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世界王者として、リーダーとして




 クリステルによる大会中の大きな戦術変更、本当は優勝させる気がない変更だった。


「クリス」

「はい」

「優勝してしまったな」

「はい」


 表彰式を見ながら、一義は溜息を付いた。


「動きが噛み合わなくなるから行けると思ったんだが、解説の言うとおり地力が違う。それがジャストライフゲーミング、TSM、SCARS EU、と言うワンツースリーなんだろうな」

「一応ですね、キャラクターピックアップの全組み合わせで、ちゃんと動けるように練習してるんです。海外のオンライン練習会に呼ばれた時も、その時に使われた組み合わせは、対策の為に練習するんです」

「今回の組み合わせも体験済み、対策練習と言う事は戦術研究も前にやっている、と」


 同意したクリステルの返事に、一義は溜息を付きながらふさぎ込んだ。


「だからと言って、本番であそこまで動けるか・・・読み間違えたな」

「私も読み間違えました」


 戦術変更の感謝を述べる美優希の姿に、二人はいたたまれない。穴があったら飛び込むぐらいには。

 帰ってきた美優希たちに、真実を述べる一義、美優希は到底怒る気にはなれなかった。


「そもそも、私が弱気になってしまったのが原因じゃないの?」

「そうだ」

「じゃぁ、もっと怒れないよ。ファンは怒るだろうけど。パパ」


 美優希は一義に抱き着いた。


「愛してくれてる事実だよ。ありがとう」


 続いてクリステルにも抱き着いた。


「クリスもありがとう。辛い決断だったね」


 一義とクリステル、そして輝も野々華も、美優希にリーダーとしての包容力を見た。


「怒ってほしいなら余計怒らないよ。悔いて?」


 容赦しない所も・・・。

 大会後パーティ、彼氏たちにエスコートされて入場、始まると美春が美優希にくっついて回るいつもの風景だ。その横には恵美もいる。


「美春、今回も可愛いね」

「ありがとー」


 コーチとなったiHalがTSMの選手を引き連れて話しかけてきた。


「その子が貴方の秘蔵っ子?」

「ああ、n1tr0AL(ニトロアル)だ」

「アルと呼んでください」

「アルね。知ってるだろうけど、改めて。私はジャストライフゲーミングのミュウ、ライバルとして、友人として、よろしくね」

「よろしくお願いします」


 握手を交わし、更に輝と野々華を紹介する。

 日本語ができるようで、美優希には日本語で話しかけたが、輝と野々華、クリステルの紹介を英語でやってあげると、硬い表情がやわらかくなった。


「アル、無理して日本語を使う必要はないよ。四人共英語は堪能だからね」

「はい」

「引退前にコーチの話をしただろ?その時には見つけていたんだよ。アルをね」

「そう、じゃぁ、私も紹介しないといけないね」


 首を傾げたiHalに恵美を紹介する。


「もう見つけているのか。ジャストライフゲーミングはTSMの大きな脅威だな」

「そう言ってもらえるなら、光栄ね」


 そうして始まる感想戦、盛り上がる美優希たちとTSMのメンバーの所へ、SCARS EU、がやってきた。


「皆、出身国は同じなの?」

「違うよ。僕たちSCARSはEUの広域連合チームで、Ropp(ロップ)はデンマーク、Tais(タイス)はドイツ、そして僕、Nande(ネンディー)はデンマークさ。他のタイトルに出場する選手も、フランス、トルコ、イタリア、イギリス出身の選手がいる」

「EUならではの多国籍だね。ヨーロッパ大会では、私たちの作った最高ポイント記録を上回って優勝してたね」

「実は去年までは少しギクシャクしてたんだ。何分、君たちに並びたいが為に、結成されたからね」

「え」


 美優希たちは驚いた顔をした。


「君たちは、今年もそうだったように、IPEXクイーンズとして、クイーンの何恥じない絶対王者なんだよ。憧れはするさ」

「違いない。アルだって、君に憧れてたんだ。そして今日、その舞台に立った」

「我々GbEsも同じだ。君たちを打倒する前にSCARS EUも打倒しなければならないが」


 iHalが合いの手を入れると、GbEsも話に混ざってきた。


「皆そうさ、世界王者、ジャストライフゲーミングのIPEXクイーンズ、君たちは憧れさ」

「憧れ無い者はいないと言っていい。女性の地位を、ゲームの世界に置いて、結果をもって押し上げた。その事実は統計に表れている。明らかに、全体で女性プレイヤーが増えている」

