。それにわざわざ外に出る理由は彼らには無いのだ。
外の方は何も聞こえて来ない。恐らくノーデルが抑止力になっているのだろう。ニャイアルとサヤが頭を抱えると、やー子が口を開く。
「私が囮になるのは? 一、二発くらいは耐えられるし!」
「危険ですわ」
「僕たちもノーデルさんが来るまで耐えきれるか分からないよ? それに奪われたら困るアイテムもあると思うけど……」
「あはは……それは勿論ありますけどそれよりも早く動きたい理由があって……」
「ん?」
「私の懐事情がヤバいから! 維持費が払えなくなります!」
「……割と緊急事態ですわね」
「だね……」
連日クランのプレイヤーと対応していては客が来ないのだ。そのせいでやー子の所持金はギリギリ一万Gあるか無いかである。
とにかく彼女は今すぐにでも動かなければ不味いのだ。
「とりあえずやってみるしか無い、と言うことですわね」
「けど逃走ルートとかどうするの?」
「それはここに!」
「あら、準備が良いですわね?」
「生産職は逃走ルートを作っておかないといざと言う時に逃げられませんからね!」
「この街って門から出たらまた別の洞窟に繋がってるんだ」
「勿論ここに来るまでに通った所にも行けますけどね! 逃げ易いのでこっちにしましたけど!」
そしてやー子が作った逃走ルートの地図を見ながら作戦を立てて行く。途中からは報告に来たノーデルも加えて話が進む。
「ええっと……やー子さんが街の通りを歩いて、その後ろを僕たちが追尾して不審なプレイヤーが集まったら連絡する、だよね?」
「そしてやー子さんは街の外に逃走、そこから先は命懸けの鬼ごっこですわね」
「アタシは時間差でくれば良いんだろ?」
「はい! これで大丈夫です、念のため準備はしておきましょうか!」
「そうですわね、回復薬を多めに持ちましょうか」
数分後に回復薬の調合を終え、やー子が外に出る。そして少しした後にニャイアルたちも外に出た。こうして鬼ごっこ作戦が始まったのだった。
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