第61話/五章-⑩
「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」
薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――
純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。
新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?
【登場人物】
和久井耀 高村学園常勤講師
那津川紗里緒 執筆ジャンル:王道ファンタジー
紺野響 執筆ジャンル:男性向けラブコメ
ユピテル 執筆ジャンル:MMORPG中心
卍風理 執筆ジャンル:異世界転生モノ
小早川優奈 執筆ジャンル:女性向け恋愛小説
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「は?」
声にならない声が無意識に口から洩れる。
「だから、殺しちゃえばお互いの大切さに気付くはずです。あ、でも、大丈夫ですよ? 魂が完全に肉体を離れる前に蘇生しますから」
爽やかな笑顔で語る風理の言葉は、俺の理解を超越している。
冗談としても、質が悪すぎる。
「……お前、自分が何を言ってるか分かってるのか……」
「えぇ、正しい事を言っていると思っています。そうですね……紗里緒さんは大切なので、やっぱり晴河夏彦の方を殺しちゃいましょう」
風理の視線は落ち着きなく虚空をさまよい、次第に笑みが消え、元通りの無表情へ回帰する。
「ふざけんな! 簡単に殺すとか言うなよ!」
「しかし、二人が仲直りしない限り、問題は解決しません……このままじゃ総合文芸部が無くなってしまいます。それだけは……何をしても避けないと……」
俯く風理の周囲に薄暗い靄が満ちる。
錯覚か……俺は何度も目を擦った。
「みんな、幸せになりたいでしょ?」
次の瞬間、顔を上げた風理の表情は人間離れしている。
目は落ち窪み、口は歪な形に裂け、陰気なダークグレーの薄靄が体中を覆うように立ち込めている。
その姿はまさに『魔女』だった。
「あ、先生でもいいかな。あなたは今、問題の渦中にいます。あなたこそがトリックスター……あなたが死ねば、二人も考えを改めるかもしれません。風理、めっいあーん! 冴えてるぅ!」
風理はどこからか、装飾の施された禍々しいデザインの短刀を取り出した。
「ちょ……」
「安心してください。親子喧嘩を苦に自死したように、うまく処理します……それじゃ……」
鞘に手を掛け一気に引き抜くと、月の光に照らされた刀身が淡く蒼白い光を発している。
「死んでください☆」
次の瞬間、風理は躊躇いなく短刀を突き出した。
「あ。避けないでくださいよぉ」
無理に決まってんだろぉぉぉぉお!
言葉を発する余裕のない俺は、代わりに全力で逃げ出した。人生最速で廊下を駆ける。
「……精霊よ……」
微かに風理が呟いたように感じた直後、意に反して脚が止まり、思いっきり前転しながら床へ転がる。なおも脚は岩の如く固まったままだ。滑るように移動する風理が追いつき、その凶刃が俺を捉える。
思わず目を閉じた次の刹那、
「和久井先生!」
気がつくと、手を引かれて走っていた。
さっきまでの記憶がまだらに途切れている。
「雲雀……」
「しっかりしてください!」
傍らには金髪の青年……学園長たる雷電雲雀の姿があった。
理解が追いつかない……。
いつの間にか脚は元通りの働きを取り戻し、景色は変わり、旧校舎を囲む木々の間を、すり抜けるように駆けている。
「アレは何なんだ⁉」
俺は、腹の底から叫んだ。
「魔女です!」
雲雀はたった一言、答えた。
「知ってるよ!」
あぁ、魔女だろうよ! あの格好はどっからどう見ても! でも……
「違うんです! 風理は異世界からの転生者……本物の! 魔女なんですよ!」
本物の……魔女……だって?
言い聞かせるように真剣に告げる雲雀の言葉も、今の俺にはうまく嚥下できない。
「四年前……異世界から吹き飛ばされた風理は、この学園に保管されている古文書に惹きつけられるようにやってきました。当時、高校生だった僕は、事故で両親を失い、学園長の座に就いたばかりでした。彼女を保護し、高校へ編入させ、言葉を教え、仕事として生きていけるように、彼女に異世界の思い出を執筆するよう勧めました。それが、総合文芸部の礎です。高校卒業後、僕は彼女を異世界へ送還するための方法を探し求めて、全国を旅しているんです。覆面作家として活動しているのも、目立てば風理の秘密が明るみに出る事を恐れて……。鶫には悪い事をした……そのために理事長の職責を押しつけているのだから……」
「そんな……」
風理は自らの作品を日記のようなものと評していた……それは事実だった。
厨二病でも、ライトノベルでもない……彼女にとっては、ただのノンフィクションだったのだ。
「それにしても魔力量が多すぎる……魔素を過剰に摂取しない限り、暴走する事なんて……」
魔素……最近どこかで、聞いたような……
「……そうだ! 『アイボリーマックス』の完結披露宴の日! 都内のホテルで……風理が滝に打たれてて……龍脈がどうの……魔素がどうの……」
俺と雲雀は大樹の陰で足を止めた。魔女が追ってくる様子はない。お互い、絶え絶えの息を深呼吸で何とか整えると、風理の奇行を詳らかに話して聞かせた。
「なるほど……それが原因で間違いないでしょう。まさか、都内にそんなパワースポットがあったなんて……。しかし、普段の風理であれば暴走する前に、魔力を開放する術式を展開したはずなんですが……。よっぽど精神が乱れていて、余裕がなかったとしか……」
「風理は怯えていた。総合文芸部が無くなる事だけは避けないと、って……」
俺たちが思っている以上に、風理にとってラノベ窟は大切な場所だったのだ。
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