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元プロゲーマー




 年が明け、輝は広報営業部へ、野々華は翻訳部に、クリステルは秘書課に配属された。美優希は平取締役兼副社長に、これによって正式に、梨々華がゲーミング部の部長となった。

 副社長だった春香は解任され、FB企画の常務取締役兼副社長となり、加工品開発の主たる責任者、CTOとなり、専属マネージャーだった啓は、あっさりと仕事を辞めてしまった。

 配信に関しては少しずつ事情が違う。

 クリステルを除く三人の個人チャンネルが立ち上がり、美優希のみ、案件を含む一切の収益化をせず、配信は気分次第でやらない日がある意向表明した。これによって、第二子の妊娠報告をすると、『投げ銭を投げつけさせろください』と言うコメントで溢れたのは言うまでもない。

 輝の肩書は、広報営業部、ジャパン・パブリック・ストリーマー兼専属モデル、ジャストライフゲーミング、エグゼクティブ・アドバイザーだ。

 野々華の肩書は、翻訳部、ワールド・パブリック・ストリーマー兼専属モデル、ジャストライフゲーミング、エグゼクティブ・アドバイザーである。

 扱いは課長と部長の間、休みの日は配信をしない。と言うか特別な事情がないと、時間外労働になるのでできない。

 また、野々華はデュアルプラットフォーム配信者となる。

 日本における生配信プラットフォームはCoogleの子会社、YourTubesの提供するプラットフォームが一番大きく、これまで利用してきたプラットフォームだ。

 しかし、主軸となるゲーム配信に限ると、Twitcher Inc.のTwitcherが世界的に最も巨大で、海外ファンからの要望に応える形となる。

 ただ、ジャストライフゲーミングのスポンサーにCoogleがいる為、ジャストライフゲーミングとしては、これからもTwitcherを利用しない。

 引退してスポンサー契約が発生しない野々華だからできる事で、エグゼクティブ・アドバイザーは外部の人間と言う事になっているので発生しない。

 また、輝と野々華はストリーマーとして、ジャストライフを経由する案件をこなすことはあっても、スポンサー契約は一切行わない。美優希は会社経営者である為、案件はこなさない。

 そんな三人の一発目の配信は、美優希がゲーム実況、野々華が英語音声のみの雑談、輝はお絵描きである。

 野々華が日本のファンを切り捨てたのかと言えばそうではない。

 実は野々華、三人の中で最もタイピングが早い。その為、自分で同時翻訳字幕を付ける荒業を見せて話題となった。また、翻訳部の技術向上を兼ねる為、バディが付いて雑談配信以外は、バディが同時翻訳字幕を付ける。

 輝はと言うと、配信をする時は久美を参加させるようになり、FPS等の残虐性の高いゲームの配信はほぼしない。ほぼである理由は、いない時にやるからだ。久美の可愛さにメロメロのリスナーがリスナーを呼んで、話題を呼んでいる。

 美優希はと言うと、初期のヴァーチャル配信者へと戻り、そのヴァーチャルも2Dモデルではなく、新規の3Dモデルを使用し、啓と雄太のモデルも出演して話題を呼ぶ。

 自身のファンのグラフィックデザイナーに、正式に依頼して作ったものだ。

 依頼したグラフィックデザイナーは、以前、六人分の3Dモデルをファンアートとして仕上げて、『著作権を放棄するので無料で使ってください』と送ってきてくれていた。

 しかし、会社所属である以上、それはできないと言って、受け取らなかった。

 グラフィックデザイナーはフリーランスであったが、会社勤めをしていた。また、贈ったのがはじめではないらしく、これに理解を示しており、その証拠に送ってきたときは未発表状態だった。断られてから正式にファンアートとして、自信のSNSから発表している。

 その時の出来がとても良かった為、美優希は配信を続ける決心をした時に、このグラフィックデザイナーに連絡を取ったのである。また、手付金三十万、完成報酬四十万、著作権買取り三十万、計百万を三人分支払っている。


