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実力と評価




 九月に入って練習に力を入れるジャストライフゲーミング、ある日の配信でとあるコメントが大量に届いた。


『三人の実力が分かるように、ランクがどこまで上がるのか見てみたい』


 これまで一切ランク戦に手を出さず、ずっとカジュアルマッチを練習の舞台としていた事でついたコメントだ。ちょうど十月から新シーズン開始によるランクリセットが来るからでもある。

 リセットと言っても完全ではなく、最終ランクから六つ落とされて、ランク保障がされる。

 ランクはブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤモンド、マスターの順で高くなる。ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤモンドはそれぞれA、B、C、Dに別れ、DからAまで上げれば次のランクに行く。

 ランク保障は、AからDの区分を含める為、例えばゴールドAで終了した場合、次はシルバーのBから開始となる。

 ランクはキルもしくはアシストの合計数と順位がランクポイントに変換され、ランクポイントを獲得していくことで、ランクを上げていく。

 シルバー以上のランクでは、実力相応となるように獲得ランクポイントから一定のポイントが引かれて獲得される。その引かれるはずの一定ポイント以下だと、マイナスポイントが発生し、獲得済みのランクポイントが引かれて、ランクがさがる場合もある。

 また、ランクが上がるにつれて、ランクを上昇させる為の必要ポイントも多くなり、合計ランクポイントが一万に到達するとマスターランクとなる。

 ランク戦をプレイしなければランクがさがってしまうと言う事はないが、それはスプリット中の話だ。一度リセットが入って次のリセットまでプレイしないと、大きくランクを落とすことになり、最悪、新規と同じランクまで落とされる。

 ランクポイント一万以上獲得した後は、ランクポイント上位五百人に、プレジデントと呼ばれるランキングが付与される。


「それでランク戦を言い出したんだね」

「そう言うことだ。目標はプレジデントだから頑張れよ」

「「「はい」」」


 プロゲーミング部の部屋で、一義は選手の美優希、輝、野々華に仕様を説明し、合わせてクリステルと梨々華も聞いている。

 プレジデントはリージョンサーバー毎の付与ではなく、全世界集計となっているので、IPEXのプロはプレジデントが条件と言われている。

 理由は、まだリリースから一年しか経っていない為に、公式リーグが存在せず、世間ではこのように考えられているからだ。

 ただ、既にカスタムマッチ開催権限と専用プログラムが配られている。運営であるエレクトロンアーツに申請し、審査を経て合格すると権限とプログラムを獲得し、大会が開催できる。

 全日本プロゲーミング選手権大会後、株式会社ジャストライフは権限をもらっており、来年の選手権大会では正式にIPEXが組み込まれる。


「レーティング機構が思ったより早く動いてしまったから、CERO-Dが付与されてしまったが、問い合わせたら年度満年齢での大会出場が許可された。来年はデビュー戦になる。気を引き締めろよ」

「「「分かりました」」」


 因みに、IPEXはシーズンごとにキャラクターの追加がされて、マップ改変や新マップ実装、新武器追加や武器とキャラクターのバランス調整と言った大型アップデートが入る。

 また、シーズンはスプリットと言って二つに分けられている。このスプリットでもランクリセットが入る。

 そこで、株式会社ジャストライフとして、視聴者還元祭と題し、第一スプリット終了時のランクを当てた人の中から抽選で百名に、グッズを配る企画を立てた。因みに、もしプレジデントで終了した場合、順位を正確に当てれば当選確実とした。

 グッズはジャストライフゲーミングの制服レプリカの上着と、配信で使っているキャラクター缶バッジだ。

 同時に、制服レプリカのパーカーとテーパードパンツの予約販売を開始した。転売対策として一住所一着まで、レプリカと分かりやすいように、チーム名と会社名の刺繍がなく、ピンクのラインを無くした。

 グッズの準備が進む中、IPEXは新シーズンへと突入、企画を発表してランク戦を開始すると蹂躙が始まった。

 やってなかったので最低ランクスタート、本来のランクではないので仕方がないだろう。

 土曜の長時間配信だったとは言え、たった一日でプラチナCランクまで駆け上がり、翌日の日曜の長時間配信で、ダイヤモンドBまで上がった。

 コメント欄は大盛り上がりしており、更には注目していたのか、海外のプロ選手が現れて『早く君たちと戦いたい』と言うラブコールまで飛ぶ始末、投げ銭も馬鹿にならない額が集まった。

 SNSではトレンド入りするほどだが、問題はそれが日本だけではないと言う事だ。


「海外でもすごく盛り上がってますねー」


 海外向けアカウントを管理しているアレクシアによる報告は、部内にいまいち現実味を持ってもたらせるものではない。

 この事態に関して、一義は重く受け止めなければならない事情を持っていた。

 それは、運営から準備が整えば全日本プロゲーミング選手権のIPEX部門を、日本予選と決勝の場に指定する旨を伝えてきているのだ。

 これはIPEX部門だけでなく、R5S部門と言った海外のゲームメーカーのFPSゲームは、全日本プロゲーミング選手権が日本シリーズに指定されることが決定している。つまり、アジア大会、もしくは世界大会の出場切符を得る場である。

