第54話/五章-③
「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」
薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――
純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。
新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?
【登場人物】
和久井耀 高村学園常勤講師
那津川紗里緒 執筆ジャンル:王道ファンタジー
紺野響 執筆ジャンル:男性向けラブコメ
ユピテル 執筆ジャンル:MMORPG中心
卍風理 執筆ジャンル:異世界転生モノ
小早川優奈 執筆ジャンル:女性向け恋愛小説
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先陣を切ってズンズンと進む紗里緒の後を追って、俺たちは会場へ歩を進めた。
既に開場しており、案内スタンドには【『アイボリーマックス』完結記念 披露宴】の文字が躍っている。これだけのお膳立てなのだ。版元の作品に対する期待の大きさが伺い知れる。
受付を抜けた瞬間から次々に声を掛けられ続ける紗里緒たちをロビーに放っておいて、
「おぉーっ!」
扉をくぐった俺と優奈は、同時に感嘆の声を上げた。
給仕の配るウェルカムドリンクを受け取り、会場へと足を踏み入れる。
「まるで物語のワンシーンみたい……」
高い天井には虹色を放つシャンデリアが煌めき、柔らかなワインレッドの絨毯を照らしている。
真っ白なクロスが掛けられた円卓が花弁の如く綺麗な位置取りで並び、その両脇のビュッフェでは料理の準備が着々と進められている。立食という前触れ通り、椅子は見当たらない。
「先生……私、なんだかヤル気が出てきました……」
「本当に食べ尽くす気か⁉」
「違いますよ! 食欲から離れてください! こんなにも愛される作品を書いて、私の実力で、今度は母と弟をここへ連れてきてあげたい……」
即物的な感も否めないが、そんな優奈を俺は微笑ましく思った。
「そうだな……」
それが優奈の原動力なのだから。
「はい! アンタの分」
突如、背中に掛けられた声に踵を返すと、紗里緒が腕を振り上げた所だった。
弧を描いて放たれた『それ』を、辛うじてキャッチする。
「新刊よ。本来は帰りに渡すんだけど、先にあげるわ。私は挨拶ばっかりで構えないの。暇でしょうし、それでも読んでなさい。でも……」
その眼が険しく細められる。
「お酒は飲むんじゃないわよ! 帰れなくなっちゃうんだから!」
「わかってるよ……」
『酒』というワードに嫌な予感を覚え、肩をすくめる。
「本当にわかってるのかしら……。合宿での大言壮語を忘れてるんじゃないの? まぁ、いいわ……響とユピさんは私と一緒にいるから、優奈の事、頼んだわよ」
合宿での失態が未だに尾を引き、事ある毎に蒸し返されている。
「風理は?」
居たたまれなくなった俺は、強引に話題を変えた。
「中庭の方へ行ったわ。探検するんですって。そっちも目を離さないようにね」
探検……相変わらず自由奔放なヤツだ。
「わかった。わかった。主賓なんだから、素直に猫を被って、周りに気でも遣ってろ」
普段、気を遣わない分、今日くらいは、な。
「えぇ、そうさせてもらうわ」
会場内に人が満ちるのを見計らって、紗里緒はステージの脇へ歩を進める。
腕時計に目をやった司会者が、オンタイムで進行を開始した。
「本日は『アイボリーマックス』完結記念披露宴へお集まり頂き、誠にありがとうございます。まずは原作者の冬海由岐先生から一言頂きます」
冬海由岐は紗里緒のペンネームである。
いつもの険しい目つきを封印し、微笑を作り込んだ鉄仮面で登壇する紗里緒。落ち着き払った所作でとくとくと謝意を述べる常識人のような振る舞いに、戸惑いを禁じえない。
次に登壇した編集長より作品のアニメ化が発表され、そのデモムービーが大型スクリーンに映し出される。これが本日のメインイベントらしい。万雷の拍手で締めくくられると、編集長の乾杯の発声を契機として、宴は始まる。
開宴直後から多くの列席者が紗里緒と編集長の卓へ殺到し、列を成す。挨拶参りという訳だ。その他の幾ばくかの人々は遠巻きに雑談を交わしている。
「先生! チャンスですよ!」
人影の少ないビュッフェを指さして、優奈が急かす。俺たちが紗里緒の周りにいても、愛想笑いで突っ立っているのが関の山だ。勝手にやらせてもらう事にしよう。
「よし! どっちがたくさん食べられるか勝負だ!」
食い意地の張った優奈を笑ったものの、朝食を抜いてきた俺も同じ穴のムジナだった。
前菜からはじまり、肉・魚・サラダ……。
磨き上げられた銀器に彩り豊かな料理が満載されている。しかし恐ろしいことに、それだけではない。ビュッフェの卓はまだまだ連綿と続いている。隣には桶に並んだ寿司、その先には各種麺類、そしてポットに入ったスープが何種類も揃い、デザートコーナーには水菓子と煌びやかな洋菓子が鎮座している。もはや目移りするどころか、その全容を把握するのも難しい。とりあえず、手近なところから攻めていくしかない。
「そ……そんな……」
ご馳走を満載した皿を手に、円卓へ戻った俺は戦慄した。
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