第60話/五章-⑨
「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」
薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――
純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。
新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?
【登場人物】
和久井耀 高村学園常勤講師
那津川紗里緒 執筆ジャンル:王道ファンタジー
紺野響 執筆ジャンル:男性向けラブコメ
ユピテル 執筆ジャンル:MMORPG中心
卍風理 執筆ジャンル:異世界転生モノ
小早川優奈 執筆ジャンル:女性向け恋愛小説
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
☆一日一話、朝11時に定期更新☆
↓完結済みの過去作品もどうぞ↓
『国宝級イケメンの俺様が幼馴染彼女のストーカーに襲撃されたら、稀代のブサメンに生まれ変わっていた件 ~かくも人生は美しい…… ※ただし、イケメンに限る~』
https://ncode.syosetu.com/n0781ha/
『JK空海、吉備路を駆ける』
https://ncode.syosetu.com/n2890gw/
室内に静寂が降りる。
「……ごめん……みんな……全部……無くなっちゃった……」
力なく椅子に腰を落とした紗里緒が、小さく呟く。
「私は疫病神だ……いつもそうだ……私のせいでみんなが不幸になる……母さんだって……」
うわごとのように呪詛の声を吐き出し続ける。
「シャルちゃん!」
響が肩を揺らしても紗里緒の視線は虚空を彷徨ったままだ。
「諦めちまうのか?」
なんの答えも返ってこない。
今、自らの世界に囚われている紗里緒に、俺の言葉は届かない。
「それなら、おまえの物語もそれまでだった、って事だ」
見え見えの安い挑発……そんなんじゃ今の紗里緒には通用しない。
俺だって、腐っても作家の端くれ……考えろ……言葉を……紡ぎ出せ……こいつの心の扉を抉じ開ける言葉を!
「……ウンコ製造機はお前じゃないか……」
紗里緒の身体がピクリと反応を示す。
「過去の栄光に縋って、全部諦めて自分を信じず、駄作を垂れ流す……」
「……違う……」
――俺と紗里緒の間には、天と地ほどの実力差がある。
「お前は……負けたんだ……自分で負けを認めてしまった……『アイボリーマックス』の結末を否定されたあの時から……」
「……違う……そんなんじゃない……」
――紗里緒からすれば、俺の拙い言葉なんて、路傍の石ころの如くつまらないモノだ……。
「この日が来ることを望んでいた……父親が……圧倒的強者が全てを壊してくれることを」
「アンタに……」
――でも、今だけは……この熱が…………
「そして、羨ましく思っているんだ……那津川晴彦の自らを貫き通す強さを!」
「アンタに! 何がわかるってのよ!」
――この想いが……言葉を通じて届いてくれ!
「……わかるさ……今のお前は過去の俺だ! 初めて出会ったあの日、全てから逃げて、どうしようもなくて、土下座してお前に弟子入り志願した、あの時の俺なんだ!」
紗里緒が息を呑む。
見てはいけない何かに気づいてしまったかのように、床を見つめるその瞳は、必要以上の瞬きを繰り返す。
「あの時、縋りつかなければ……そこの扉から逃げ出していれば、俺は今でも惰性で書き続けていただろう。何の信念も持たず、抗わず、すべてを諦めたままだった……でも……」
なおも心の底からの想いを言葉へ変えようとする俺に、
「……って……」
耳を塞いだ紗里緒は、小さく呟いた。そして、全てを拒絶するように、
「出てってよ! みんな……みんな! 出てって!」
天を仰いで叫んだ。
一時間待っても、二時間待っても、紗里緒は部室から出てこなかった。
その間に陽は傾き、辺りは夕闇に包まれる。下校時間の迫る中、他の部員には帰ってもらった。俺と紗里緒の根競べになるだろう……はずだった。
「和久井先生……」
部室の前に座り込み、俯いて考えを巡らせ続ける俺へ、不意に甘ったるい声が投げられる。
顔を上げると、不気味なくらい真顔の風理が突っ立っていた。
「帰ったはずじゃ……」
「私が何とかしましょうか?」
抑揚の少ないその声からは、なんの感情も読み取れない。
「何とかって、何だ? とにかくお前は補習を……」
「話を聞いて下さい!」
突然の激しい剣幕に圧され、思わず転びそうになる身体を辛うじて支えた。
「おぉ……」
「……人は失って初めて、大切さを思い知るんです……」
俺は風理の演説を黙って聞いた。
「……逆を返せば、失わない限り、どんなに手放しで賛美しようとも、それは上辺だけに過ぎません。心の奥底では粗末に扱っているものです」
「何を言って……」
光彩の消えたその瞳に見据えられると、二の句を継げない。
「だから……」
突然、ニコリと微笑んだ風理は、
「殺しちゃいましょ? どちらかを」
あっさりと言い放った。
お読みいただき、ありがとうございます。
皆様の応援が執筆の糧です。
「☆☆☆☆☆」を押して評価をお願いします。




