仕掛け
二度目の世界大会制覇を成し遂げ、返ってきたジャストライフゲーミングには仕事が待っていた。
美優希とクリステルには私立立導大学が、輝には私立東京造成大学が、野々華には私立拓植大学がスポンサーに付く。その関係で、学費全額免除となり、大学の広告塔としてモデルの仕事をする。
制服に大学の名前が入るようになり、配信では常時クレジットに大学の名前が入るようになった。更に大学のパンフレット用の写真撮影が行われる。
いつものようにいくつものメディアの取材を受け、十一月は配信が辛いと思えるほど忙しかった。
十二月に入り、遂にクリステルが音を上げて、同棲を始めた。
クリステルには早めにしろと言っていたのだが、嵌めて付き合っていた関係上、お願いし辛かったようだ。
「もっと早く言わんか」
「ごめんなさい」
と、美優希と啓の目の前で、クリステルは洋二郎に怒られていた。
それでも、一番怖かったお風呂の介助が得られ、馬鹿みたいに時間がかかっていた掃除が早く終わるようになって、生活にゆとりが出てきている。
野々華に関しては、同棲はしないが鍵は渡した模様、スケジュールに合わせてご飯を作って待ってくれていたり、部屋がきれいになっていたりするようだ。
同棲しない理由は、拓哉の両親が許してくれなかったらしい。
因みに、拓哉は大きな地主の次男坊で、輝に負けないほどの不動産収入が本人にある。外国語学部に通う理由は、外国人に販路を増やす為だ。なので、野々華が来ないかと言われいるほどだが、野々華は高所恐怖症で高層マンションの最上階が怖く、今は慣れようとしている段階だ。
洋二郎は一義から顧問弁護士の声がかかっており、信也は株式会社ジャストライフの就職を狙っている。下手の事をすると就職できない可能性もあるので、信頼してもよいだろう。
拓哉は案外強かで、一義に東京オフィスの話をして借りてもらおうと動いており、こちらも信頼できる。
啓に関しては既に時給制専属マネージャーのバイトの話が付いている。
「美優希の専属マネージャーなんだね」
お家のダブルデートよろしく、片付けの終わったクリステルの部屋で、クリステル、美優希、啓、洋二郎がくつろいで話をしている。
「洋二郎さんが司法試験で忙しい時は、フォローしてやれと言われています」
「それはありがてーや。自分の事は良いのか?」
「自分は大丈夫です。主夫って意外と楽しんですよ。甘えん坊な美優希は可愛いし」
「ちょっと」
「ハハハ・・・そっか、すまねーな。クリスもなんだかんだで甘えん坊なんだよ。可愛いよな」
「ようじろう・・・」
知っているくせに顔を真っ赤にする二人をいじって遊ぶ彼氏ズだった。
クリスマスには、ダブルならぬトリプルならぬ、クワドラプルデートをした八人、彼氏同士の相性も悪くなく、プロゲーマーの彼氏と言う共通の立場があったのか、すぐに仲が良くなった。
年が明けて、配信ではさらっと彼氏がいる事を告白、確かに目に見えて登録者は減ったのだが、アイドルではないので、配信上の告白にGOサインを出したのは梨々華だった。
更に、今の彼氏とのなれそめを動画化して、アイドルとプロ選手が紙一重であったとしても、そこには大きな壁がある事を知らしめたのだった。
プロゲーマー女子の彼氏、として、出演料を払った上で配信に参加させ、カップルチャンネルの延長のようなこともさせる事で、減った登録者はすぐに取り返した。
高校時代からやっている配信、梨々華はプラットフォームをジャストライフゲーミングと同じにしただけで辞めていない。
自分の配信で視聴者がどんな反応をするのか、自身の個人チャンネルをその実験場にしてしまっている。因みに、梨々華のチャンネル登録者数は十万人程度で、広告も投げ銭も、有料登録制度もないが、クオリティーはしっかりしている。
ジャストライフゲーミングのチャンネルには、プラットフォームに実装されてすぐに有料登録者制度を取り入れてある。
