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裏の裏と評価




 初配信で収益化条件を達成し、その三ヶ月後と言うのはクリスマスだ。

 地域ではホワイトクリスマスになる可能性があると湧いているが、株式会社ジャストライフの社長室の空気にホの字もクの字もない。

 その根本的原因を作ったのは、美優希たちジャストライフゲーミングで、報告をしに来た経理部長の杉澤(すぎさわ)隆二(りゅうじ)は一切悪くない。


「もっと早く報告すべきでした」

「いい、いい、謝らなくていい。これ自体は嬉しいことだから」


 別に何かをやらかしてしまったかと言うと、そうではなく、そもそも経理部長が報告してくることではない。

 広告収益が月額平均四百万強、配信の投げ銭で月額平均三百万弱、を右肩上がりで稼ぎ出しており、たった三ヶ月で二千万越えを稼ぎ出した。関わっている人間の給料を賄って余りある数字である。

 本人たち以外は自分の仕事があり、そちらで売り上げを上げているから、この数字に問題が出てくる。

 また、バーチャル配信者の人気が伸びている段階で、監修にプロゲーマーを生み出した人間が付いている事も、この結果を生み出す一因である。


「まぁ、いい、しばらく状況を見て考えよう。スタートダッシュが上手く行ったからと言って、走り続けられるとは限らないからな。設備投資を検討したいから、システム管理部と連携して、減価償却の終わった設備と、直近で強化したい設備を洗い出してくれ」

「かしこまりました。今月中に片付けます」

「いや、今月中に片を付けても、もう間に合わないし、そんなので残業させたくない。他の業務に差し支えないように、そうだな、二月末日を目途にしてくれ」

「かしこまりました」


 株式会社ジャストライフは資本金が、企業当時の一千万から一切変わっておらず、中小企業として特例を受けているが、利益が高いので行政に目を付けられている。

 大きな溜息を付いた一義は、真純と涼子を呼び出した。

 やってきた二人を座らせて、隆二の報告をざっくりと伝えて後に、ある考えを伝えた。


「輝ちゃんと野々華ちゃん、梨々華ちゃんにもゲーミングパソコンを、クリスマスプレゼントとして買ってあげようと思ってるんだが、どうだろう?」

「反対する理由がありませんね」

「右に同じくないわね。成果報酬制ならまだしも、大金持たせないように時給だけにしたのだから、少ないくらいね」


 三人共成功した時に大金が舞い込むことを分かっていて、時給のみ支給の契約になっている。

 しかし、それは世情的に正当な報酬と言い難い。


「社長がお金を出されるのですか?」

「勿論。今、会社からだとめんどくさいことになる。後から俺の役員報酬を少し増額して相殺するから、実質的には会社からになる」

「一方的な損はしないと言う事ね」

「そういうことだ」


 特別報酬として物を渡しても、現金換算されて課税されるので、個人間の贈与に止める事で税金対策を行おうと言うわけだ。一式送ったところで百十万を超える場合は、個人が持つようなものではないわけで。


「このまま稼ぎ続けた場合は、高校と大学の費用を会社で持ってあげようと思う」

「大丈夫なのですか?」

「学費積み立てとして、追加契約をすればいいだろうと思っている。高校卒業以降は、時給と歩合にするから、それで正当性を持たせると言うわけだ。ただ、梨々華ちゃんに関しては少し別の扱いをする」


 梨々華は演者ではなく裏方で、売り上げに貢献する直接的な仕事がない。その為、マネジメント費用として差し引けても、あまり大きく差し引くわけにはいかないのだ。


「あの子は裏方だ。それに、本人は大学に通うつもりがないらしい。頑張るから高校卒業したら正社員として雇ってほしいとまで言っている」

「それは聞いているわ。片岡社長に直接言うように言ったもの」

「そうか・・・正直手探りの案件だから、実体験の中で獲得していった方がいいだろうと思っている。つまり、梨々華ちゃんの希望通り雇う」

「変に知識を付けて帰ってくる方が迷惑になるかもしれないと言う判断ね」

「そうだ」


 知識があった方が楽になるかもしれないが、一義がやらせようとしているマネジメント業務は、芸能マネージャーに企画提案などのプロデューサー業務を足した形態である。一筋縄でいくような業務ではないのだ。


「それと、輝ちゃんが提案した企画なんだが、特別賞与を出すことになりそうなんだ」

「そうなんですか?!」

「ああ。実は光徳社がこの企画に食いついて、専門家の監修を受ける共同プロジェクトになりそうでね。かなり大きな話になってるから、寧ろ出さざるを得ないところだ」


 食いついた、と言うよりは無視できなかった、と言う方が、光徳社の会長にとっては正しいだろう。

 出版業界及び、マスコミ業界において幅の利く大企業の光徳社、会長の徳光(とくみつ)辰郎(たつろう)は、案外プライドも執着もない人間だ。末息子の不貞行為に対して、一義に向かって惜しげもなく土下座し人脈を取ろうとするほどである。

