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ラノベ窟のヘヴィーな廃人  作者: 広江宇一
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第69話/終章-①

「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」

薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――


純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。


新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?


【登場人物】

和久井耀わくいよう     高村学園常勤講師

那津川紗里緒なつかわしゃりお  執筆ジャンル:王道ファンタジー

紺野響こんのひびく     執筆ジャンル:男性向けラブコメ

ユピテル      執筆ジャンル:MMORPG中心

卍風理まんじふうり     執筆ジャンル:異世界転生モノ

小早川優奈こばやかわゆうな  執筆ジャンル:女性向け恋愛小説


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


☆一日一話、朝11時に定期更新☆


↓完結済みの過去作品もどうぞ↓

『国宝級イケメンの俺様が幼馴染彼女のストーカーに襲撃されたら、稀代のブサメンに生まれ変わっていた件 ~かくも人生は美しい…… ※ただし、イケメンに限る~』

https://ncode.syosetu.com/n0781ha/

『JK空海、吉備路を駆ける』

https://ncode.syosetu.com/n2890gw/


 一か月後


 残暑はめっきりと鳴りをひそめ、少し高くなったように感じる空にうろこ雲が散っている。

 記憶なんて、もう失くしたはずなのに……不思議な懐かしさに包まれながら俺は、久しぶりに高村学園の門をくぐった。下駄箱へ靴を仕舞い、まずは職員室を目指す。


「では、いきましょうか」

 挨拶が済むと相模原教諭に促されながら、廊下を渡り、教室へと歩を進める。


 真新しい制服に身を包み、学園指定の鞄を提げて……


「今日から編入した和久井耀です。よろしく」

 何年ぶりだろう……黒板を背に、壇上で挨拶する。


 そう、俺は高村学園高等部、文学科へと入学した。二十四歳の高校一年生……法令上、高校への再入学を禁止する規定はない。学園が認めさえすれば、だが……。俺は学園長たる雲雀に頼み、理事会の協議を経て、許可を得た。もちろん、編入試験を受け、真っ当に入学を果たしたわけだ。


 過去の記憶の大半は混濁の中へ紛れ、失われた……。残っているのは、書き上げた一作のライトノベルと、紗里緒の輝くような笑顔が脳裏を過ぎる記憶の断片……それだけを頼りに、今を生きている。


 教室にざわめきが走る。当然だ……突然現れた年上の同級生に、教室中が蜂の巣をつついたような騒ぎで沸き上がる。そんな中、冷ややかに俺を見据える瞳があった。


 紗里緒だ。


 深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した俺は、壇上から一歩を踏み出す。

 いまだ約束は果たされていない……俺の作品を紗里緒に読んでもらうという過去の約束を成し遂げる……。もう、後戻りはできない。どのような結末になるとしても……。


「ちょっ、ちょっと! 和久井さん! いや、和久井くん!」

 相模原教諭の制止が背中を打ち続ける。


 しかし、歩みは止めない。ゆっくりと、そして堂々と、想いを噛みしめながら進んだ俺は、紗里緒の目の前で足を止めた。


「紗里緒!」

 叫びとともに、教室の喧騒は水を打ったように静まり返る。


「三年前の公園……先月のコンビニ……。……あなた……なんなの?」

 微塵も動揺することなく、紗里緒は射殺すような眼で俺を睨んだ。


「紗里緒……今、楽しいか?」

 心臓の早鐘と反比例して、頭の中が静けさを取り戻していく。

 不安に圧し潰されそうになりながらも、俺はこの日を、この時を、ずっと待っていた……。


 紗里緒と話したい事が、たくさんあったんだ……。


「意味不明……。そんなこと、何故、あなたに答えなくちゃいけないの?」

 最初の質問は決まっていた。そして、紗里緒が目を逸らすであろうことも、わかっていた。


「……お前の作品、読ませてもらった。すごく……良かった。綺麗な文、過不足のない構成、個性豊かな登場人物、胸を打つ物語……どれも高校生が書いたとは思えない出来栄えだった」


「あっそ。それは、どうも。なんならサインしてあげるから、もういい?」

 呆れたように溜息を吐いた紗里緒は、胸ポケットからペンを取り出した。


「……でも、自由じゃなかった……紗里緒らしくなかった……」


「私……らしく……?」

 言葉の真意を推し測ろうとするように、切れ長の目元が僅かに引きつる。


「もう限界なんだろ? あれは晴彦の作品をなぞっているに過ぎない」


「……なんですって……」

 静かな怒りが色白の肌を淡く染め、落ち着かない様子の右手が何度もペンを繰る。


「晴彦の常識に囚われたままだ。このままじゃ、お前は晴彦を……いや、自らの理性を超えることはできない。これ以上、高みには、行けない……」


「それは私が決める事よ! あなたに説教される筋合いはないわ!」

 耐え切れず怒りを吐き出した口元が、苦々し気に歪む……しかし、否定はされなかった。


「今……お前が辛いなら……俺は……お前を救いたい……お前が俺に、そうしたように!」


「あなた、何様なの⁉ いい加減に……」

 右手でもてあそんんでいたペンを紗里緒は机に叩きつけた。


「頼む! これを読んでくれ!」


 すかさず俺はプリントアウトした紙束を差し出した。


お読みいただき、ありがとうございます。

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