落ち続ける評判
声の元へと着くと、そこには面倒くさそうにしているやー子と嫌らしい笑みを浮かべた男が言い争っていた。
「あーもう! 私はあっちに戻る気は無いって伝えといてください!」
「いやいやそれは貴女にとって損しかないですよ、一介の生産職が声を上げても無駄でしょうに」
「GMコールやら色々な所に情報流しますよ!」
「運営もそこまで暇じゃ無いでしょう、一個人の通報では動きませんよ。それも分かってるでしょう? 我々は天下の前線ギルドですから信用はあるとだけ言っておきましょうか」
「大体なんで烈火の怒りがまた私を!」
「サブマスの方針ですよ」
「そんなの知らないから帰ってください!」
「サヤたちはここで待っておけ」
少し低い声になりながらノーデルが前に出て事態の収集に乗り出そうとする中、サヤは烈火の祈りと言う言葉に聞き覚えがあったのだ。
「あの時の……?」
「ん?」
「私たちがまだ初めてまもない頃に勧誘を受けたクランですわ、ですがやはり態度はお察しですね……」
「えーと……あれか!」
ニャイアルもサヤに言われて思い出す。勧誘を受けた時は即座に断ったが、その時の態度も横暴でとても人を勧誘出来るとは思わなかった。
そうこうしているとノーデルが相手の背後に立って声をかける。
「おいアンタ、何してんだ?」
「誰ですか? 今この方と話しているので邪魔は……女傑?!」
「あの前線に居る上位ギルドが脅迫紛いなことをして大丈夫なのか?」
「え、あ、あの違っ」
「さっき一介のプレイヤーがどうとか言ってたな、なら今からアタシが会話をこの街にばら撒こうか? アンタの言葉じゃ意味はないんだろ?」
「し、失礼しました!」
男はさっきまでの威勢を無くし、一目散に逃げて行った。やー子はそれを見て安心したのか深く息をついた。
「やー子、大丈夫か? それとサヤとニャイアルも来て大丈夫だぞ」
「ありがとうノーデルさん……サヤさんにニャイアルさんも! でもお店の場所伝えるの忘れてたのにどうして?」
「私は何も出来ませんでしたがニャイアルちゃんの協力があってこそ、でしたわね」
「やー子さんの声を辿ったら着いたよ」
「あぁ、お陰で助けに来れたよ」
「皆さんありがとうございます! ここで立ち話もあれですから中へ!」
やー子の工房兼店はニャイアルたちが見たものと大きさは然程変わらず、しっかりとしていた。中へと案内するとやー子は全員分の飲み物を準備する。
「本当はコーヒー豆とかもあったんですけど無くなっちゃったので紅茶で大丈夫です?」
「問題無い」
「僕も大丈夫」
「私もです」
「……さっきのこと聞きたいですか?」
「まぁ、そうだな」
「それはですね……私に前線に戻れとここ最近複数のクランが近づいて来てるんですよ!」
やー子は元気が無いのか若干下を向きながら話し始める。どうやらさっきの男とのやり取りで少し疲れたようだ。
「皆さんに話したようにほんっっっっとうに前線の連中は碌でもないのが半数を占めてるんですけど……その碌でもない奴等にまた絡まれてるんです! お陰でお客さんが寄り付きません!」
「まさか千里眼もか?」
「あの情報屋も来ましたね、他にも騎士軍連盟だったりとか……」
「…….前線ってどうやって信用関係築いてるんだろ?」
「力と人数で支配、だな。信用どころか側から見れば評判すら悪いだろう」
「それは怖いですわね……」
「しかし困ったな……」
「何とかしたいけど今の僕とサヤじゃどうにも出来ないし……」
「流石にアタシも相手にするのはキツいな、それに距離が流石に遠い」
「あいつら何かあれば本部に逃げやがって!」
「とりあえず私たちが警備をしてある程度は防ぎましょうか、ノーデルさんのネームバリューは大きいと分かりましたしね」
「アタシは名前を出すのは極力減らしたいが……やー子の為なら仕方ないな」
「ん、分かった。僕もやー子さんに色々お世話になったし頑張らないと」
「ありがとうございます!」
そうしてまた一つ厄介な事件へと巻き込まれていくのだった。
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