月額三百円、五百円、千円のコースがあり、全コースで配信最後のクレジットへの名前が入り、五百円以上で配信中のスタンプが使えるようになり、申請は必要だが千円で日本選手権の観戦チケットが配られ、グッズ販売の先行情報が手に入る。
有料登録者は世界中で五十万人に膨れ上がっており、それだけで二億円以上の収入なっている。何かあればでかい投げ銭が飛んでくるので、プロゲーミング部門は他部門に負けないほどの収入源となっている。
これを仕掛けたのも梨々華である。
日本選手権の観戦チケットが欲しいが為に千円の有料登録をする者もいる。なお、海外在住の場合はディスコルドと言う、ゲーマー向けチャットアプリのファンサーバーへ招待され、日本選手権の様子が生中継される。
これ自体は美優希たちIPEXクイーンズだけではない。パズル部門と格闘ゲーム部門にも適応されている。
「せっかくの休みにすまないな」
「「「「大丈夫です」」」」
プロゲーミング部門の再編の為、四人は一義に呼び出されてリモートを繋いでいる。
「まず、これは来年度、大体三ヶ月後の話だ。美優希、輝、野々華、クリスは正社員に格上げだ。美優希はFPS課の課長とする」
部門、部門と続いてしまう上に、仮称がそのままだった為、これを機に、部門、課と名前を是正する。
また、パズル課、格闘課の選手は正社員扱いにもかかわらず、FPS課の選手、美優希たちはアルバイト扱いだった。こちらもこれを機に正社員扱いへと格上げする。
ただ、勤怠記録が取れないので美優希たちは月給制ではなく、歩合制で、配信等は七割、大会賞金は十割が取り分となる。チームなので四分割だ。
「大学卒業まで、FPS課には入れないが、補欠、即ち後身となるプロ見習いをアルバイト扱いで入れる。それから梨々華、プロゲーミング部門主任マネージャーから、プロゲーミング部門マネジメント課課長とする。昇進だ」
「え・・・」
空いた口が塞がらない梨々華はさておかれて、更に話は進む。
「マネジメント課は総合だ。クリスはコーチとしてマネジメント課に所属だ。間違えるなよ」
「はい」
「専属マネージャーは正社員扱い、上司は専属先で所属も専属先だ。啓の上司は美優希、所属はFPS課になる。美優希、いるなら伝えてくれ」
「分かった」
美優希が伝えると、啓はちょうどコーヒーを飲んでいたのか、盛大に吹き出してしまった。
「ここからは主に美優希に関係することだが、他にも関係することだから聞いておけ」
美優希は大学卒業後、FPS課の課長のまま、一年間でアレクシアの仕事を引き継ぎ、終われば部長昇進となる。
早くて二年、部長職を経験して問題がなければ、常務取締役として役員経験を積む。
プロゲーマー引退後、MBA取得に海外留学をし、取得して帰ってくると、すべての部署を経験する。すべての部署を経験したら、美優希は社長に、一義は会長になる。
「と言う筋書きだ。プロゲーマー引退は二十八歳から三十歳を考えている。自分たちの意思次第だから、もっと続けてもいいし、もっと早くてもいい。それに合わせる」
「子供はどう考えたらいい?」
「任せる。任せるが、予定日が大会に重ならないように計画を立ててほしい。まぁ、できてしまったら、その年は出場しない、でもいいから、なるべく、だな」
「分かった」
返事をしたのは聞いた美優希だけだが、輝も野々華もクリステルもしっかり頷いた。
「美優希以外は、プロ引退後、希望があればそれぞれ能力を見て再配属でもよし、フリーランスになっても良し、だ。それはおいおい考えて行こう」
「「「「かしこまりました」」」」
「それから、MOBA課、モバイル課が新設となる。モバイル課は後輩が入ってくるぞ。響輝女学園のゲーミング部出身、日本高校ゲーミング選手権優勝経験者だ」
「これは負けられないね。でかい顔されない為に」
