第62話/五章-⑪
「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」
薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――
純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。
新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?
【登場人物】
和久井耀 高村学園常勤講師
那津川紗里緒 執筆ジャンル:王道ファンタジー
紺野響 執筆ジャンル:男性向けラブコメ
ユピテル 執筆ジャンル:MMORPG中心
卍風理 執筆ジャンル:異世界転生モノ
小早川優奈 執筆ジャンル:女性向け恋愛小説
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「総合文芸部が無くなるですって⁉ どういう事ですか⁉」
それまで冷静を貫いていた雲雀だったが、声を詰まらせながら俺の肩を強く掴んだ。
「無期限活動休止の処分を喰らったんだ。那津川親子の喧嘩に巻き込まれて、な」
「親子喧嘩……ですか」
それだけで腑に落ちたように、雲雀は小さく溜息を吐き、冷めた目で俺の肩をそっと離した。
「『アイボリーマックス』の結末を、晴彦が気に入らなかったんだ。……確かに、俺も納得できなかった……。紗里緒が手を抜くなんて思わなかった」
晴彦と言い争う苦々し気な紗里緒の顔が脳裏を過ぎり、心の奥底が軋みをあげる。
「紗里緒ちゃんの事です……よほどの事情があったのでしょう。彼女は、そう簡単に自分の作品を蔑ろにできるような人間ではない……悩んだ末の決断だったのでしょうね」
咎めるような鋭い視線で俺を見据えた雲雀は、深い逡巡とともに目を伏せた。
「……最近、変だったんだ。自分の方が辛そうなのに妙に優しかったり、顔色が悪いのにカラ元気で俺を励ましてみたり、弱音を吐いたり、あどけなく笑ったり……紗里緒じゃないみたいだった……。すごく……悩んでたんだろうな……」
それなのに、俺は気づいてやれなかった……。
寄り添ってやれなかった……。助けられなかった……。
そして、俺の言葉は紗里緒へ届かなかった……。
自分の才能の無さが……憎い!
「今まで紗里緒ちゃんは決して、大人に心を開くことは無かった……。僕でさえも……しかし、和久井先生には素の自分を晒している……。発売前の完結巻を渡されたんでしょう? 普段の彼女なら、発売しても誰にも渡さない。部室の本棚にそっと、置くだけなんです。きっと、あなたと共に進みたかったんです……。そして、自らの未熟を叱ってもらいたかったんですよ、和久井先生に……」
あの完結披露宴の日を思い出す。
関係者に掛けられ続ける声を掻いくぐり、紗里緒は俺へ一番に献本した。何気なさすぎて、その意味を理解しようとも思わなかった……。
「俺が? 紗里緒を叱る……だって? あれだけ才能に恵まれてる奴が、俺みたいな雑用風情の言う事なんて……聞くはずがない、だろう?」
俺は本当に、情けない。
この期に及んで、逃げている。一歩を踏み出す勇気が出ない。
「和久井先生……人の魅力は、才能の多寡では決まりません。あなたには、あなたにしかできない事があるはずです……現に、『DNP』の承認書には、部員でも、雑用でもなく、あなたの名前が記載されていました。顧問として、ね」
「嘘……だろ……」
だってあいつ、耳を塞いでろ、って……。
「助けてあげてください、紗里緒ちゃんを……。僕には……できない」
そう言って、雲雀は悲しげに微笑む。
「俺にだって……無理だ……。紗里緒の気持ちが……わからない」
嘘だった。鈍い俺でも理解している。でも、ダメだ。
俺とあいつは教師と生徒、なのだから……。
「本当にわからないのですか? 紗里緒ちゃんの気持ちが……」
……俺はまだ、アイツに作品を読んでもらっていない……まだ、認めさせていないんだ。
それなのに、俺を必要とする紗里緒の気持ちなんて、一つしか……
「わからないっ! わかっちゃいけないはずだ! 雲雀!」
情けなく縋りつく俺に、
「逃げていいのは、ここまでです……」
雲雀は頭を軽く左右に振ると薄く息を吐いて、静かに言った。
「和久井先生……紗里緒ちゃんは! あなたの事を……!」
「みぃつけた……」
雲雀の叫びは核心に至らず、不意に途切れた。
魔女の甘い声が背後から聞こえた次の瞬間、旧校舎の方向から光の帯が溢れ、辺りを煌々と照らす。天を穿つように光の柱が立ち昇り、空を割る火花の如き光点が弾けている。
「マズい! この気配は……紗里緒ちゃんの思念が干渉している!」
雲雀の絶叫よりも早く俺を捉えた光の帯が、絡みつくように身体を覆う。
「運命の転換点を目指して……時間軸を捻じ曲げて、摂理を変えようとしている……逃げ――」
目の前で叫び続ける雲雀の姿を掻き消すように、光が視界を埋め尽くし、真っ白になった瞬間、一切の音が消える。
そこで俺の意識は途切れた。
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