「だからこそ、僕が思う最強の同志を集めたんだ。だから僕は二人を信じた。それが今年の結果さ。僕は同じゲームのプレイヤーとして、尊敬している」


 美優希たちが初めて世界を取った時、事件も含めて、世界が、業界が衝撃を受けていた。


「男だとか、女だとか、そんなものはどうでもいい。一人の戦士として、君たちに肩を並べ、同じ舞台で戦う戦友として、僕は、僕たちは戦いたい。日本には恥の文化がある。君たちに恥をかかせない為に、僕らは強くなるよ」

「覚悟しておく」


 そう言って美優希は拳を突き出し、皆がそこへ拳を合わせた。

 そうした光景は、他の選手たちも呼び込んだ。乾杯がやり直されて、感想戦が捗る。


「なんだ、それがピックを変えた理由か。良かったな、アル」

「うん!」

「光栄だ、そこまで警戒されたとはね」


 裏事情までは話さないが、キャラクターピックアップと戦術を変えた理由を伝えると、TSMもSCARSも満面の笑みを浮かべた。

 普段、どんな練習をしているかなど教えもしないし、落ちた後、ただ復活か終わるのを待っているだけでもない事は伝えない。

 美優希たちが二人になっても一人になっても、ジャストライフゲーミングはしぶとく生き残る。理由は落ちてしまった誰かが、体力やアイテムの残り数をカウントして教え、キルログの読み上げも行うからある。

