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ラノベ窟のヘヴィーな廃人  作者: 広江宇一
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第64話/五章-⑬

「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」

薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――


純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。


新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?


【登場人物】

和久井耀わくいよう     高村学園常勤講師

那津川紗里緒なつかわしゃりお  執筆ジャンル:王道ファンタジー

紺野響こんのひびく     執筆ジャンル:男性向けラブコメ

ユピテル      執筆ジャンル:MMORPG中心

卍風理まんじふうり     執筆ジャンル:異世界転生モノ

小早川優奈こばやかわゆうな  執筆ジャンル:女性向け恋愛小説


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


☆一日一話、朝11時に定期更新☆


↓完結済みの過去作品もどうぞ↓

『国宝級イケメンの俺様が幼馴染彼女のストーカーに襲撃されたら、稀代のブサメンに生まれ変わっていた件 ~かくも人生は美しい…… ※ただし、イケメンに限る~』

https://ncode.syosetu.com/n0781ha/

『JK空海、吉備路を駆ける』

https://ncode.syosetu.com/n2890gw/


 喫茶リンデンは老舗らしい雰囲気を漂わせる純喫茶だった。

 煉瓦造りの外壁に青蔦が這い、黒ずんだ一枚板の看板が年季を感じさせる。窓から中を覗き込むと、目的の人物が一番奥のボックス席に腰かけているのが見えた。


 両手で顔を叩いて気合いを入れると、意を決して扉を開ける。

 ドアチャイムの軽やかな音が店内に響き渡る。店員の案内を無視してボックス席へ歩み寄った所で、晴彦と向かい合う、思いもかけない顔が視界に飛び込んできた。


 折笠おりかさ……。

 俺の担当編集。いや、かつて担当編集だった男だ。出版社が倒産した時、いの一番に雲隠れした男……。

 不意の遭遇に、頭が真っ白になった。今までの苦境は、コイツのせいだと言っていい……。


「……で、どうですか、先生……次の新人賞ですが、いい作品はありましたか?」

 あの頃と同じ折笠の声が、急速に心をザワつかせる。


「あのねぇ……今はそれどころじゃないんだ……会長とのお付き合いで審査員に名前を貸してはいるが、いちいち読んでいられない。君、適当に選んでおいてくれないか……」

 新人賞……? 審査員……? そんな適当に……


「わかりました。では、若くて活きの良さそうなのにしときますね……じゃ、この後、一杯だけ付き合って下さいよ、ねぇ、先生!」


「しかし、娘が……いや、そうだな……今日は呑みたい気分だったかもしれん……」


「そうこなくっちゃ!」

 傍らで立ち尽くす俺に気づくことなく、会話を進める二人……。


「折笠ぁ!」

 元・担当編集の緩んだ笑みを視界に捉えた瞬間、それまで耐えていた理性が吹っ飛んだ。


「てめぇ、ふざけんな! お前のせいで俺は……」

 我を失った俺は、夢中で掴みかかっていた。


「なんだ! 君は……」

 突然の襲撃に泡を食った折笠は、ジタバタと虚空を藻掻き続ける。


「俺は和久井だよ! 覚えてねぇのか⁉ てめぇにどれだけネチネチ言われて、没にされたと思ってんだよ! そのくせ倒産した途端に逃げやがって……」


「……和久井ぃ……? 知らんぞ、俺は……」

 苦悶の表情を浮かべつつ、声を絞り出す。


「経営が火の車のくせして、新人賞とかやってんじゃねぇよ!」


「それは……⁉ ……なんでお前が知ってるんだ……?」

 折笠の反問に僅かの冷静さを取り戻した俺は、掴んでいた襟首を突き放した。


 深く息を吐く。

 ここは三年前……。コイツが理解できないのも仕方がないのだ。


「……どういう事かね?」

 半眼で見据える晴彦に問われた折笠は、不用意な受け答えをした自らの口を押さえつけ、辛うじて苦笑いを浮かべた顔を引きつらせると、


「……き、急用を思い出しました!」

 突如叫んで、脱兎の如く逃げ去った。


 店内に静寂が降りる。薄く流れるクラッシックが、やけに耳の奥へ響く。カウンター越しに顔を曇らせるマスターは、常連の大作家に文句を言おうか言うまいか、迷っているようだった。


「……まぁ、座りたまえ」

 さすが大作家である。

 晴彦は冷静に目の前の席を勧めた。……肝が据わっている。


「君は……何者なんだ……?」


「通りすがりの未来人」

 適当な自己紹介を無表情で聞いた晴彦は、一拍置いて噴き出した。


「ぷっ……フハハハハ……未来人? それなら、あの出版社との関係も考えないといかんな」

 片手でカップを弄ぶ晴彦は、出来の悪い喜劇を茶化すように笑い続ける。


「そんな事はどうでもいい! あんたなぁ、娘を泣かせたままで……碌に話も聞かないで、こんな所で油売ってんじゃねぇよ!」

 晴彦の眉が微かにピクリと痙攣けいれんする。


「今すぐ家に帰って、ちゃんと話をしろ! 出てっちまうぞ! そうなったら、あんたは後悔することになる。絶対に、だ!」


「……どこで嗅ぎつけたかは知らないが、他人にとやかく言われる筋合いはない。それに、作家には絶対に必要な資質がある……」

 コーヒーを一口すすった晴彦は、静かに呟く。


「……他人の評論、批判、忠告をガン無視する能力だ」

 それは作家特有の回りくどい否だった。小賢しい言い回しが癇に障る。


「紗里緒はあんたに捨てられたと思ってるよ……才能を見限られたんだ、って……」


「……娘から聞いたのか……まったく……あいつは……」

 呆れたように溜息を吐く晴彦が、俺の話をまともに取り合う様子はない。


「信じていないようだから、少し先の未来を教えてやる。紗里緒は家を出て、ツグミと暮らしはじめる……かけがえのない居場所と心強い仲間を得て、メキメキ頭角を現し、中学生でプロ作家の仲間入りだ……」


「……まるで、三流小説だな」

 冷たく吐き捨てると、暇を持て余したようにカップの中のコーヒーをクルクルと回す。


「娘の才能に嫉妬したあんたは、学園理事の職権を濫用して、紗里緒を学校から追い出す」


「……意外な展開じゃないか……二流小説くらいに格上げしてやろう」

 思う所があるのだろう……カップを持つ手が微かに揺らぐ。


「親子の亀裂は修復不可能になった。それでも紗里緒は立ち上がり、前に進み続ける……史上最年少で直木賞を獲る。しかも……」


「……ほう?」

 直木賞というワードに食指を動かされたのか、言葉を切った俺の話を、晴彦は僅かに身を乗り出して聞いた。


「ライトノベルで!」


 嘘を吐いたつもりは、ない。これは、確定された近い未来……。

 紗里緒がこのまま諦める……それこそ嘘だ! たとえ、父に勘当されたって、部活が休止になったって、プロジェクトが凍結されたって……紗里緒は書き続ける! 何度だって立ち上がって、必ずやり遂げる! 迷って、悩んで、苦しんで、どん底に突き落とされても、それを糧にして這い上がり、己の理性を越える!


 ……そして、いつも俺の常識を、変えるんだ……。


お読みいただき、ありがとうございます。

皆様の応援が執筆の糧です。


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