錬金術師は眠らない その9
「はぁ…はぁ……」
「ウルルが居なければ今頃死んでましたわ……」
あの後は街に戻るまでに魔物の襲撃や、運悪くPKとも当たってしまったがウルルが全て対処して事なきを得た。
「ありがとね、ゆっくり休んで」
「ワゥッ!」
「では行きましょうか」
ウルルは召喚石へと戻り、凛林の元へとニャイアルたちは向かう。到着すると大きく隈が現れた彼女が死んだ魚の目で出迎えた。
「持って来た〜……?」
「えぇ、大量に採れましたわ」
「こんなに〜。なら早く作って寝ないと〜……」
「僕たちはまだ鑑定して効果見てなかったけど……」
鑑定をしなければ詳しい効果は分からない。ニャイアルはちょっとした好奇心で見ることにしたのだ。そしてテキストに書かれた一文を見て目を疑う。
巨大女王蜂の王冠蜜
説明:巨大女王蜂の王冠の中で熟成された希少な蜜。一滴飲むだけで身体に力が漲り、三日三晩寝なくても活動出来る。調合にも使え、多くの可能性を秘めている。
「どうかしましたか?」
「サヤ、コレって……」
「……」
「よし、出来たよ〜。やっと寝れる〜……」
余程寝たかったのだろう。凛林は効果も確認せずに出来た薬液を一気飲みし、倒れるようにその場に寝転び寝る気だった。
「え……?」
「やっぱりかぁ……」
「寝なければいけないと言うデメリットの軽減か無効の為の物でしょうね……」
三時間に一回は寝なければいけないと言うのは普通のプレイヤーからすれば厄介なデメリットなのだ。だが彼女はそれを楽しみにしているせいで、その意識が無かったのだ。
「…………五時間に一回になってる〜?!」
ステータス画面を開き、デメリットであるはずの睡眠の間隔が長くなってることを確認した彼女は崩れ落ちていた。
目の隈は無くなり、容姿も髪や肌ツヤツヤになっている。ただそんなことよりも、彼女にとっては睡眠時間の方が重要なのだ。
「睡眠時間〜……でも依頼したのはわたしだしちゃんと報酬は払わなきゃ〜…………」
そう言って凛林はバッグから色々な薬瓶とかなりの大金をニャイアルたちに渡した。
「う、うん。ありがと」
「感謝致しますわ」
(凄く申し訳ないことをした気がする……)
(ニャイアルちゃん、気にしたら負けですわ)
「う〜………」
呻きながらも調合を始めた凛林を後にして、ニャイアルたちは街の大通りへと出る。
「えっと……どする?」
「屋台にでも行きましょうか、甘い物を沢山食べましょうね」
「ん、分かった」
そしてクレープ屋等を歩き回り、今回の事件と共にその日は終わったのだった。だがしかし、この事が元となり更なる厄介な事態になることはまだ誰も知らなかった。
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