第55話/五章-④
「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」
薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――
純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。
新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?
【登場人物】
和久井耀 高村学園常勤講師
那津川紗里緒 執筆ジャンル:王道ファンタジー
紺野響 執筆ジャンル:男性向けラブコメ
ユピテル 執筆ジャンル:MMORPG中心
卍風理 執筆ジャンル:異世界転生モノ
小早川優奈 執筆ジャンル:女性向け恋愛小説
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恍惚の表情の優奈が……ケ、ケーキを頬張っている……。
「初っ端からケーキ……だと……」
「……確かに、いきなりデザートは掟破り……しかし、今は戦いなのです! 甘い→しょっぱい→甘いの順で、効率よく摂取すべきなのです……」
手を止めることなく、とくとくと解説を披露する。
「なん……だと……」
そこまで考えた上での戦略……。
「見た所、先生は前菜から順番に満遍なく取ってきたご様子……甘い! 甘すぎる! 戦況は常に流動しているのです。このままでは……死にますよ!」
「ど、どういう事だ……」
真剣すぎる優奈の眼差しに思わず、声が引き攣る。
「……ご覧なさい。挨拶参りを終えた人たちが次々とビュッフェに向かっています。一仕事を終えた彼らは、云わば飢えた狼……ビュッフェの平野を縦横無尽に駆け巡り、荒らしまわるでしょう……見なさい! 私の手元を!」
指さす先を見ると、既に肉と寿司が大量に確保してある。
「なっ……しまった!」
「もう遅いのです……先生が再度、戦域に辿り着く頃には肉は鶏肉、寿司は卵と助六ばかりになっているでしょう……補充されるタイミングは不規則。機先を制しえなかった先生は、侘しさの中で敗北するのです……」
「そこまで考えて……」
「寝る間を惜しんで考え尽くした結果です……この戦いは昨夜から始まっていたのですよ!」
なんて事だ……俺の見通しが甘かった。いや、思考停止していたとしか思えない。
「跪いて負けを認めるならば、この牛フィレ肉のステーキを分けて差し上げましょう」
負けを……認める、だと……。
「まだ、戦いは始まったばかりだ……ここから流れを変えてみせる!」
「負け犬の遠吠えですね……」
憐れむような呟きを聞き流し、一気に皿を平らげた俺は、戦線に復帰した。優奈の予言通り、ビュッフェには既に長蛇の列ができている。タイムロスは免れないだろう。
優奈は確かに、食指の進む料理を大量に保持している。しかし、その食べ進めるスピードは決して速くない。むしろ、ゆっくりと味わって食べていると言える。そこにこそ勝機がある。戦略上の失敗を戦術で挽回するにはやるしかない。本気を出す!
「……戻ったぞ!」
円卓に辿り着いた俺を見る優奈の瞳が驚愕に染まる。
「そんな……まさか……」
「これぞ秘技! 千手観音!」
俺の両手にはそれぞれ四枚ずつ、計八枚の大皿が握られている。
華麗なステップで円卓に近づくと、滑り込ませるように大皿の群れを不時着させる。
「なんて……神々しい……」
流れるような所作を蕩けた目で見つめていた優奈だったが、大きく頭を振ると、
「……いやいや! それは質より量を選んだという事ですね! ですが、そんなに食べられるはずがないのです。先生! あなたは見誤っている。ここは立食パーティー……」
大きく息を吐き、力強く俺を指さして告げる。
「白米は無いのですよ!」
優奈の言う通りだ。
立食パーティーと食べ放題とは、この一事において雲泥の差を成す。食べ放題ならば、白米もしくはパンをお供にして、おかずとして食べ進めることができる。しかし、パーティーメニューはその全てにおいて脂質が高く、味は濃く、酒肴として提供される。酒を禁じられている今、同じ料理を大量に摂取することは闇雲に満腹感を助長し、満足感を損なう自死に等しい愚行である。だが……
「……甘いな、優奈。これは……こうするのだ!」
「……な、なんですって!」
優奈の瞳が再び驚愕に見開かれる。
「あっさりとした鶏肉はクリームパスタに埋めて、カリカリに揚がった謎のフライはマリネと一緒に、なんだかよくわからない魚のポワレはパエリアとともに……」
「まさか……」
「そう! 味変だ!」
これだけ種類に富んだ料理の数々。
その組み合わせは数百……いや、数千に及ぶだろう。料理同士を掛け合わせ、『飽き』に対して敏感に反応する。これこそ経験則による勝利への方程式!
「……やりますね」
「……お前もな」
誰かが肩を叩いている。お互いを認め合う高笑いを止め振り向くと、
「あなたたち……」
静かに虚空を指さす響だった。
指の先には、蔑む目で睨みつける紗里緒の姿がある。
「お行儀よくしなさい……だそうです」
そう言い残し、響は去っていった。
その後、俺たちが礼儀正しく食事を嗜んだのは言うまでもない。
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