 一義もこれ以上の人脈はなく、美優希にとっては祖父になるその人を、惜しげもなく許してしまった。

 IT系ベンチャー企業と光徳社はこれをきっかけに取引を開始、媒体が違うだけで競合する仕事内容だったので、業界には激震が走った。

 光徳社と手がける仕事は多岐に渡り、小説専用投稿サイト、光徳社グループ企業のホームページ及びニュースサイト、そこから雑誌や小説の出版と、大規模なお金が動いている。

 ビジネス関係ではあるが、元を正すと辰郎としては一義に頭が上がらない上に、グループ企業のいくつかを立て直してもらっており、会長としても恩しかない。

 また、これをもって互いに見つめ直して不貞行為は完全に水に流そう、と言うのだから乗るしかないのである。


「アルバイトと言えど、差はつけられないから、金銭管理する上で知っといてもらおうと思ってね」

「分かりました。ありがとうございます」


 二人を業務に戻し、クリスマスの日まで十日しかない為、一義は四月一日電算に電話をかけて在庫からパーツと周辺機器の確保を急いだ。

 翌日にはあっさりと必要なパーツと周辺機器がそろい、正社員でも一部の社員しか立ち入りが許可されていない倉庫で、システム管理部から人を借りてその日の内に完成させた。

 ジャストライフの倉庫には物品専用のエレベーターが付いており、もう一つの社内への入り口であり、ECサイトの在庫も保管されているので、立ち入りは制限されている。

 各部長及び、総務部、経理部、システム管理部、サイト管理部の班長以上、企画部の主任以上でないと立ち入りできない。


「話は聞きましたよ。V-Liverはすごいですね」


 作業が終わって休憩室で、システム管理部の部長、斉藤(さいとう)一樹(かずき)と休憩がてら話をしている。

 一樹は元々ライティング部門にいたが、中途採用では元SEとして入ってきた。社内のパソコンの管理を任せ、ライティングに手が回らない日が増えて来たので、新社屋建設のシステム責任者を任せ、完成後にシステム管理部の部長に取り立てた。


「人気が出たら中学生でも、たった三ヶ月であの利益だからな。雇ってよかったよ」

「まぁ、間違いなくおかしくなりそうですね。娘にやらせたいですけど、やらせたくもないですねぇ」


 今回も隼人もそうだが、一義の持っているCorsairと言う名前が、名実共に強すぎるのである。それを抜いて結果を出すのは相当辛いことになっていただろう。


「社長もまだプロとしては通用するのではないのですか?」

「それはないな」

「なぜです?」

「衰えには勝てない。その証拠に、目が付いていけないんだ。美優希たちが見つけられる見えている敵が見えていないと言う、プロとして致命的な物を抱えてしまったからな」


 衰えで言えば老眼が始まっており、近眼に乱視まで抱える三重苦だ。


「レーシック受けてみてはどうですか?」

「考えてはいるが、今は春香が出産を控えているから、もっと先の話だな。誰か受けたのか?」

「私と部下の一人が受けました。部下の眼鏡は伊達で、私は眼鏡とコンタクトにかかってた費用が浮いて楽になりましたよ」

「今度詳しい話を教えてくれ」

「もちろんですよ。いつでも声をかけてください」


 プレゼントの用意が済んで、ひと段落の一義は、プロゲーミング部へと出向く。

 そこにいたのは梨々華だけで、他はまだ来ていない。


「あ、社長おはようございます」

「ああ、おはよう。座っていいよ。何をしていたんだい?」

「はい、輝ちゃんに配信素材を作らせようと思いまして、企画書を書いていました」

「見せてもらっていいかな?」

「どうぞ」


 ノートパソコンを向けられて確認する一義は、『ほー』と感嘆を漏らした。それは配信用のフレームに関する企画書だ。

 一義がいる時は、四分割でそれぞれの画面にそれぞれのキャラクターを当てており、そもそも隙間がない。三人だけの時も当然あり、その場合はどうやっても空きがあり、素材部の適当なイラストを当てている。

 これを機にしっかり用意しようと言うわけだ。


「この基礎さえ出てきてしまえば、季節で用意することでマンネリ化も防げる。いいんじゃないか?」

「はい。輝ちゃんのイラストレーターとしての能力も伸ばせるので、いいかなぁと」

「そこまで考えていたとはね。俺の目に狂いはなかったな」

「ありがとうございます。なんて言うか、毎日文化祭みたいですごく楽しいです」


 一義は笑うしかなかった。


「ハハハ、仕事に楽しさと喜びは絶対に必要だ。こっちで用意出来るものには限界もある。無論、結果が出ない事もあるが、努力することに悪いと言う事はない。後、頑張りすぎないようにね。体を壊したらおしまいだから。いいね?」

「はい」


 ノートパソコンを返して、せっかくだからと少し話をする。


「君にとってうれしいかもしれない話が二点ある。一つは君だけの、一つはチームとしての、どっちから聞きたい?」

「私だけの方から」

「わかった。まず、君が高校を卒業したら正社員として雇う、つまり、もう内定を出す」

「本当ですか?ありがとうございます」


 椅子から立ち上がって頭を下げる梨々華、一義は頭を上げさせて座らせた。


「本当にいいんだね?」

「はい」


 しっかりと頷いて返したのを確認して話を続ける。


「もう一つは、君と野々華ちゃん、輝ちゃんにゲーミングパソコンの一式を、クリスマスプレゼントとして送るんだ」

「ほ!・・・待ってください、美優希ちゃんはどうされるのですか?」

「まーまー、もう少し話を聞いてくれ。チームとして稼ぎ出した金額がかなり大きくてね。その正当報酬としてのお返しと言うわけだ。それで、美優希の誕生日の為に少し協力してほしい」

「もちろんですけど」


 歯切れが悪くても仕方がない。梨々華は一義が何をしたいのか分からないのである。


「美優希の誕生日に、新居へ引っ越しを行う。誕生日プレゼントを兼ねてね」

「そこで誕生日会をするんですね」

「ああ、物をあげておいて言うのは、心苦しいんだがね。そもそも正当報酬なのに」

「構いませんよ。むしろお返ししないと行けなくなるので」


 三人が来るまで打ち合わせをしたのだった。




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