 こう言った事情から、海外からも注目を浴びていると言う事実は、それだけの自覚をさせて、極力失言をさせないようにする必要があると言う事だ。つまり、文化の違いをキッチリと教える必要が出てきたのである。


「アレクシア、美優希たちの言動には十分気を付けさせて、監視の目を厳しくしてくれ」

「もちろんですよ。留学もありますが、その都度注意と教育をしますね」

「頼む。人手が必要なら言ってくれ、アレクシアの紹介なら雇ってもいいだろう」

「はい。必要なら友達に声を掛けますね」


 翌日にはプレジデントに突入、とうとう美優希たちには通り名が付いた。


『リトルクイーンズ』


 その週末には日本好きの海外選手と交流配信が行われ、海外選手が配信の初めで放った一言である。


「三人の実力は既に完成されている。問題は試合経験だろうが、心配していない」


 とまで海外選手が発言し、SNSではハッシュタグリトルクイーンズがトレンド入りを果たし、配信の切り取り動画が百万回近く拡散される事態となった。

 そう、それだけ動きと戦術が完成していたのである。

 リトルクイーンズと呼ばれた理由、これはBANされていない不正プログラム使用者であるチーターをものともせずに、プレジデントは十位代に入っているからだ。

 BANとはゲーム利用権利、遊ぶ権利を剥奪してアクセス禁止にすることを言う。また、種類を問わずアクセス禁止にすること自体をBANと言う。

 これによって、ストリームスナイパーやゴースティングと呼ばれる、配信者を狙い撃ちして倒し、鼻を折った、弱いなどと言って邪魔をするアンチが目立ち始めた。


「それを返り討ちにしてこそプロでしょ。まぁ、訴えるし、通報するけどね」

「やっていい事とダメな事の区別もつかないとか、もう可哀想になってくる」

「チートも同じだよね。自分と他人を認められない人間だって公言してるようなもの」


 既に、楽しむ事よりもプロに成ることの方が、大きな目的となっている三人はたいして気にしてはいない。ただ、そこに侮辱を含むのなら、警察と法廷でオーナーが会ってくれるとも言った。

 配信をする以上、ゴースティングされても仕方がない面がある。れっきとした証拠がない為に、一般ではどうやってもゴースティング自体を訴える方法はあっても、勝てる要素がないのだ。

 ゴースティングをやっと返り討ちにできた、と言う動画を出せば利益が出てしまう事が問題なのである。

 その代わり、侮辱が行われると話が違う。

 この場合、SNSの投稿や配信のアーカイブでコメントが残り、証拠能力を持つ。株式会社ジャストライフには顧問弁護士がいる為、その証拠を集める事が可能だ。

 一ヶ月の配信で十数人が告訴、半数は侮辱罪が成立し、残りは名誉毀損罪が成立して起訴された。そのうち二人に営業妨害でも起訴される事態となるが、すべて裁判中なので確実ではない。配信者業界がざわつくには十分な事実だった。


「露骨にゴースティング減ったよね」

「訴えられないって高くくってたんでしょ」

「ほんと可哀想。社長も見せしめにするつもりなんですか?」

「それもあるが、配信環境の正常化が目的だ。勝訴したって零にはならんよ。なったら警察と弁護士はもっと楽な仕事なんだわ」

「間違いないですね」


 プロゲーミング部の部屋で笑い合いその裏では、次々と告訴と起訴が行われているのだが、知る由もない。


「そうだ、学校とも話はついてしまっているんだが、留学の日程が決まったぞ」

「「「そうなんですか!」」」

「あと、クリスの留学の許可も下りた。と言うか下ろさせた」

「ありがとうございます!」


 交通事故のトラウマがありそうなものなのだが、その逆で、本人は乗り越える為に行きたいと希望した。

 クリステルの父親、典昭と一緒に必死で駆けずり回った結果だ。

 留学は今月の下旬から十二月の中旬までの一ヶ月間だ。来年は修学旅行の時期とかぶるのでずらされるが。


「そう言えば、リハビリは順調なんだって?」

「はい。自転車のペダルが付いた車椅子を常用するようになってから、左足がしっかり動くようになりつつあるんです!」

「ほう、そんなのがあったんだな。不思議な車椅子に乗ってると思ったら、そう言うことだったのか」

「はい。パパが見つけて来てくれて、リハビリの先生も興味を持たれて、回復が早いって褒められてます」


 クリステルの笑顔は良く輝いており、皆がクリステルの様子につられて笑顔になっている。

 その典昭はリハビリに関するブログを立ち上げて、開発者と研究者の監修の下、アクセス数を伸ばし続けている。

 ペダルを漕いで動く自転車、発想を転換し、車輪とペダルが同期して動くようにしたのが、クリステルが乗っている車椅子だ。足が強制的に運動することになるので、神経や筋力の回復に一定の効果があると認められている。

 右足は神経が切断されているのでどうしようもないが、左足は神経の回復が目覚ましく、最近はしびれが取れてきているらしい。


「右足はどうしようもないのか?」

「はい。神経を修復する方法がないそうなので。でも、太ももが動くので、杖とかつかまるものがあれば、車椅子に頼る必要もなくなるそうです」

「そうか、それは上々だ。ただ、焦らないようにな」

「はい」


 


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