 これによって目の前の状況に集中できるようになり、高い生存戦略が生まれるのである。

 笑顔の絶えない感想戦が終わればパーティーも終わりだ。ホテルに帰って、美優希は部屋に恵美を呼んだ。

 ソファーに並んで腰かけ、夜景を眺め、カフェインレスのホットコーヒーをすすりながら話をする。


「恵美ちゃん、世界に立つって意味は分かった?」

「うん。皆輝いてた。皆、ゲームが好きで、お姉ちゃんたちが目標で。私、頑張る。お姉ちゃんと、プロのみんなと戦いたい。そして、語り合いたい」

「やる気十分だね。私が持ってるもの、全部教えてあげる。だからこそ、辛いなら辛いと言って。いい?楽しくなくなったら、どうしようもなくなるからね」

「うん」


 頭を撫でてあげ、肩に乗せた恵美の頭に、美優希は頭を乗せた。


「恵美ちゃん、留学費用持ってあげるから、留学して?」

「いいの?」

「うん。私たちができなかった、初の留学先での練習試合ができるようにしてあげる。オンラインで済むことかもしれないけど、一番大事なのは空気に触れる事だから。ね?」

「うん」

「いい子、いい子」

「えへへ・・・」


 恵美は遠慮することなく美優希に甘え、甘い声で鳴いた。


「お姉ちゃん」

「うん?なあに?」

「あのね、友達にね。プロゲーマーに興味がある子がいるんだよね。だからね、少しだけ一緒に練習を見てほしいの」

「少しだけ?」

「うん。ちょっと気の弱い子でね。合わなかったらどうしようって、あと、将来の事も悩んでる。でも、すごく上手なの。興味があるんなら勿体無いなって」

「いいよ。合う合わないはどうしようもない事だし、将来の事なら相談に乗って上げられるしね」

「ありがとう」


 やがて、美優希は自分がそうしてもらったように、恵美に膝枕をしてあげた。


「お姉ちゃんの胸おっきい」

「うん、重いんだよ?結構」

「ほんとだ」


 恵美は遠慮することなく、下から美優希の立派な胸を持ち上げた。


「どれくらいになったの?」

「G行っちゃった。合う下着が少ないんだよね」

「私も大きくなる?」


 そう、恵美は美優希の実妹でありながら、未だスポブラであるほど、膨らんでいない。


「生理は来た?」

「まだ」

「だったら遅いだけだよ。恵美ちゃんの身長はまだ伸びてるんでしょ?」

「まだ止まってない」

「大丈夫だよ。たくさん食べて、規則正しい生活してたら。聞いた話、お母さんは生理早かったけど、胸は高校に入っていきなり大きくなったらしいからね」


 お母さんとは優里の事である。


「そうなんだ」

「個人差だから大丈夫」

「うん。お姉ちゃんのやわらかい」

「やん!」


 少し持ち上げたまま、恵美は美優希の胸を揉んだ。


「ちょっと、揉む力が強い」

「あ、ごめんなさい」

「力入れないなら揉んでいいよ。どうお?落ち着く?美春にも啓にも、揉んでるとなんか落ち着くって言われるんだよ」

「ちょっと落ち着くかも。すっごい柔らかい」

「ふふ、美春もそうだし、二人だけの時なら、触っていいからね」

「やった。ありがとう」


 見てみたいと言った恵美に答えて、一緒にお風呂に入り、満足しつつも恵美はそのまま美優希の部屋に泊まった。

 翌日

 大学に行って待っていたのは、理事長からの呼び出しだった。


「世界大会お疲れ様、優勝おめでとう」

「ありがとうございます」

「おかげでオンライン出願が朝から天手古舞らしいよ。サーバーが落ちかけてるってね。これ以上のうれしい悲鳴はないよ」

「光栄です」

「動じないね・・・」


 理事長にこうして愚痴を言われるよりも、配信のコメント欄、関連するSNSの投稿の方がひどいので、動じなくて当たり前である。


「さて、それはそれなんだが、ゲーミング部の立ち上げが理事会で正式決定した。そこで、去年から立ち上がった完全学生ベースのゲームサークルを、部に昇格させようと考えている」

「非公認だったんですか?」

「君がいるのに非公認になんてできないよ。単純に、サークルとして大学から独立してるんだ。おかげで調べるのにも時間を要した」

「独立?」

「学内で活動していない。バイト代を出し合ってサークルの部屋を借り、補助金申請もない、広報もしない。配信もやってるようだが、まぁ、収益化に届いてないな」


 配信の言葉を聞き、美優希は深く記憶を探った。

 どんなにチャンネル登録者が少なかろうと、ゲーム系チャンネルはすべてチェックしている。時間は限られているので、すべてを把握しているわけではない。

 が、ヒットする記憶はなかった。


「だから、練習するのが限界みたいだ」

「と言う事は、目標がゲーミング選手権にあると言う事ですね」

「大きく出た可能性はあるが、本人たちはそう言っていた。配信でも大会に出たいとは言っていたな」

「確信があるから昇格させるのではないのですか?」

「先に言ったように、この点だけは考えているだけだ。君が言うように、遊ぶだけなら部活に昇格はさせない。その言葉が本気なら引き取ろうとね」


 美優希がどれだけプロモーションしようと部員が集まる保障が現状ない。だったら、既にいるサークルを昇格させた方が良い。


「それに、君を呼んだ本題は、そのサークルの実力評価をお願いしたい。そして、その評価方法の言語化だ」

「先に述べます。私が言語化するのは避けましょう」

「私が?」

「私はこんな髪ですが、これでも世界王者です。評価レベルが世界基準になりますよ?」


 しまったとばかりに、理事長は頭を抱えた。


「ジャストライフゲーミングへ入る為の試験が存在しますが、私は試験の制作に関わっていません。ただ、関わっている人間を紹介する事は出来ます」

「誰だね?」

「法学部、ビジネス法学科のクリステル、私たちのコーチです。はっきり言います。私たちを含め、ジャストライフゲーミング所属の全員が認める化け物です」

「化け物?」

「彼女は父と同じように戦術と戦略の鬼です。基礎技術を抜けば勝てません。最近は私たちに迫るような基礎技術を持っています。正直、味方で良かったと安堵している程、彼女が組み立てる戦術と戦略を信頼しています」


 これを聞いて、理事長はすぐにクリステルを呼び出す決定をし、美優希は迎えに走った。二十分ほどで、美優希はクリステルを連れて理事長室に戻ってきた。


「君がクリステル君だね」

「はい、クリスと呼んでください」

「ありがとう、クリス。早速だが、君を呼んだ詳しい話をしよう」


 こうして、プロジェクトへ正式にクリステルが加わり、クリステルの卒論は免除されることになった。




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