「え、お姉ちゃん髪染めたの?!」

「そうだよ。白の維持は面倒だったし、もう目立つ必要はないからね」

「あ、そっか、そうだよね」

「この方が無用な突撃受けなくて済むし」


 ツインテールなんて、何時からしなくなっただろう。遊びに来た美春に言われて、美優希は感慨深くなった。

 社会人になってウイッグは止めたが、ツインテールをいつ辞めたのかを思い出せない。産休中はセットしていなかったが、復帰ではセットした記憶がある。


「ねぇ、美春」

「何?」


 リビングの炬燵で、美優希に膝枕されてお昼寝する雄太を撫でながら、美優希は疑問を口にした。


「私っていつからツインテールしなくなった?」

「うーん・・・わかんない。だって、家に居る時ずっと降ろしてたじゃん?」

「そうね」

「だから止めたって言う印象はないんだよね。気付いたらさ、あ、結ばなくなったんだって感じ。他のお姉ちゃんたちからは・・・ないから覚えてないんだよね」


 そう、指摘があれば改善の為に動くはずなので、覚えていないと言う事はなかったと言う事だ。


「でもさ、もうお姉ちゃんにツインテールは似合わないよ。せっかく長いんだし、やるんなら二つ編みの・・・」


 美春はスマホを出して画像検索を行い、美優希に見せた。


「これ、編み込みハーフアップ、すんごい大変そうだけど」

「これは、大変過ぎだなー、啓にやってもらわないといけないかもね」

「お姉ちゃんショートとかボブにはしないの?」

「いや、ほんとは染める時に切ろうかとも思ったんだけど、いざ美容院いったら、もったいなくなってね」


 腰まである長さを切ると、長くするのにだいぶ時間がかかる為、美優希はそれが気になってできなかったのである。


「分かる。ショート系が軽くて好きなんだけど、スタイリストさんがウイッグセットしてるの見て、今伸ばしてる。編み込んだり、結ったりするのがさ、変化の緩急が凄くて」

「まぁ、それはね。でも、髪洗うの大変だよ?」

「それは仕方ないかなぁって。嫌になれば切ればいいし」

「そうね」

「あ、お姉ちゃんって昔からツインテールだけど、何時からツインテールの固定になったの?」


 そう言われて美優希は三十秒ほど固まってしまった。


「確かに何時からだろう・・・アルバム見ないと分かんない」

「パパいるから実家行こう?雄太は私が抱っこして連れて行くからさ」

「そう?じゃあ、行こうか」


 宣言どおり、美春は起こさないように雄太を抱き上げ、寒くないようにコートを逆羽織りした。

 実家に行くと、一義はパソコン部屋で絵を描いていた。


「アルバム?見てどうするんだ?」

「ん、私の髪型っていつからツインテールなのかなって」

「ああ」


 うつむき加減に考え込んだ一義は、やがて顔を上げた。


「お前のツインテールは四つになる直前ぐらいで、俺がやったげたら滅茶苦茶気に入ってしまってさ、それからずーっとだな。シュシュで結いだしたのは小学校入ってから、一度テープリボンにしたけど、アニメみたいにはならないから、すぐやめたんじゃないか?」

「テープリボンは覚えてる。ってか、リボン系はどうやっても形が保てなくて、結局シュシュだったなー」

「針金入れたらいけるくない?」

「俺もそう思ったんだけど、ぶつけたらおしまいだからな」

「あー、確かに」


 せっかくだからと、一義はパソコンでアルバムを見せた。


「取り込んだの?」

「あ、そうか、お前知らんのか」

「え」


 近隣の小学校、中学校の卒業アルバムは、美優希が卒業する一年前から、株式会社ジャストライフが作っている。

 IT化が進み、PTAから高解像度のデータ化ができないのか、と言う議論になった時、白羽の矢が立った。

 子供たちの為に本を、親の為にデータを、と言うことだ。

 映像制作部が持つ最新のカメラが生徒を捉え必要があれば加工修正し、企画部がアルバムデザインを提案、素材制作部によってデザインに必要なイラスト素材を制作しながら製本データへと仕上げる。

 同時に、配布する分のDVD(現在はSDカード)へと、ページごとのスライドショーとして保存しておく。

 なお、修学旅行等には同行できず、下手すると映像制作部全員が海外出張に行っている事もあるので、そう言う場合は先生、とりわけ、教頭と校長の仕事になっている。

 製本データは光徳社グループの印刷会社へと送られ製本、同時に印刷会社に送ったDVD、SDカードをハードカバーの裏にあるポケットに入れて、学校へと送られて生徒にてわたされるのだ。


「え、でも、そんな忙しそうには見えないよ?」

「ん?だって、卒業アルバムは情報の授業の一環として子供たちに作ってもらうから、テンプレート作ってわたしたら、配置が終わったのを貰って、そのとおりにデータ上で配置修正したら終わりだもの。作業だからほぼ脳死で作ってるはずだそ」