美優希の放った一言に他の選手にも気合が入った。
とは言っても、ジャストライフゲーミングの今年の成績は、FPS課は言わずもがなだろう。
パズル課は全日本プロゲーミング選手権二位、アジア大会ベストフォー、十一月以降から三月までのオフシーズンに開催される、プレーオフやエキシビションマッチ、招待等の大会でも優勝や二位を獲得している。
格闘課は全日本プロゲーミング選手権団体二位、個人二位、アジア大会団体ベストエイト、個人ベストフォーだ。オフシーズンの招待大会で優勝を獲得している。
なお、FPS課は学業優先の為、オフシーズンの大会は一切出場しない。
四月以降七月は開幕シーズンとなり、開幕戦や新人戦等行われるのだが、賞金額少ないので全課出場しない。その代わり、この期間は海外選手とのオンライン練習試合が組まれている。
「それはそうだが、お前ら割と化け物染みた成績残してるんだから、心配しなくても大丈夫だ。大体、そんなのならいらん、切る」
「・・・だろうね」
「それで、FPS課が戻ってくると、あそこは完全に手狭になるから、プロゲーミング部門用の第三社屋を建築する。場所は新社屋の裏だ。これに伴って、新社屋は第一社屋、旧社屋は第二社屋となる。最後に、会社の経営方針、新事業だ」
来年度から、周辺農家と連携し、疑似的な大規模農園を構える。
これ、割と構造が複雑だ。
地域農業活性化事業として市と連携し、協賛する農家から農地をすべて借り上げて、農業機械をすべて買い上げる。買い上げた機械は全部売り払って、最新鋭の農業機械を導入、機械は会社が管理し、共同で使用する事で管理の手間を省く。
協賛する農家はすべてジャストライフの正社員として雇う。借地料金を含んだ月給制の安定した収入とし、借り上げ農地を一つとして一括管理し、IOTを導入することで効率化を図る。
収穫した農作物は、必要分を分配して取り分とし、過剰と思われる分を集荷、そのまま商品とできる分はブランド品として、ネットでも販売、できない分は様々な加工品にしてロスを最小限に抑え込み、加工品もブランド化する。
この時、ブランド品は市が査定して認定する。
加工品は定期的に社内コンペを開催し、優秀な物は商品化して、種類を増やしてゆく。
近くの農業高校や大学の農学部と連携し、インターンシップを開催、更にジャストライフの名前を利用して、全国から農業に興味がある若者を集める。
その若者の為の第二社宅が完成、現在ある社宅を第一社宅とし、違いは壁式構造三階建てで、すべて1LDKの二十四部屋だ。こちらもオール電化となっている。
「パパ、カフェかレストランはやらないの?」
「再来年度からだ。投資金がかさんでるのと、農業事業は子会社を設立して切り離すから」
「あ、ふーん」
はっきりとは言わないが、美春用だ。
「でだ、お前たちにできた農作物のレビューをしてもらう。夏休みはこっちに長めにいてもらうから、そのつもりで」
「「「「かしこまりました」」」」
リモートを終了し、背伸びをする美優希、一方の啓はようやく吹き出したコーヒーを片付け終え、部屋に入ってきた。
ざっくり話を伝えると、啓は遠い目をした。
「美優希もすごいんだが、お義父さんもすごいんだな。社宅を立てて、俺を正社員扱いかよ」
「パパは昔からすごいんだよ。小さい時の話ってしたっけ?」
「まだ聞いてないかな、聞かせてくれる?」
「うん、リビングで話ししよ?」
リビングのローソファーで啓に膝枕をしてもらい、美優希は生い立ちを話した。
「成功するべくして成功した、そんな人だな」
「ふふ、そうだよ。パパみたいにすごい人いないかな。それでね」
「大丈夫、俺は裏切らない。美優希、不満があるのならちゃんと言って、俺もちゃんと言うし」
「うん、そうする。大好きだよ」
「俺も、大好きだよ」
甘ったるいと言うよりは、温かい、そんな二人だった。