「あー、そう言えば作った」

「私もやった」

「生まれた頃から保育園までは、俺がデジカメで撮ってたから、データでぜーんぶ残ってる」


 そんな話をしていると、雄太が起き、雄太も一緒にアルバムを見るのだった。

 三月に入っていよいよお腹の大きさを隠せなくなった頃、輝と野々華が美優希の家に詰めかけて来ていた。


「「美優希ずるい!」」

「は?」


 何の抗議に来ているのかと言うと、今の所、美優希が毎日配信となっている事である。

 輝と野々華、練習の辛さと言うのを感じることがなくなって、配信はほぼ遊んでいるようなものである為、楽しくてしょうがないのだ。

 しかし、給与の発生する会社所属ストリーマーとして、昼休憩一時間を除く十時から十六時までの五時間は会社で仕事をしており、二十時から二十三時までの三時間を配信時間として働いている。

 36協定があったとしても、会社として必要のない時間外労働を基本的に認めないので、休日の配信はさせない。また、土日は人を集めやすいので、輝と野々華の休みは火曜と水曜に設定されている。


「だって、私、完全趣味だし・・・」


 趣味とか言いながら、キャラクターには三百万のお金をかけて、配信用の個人SNSも展開し、配信上で自身のオフィシャルブログをしっかり立ち上げている。SNSの管理は啓が行い、オフィシャルブログは啓と美優希二人で運営している。尚、オフィシャルブログにも金銭は発生しない。

 美優希のチャンネルは、バーチャル配信者かと思って開くと、がっつり家族でイチャイチャするのを見せつけるチャンネルである。それこそ、3Dモデルを動かして喜び、遊ぶ雄太の姿が、久美と同じくらい受けている。

 また、啓がノリノリで配信に参加しており、流石の美優希も『やってよかったのに』と漏らした。それに対して啓は、『美優希とやるから、雄太もいるから楽しいんじゃん』とのろけ、コメント欄は砂糖を吐く輩と壁を殴る輩が良く湧く。


「「休みの日にやるなら参加させて?」」

「え・・・」

「「参加させろ下さい」」


 二人の圧力に美優希はたじたじとなり、『Yes』以外の答えを受け付けてくれないことを察した。


「わかった、いいよ」

「「やったー!」」

「はぁあ」


 子供のようにはしゃいで喜ぶ二人に、美優希は特大級の溜息を付いたのだった。

 せっかくなら、とクリステルも参加させる事になるのだが、流石の美優希もすぐには頷かなかった。


「クリステルを説得するのは二人でやってね」

「何言ってるの?」

「もう説得済みだよ」

「はぁあ!」


 美優希が大急ぎでクリステルに電話すると、開口一番、『私も楽しみにしてるからね?』と言われてしまった。

 そう、この二人、既に外堀を埋めてきているのである。


「もしかして、社長は知ってるの?」

「許可は取ってあるよ。でも、美優希がいいと言わないのなら許可しない、だった」

「だー」


 机に伏した美優希は、呆れるしかなかった。

 一番重要なところを落とす為に、周りから落としていく。このやり口は美優希たちが、プロゲーマーに成る為の一歩として、『配信をやりたい』と言った時、一義にやられたのと同じである。

 一義の入れ知恵か、否、二人はただ美優希についてきたわけではない。

 最も美優希に近い場所で、一義と言う先駆者に教えられ、更にはクリステルと言う天才の策に触れた。美優希とクリステルの戦術、戦略のすり合わせに、やるべきことをこなす為に、分からない事は分かるまで質問していた。


「やられた」


 体を起こして笑顔でそう言うと二人は嬉しそうな笑みを浮かべる。


「そう言えば、二人は仕事の時間じゃないの?」


 美優希が言うように、二人は仕事中のはずだ。美優希の休みは土曜、日曜であり、今日は土曜日だ。

 啓と雄太は現在ベッドでお昼寝中である。


「配信の企画に知恵を貸してほしいから来れたんだよ」

「知恵?」

「うん。私と輝ならではのコラボ企画が浮かばないの」

「あー・・・」


 美優希はしばらく考えたのちに、こういった。


「IPEXのスプリットが変わる時にさ、輝が日本語縛り、野々華は英語縛りで、何処まで連携が取れて、ランクはどこまで行けるのか。縛りは緩くていいよ。『おっけー』とか普通に使うし。どちらかと言えば、私の言う司令塔がいないとどうなるのか、検証だね」

「「なるほどー」」




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