第53話/五章-②
「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」
薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――
純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。
新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?
【登場人物】
和久井耀 高村学園常勤講師
那津川紗里緒 執筆ジャンル:王道ファンタジー
紺野響 執筆ジャンル:男性向けラブコメ
ユピテル 執筆ジャンル:MMORPG中心
卍風理 執筆ジャンル:異世界転生モノ
小早川優奈 執筆ジャンル:女性向け恋愛小説
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土曜日。
スーツに身を包み、途上、車で優奈を拾った俺は、指定通りに紗里緒を迎えに上がった。
「ほぇー……おっきなマンション……」
優奈が感嘆の息を吐く。
そっか。合宿の帰り、先に車を降りた優奈は見ていないんだっけ。
グレーの外壁に覆われた、豪奢な造りの高級マンション。大理石が葺かれ重厚感を放つエントランスは、硝子と樫材が入り混じるハイセンスな自動扉によって外界と隔絶されている。周辺でも頭一つ抜き出た十八階建てマンションの最上階で、紗里緒はツグミとともに暮らしている。
というより、両親を事故で亡くしたツグミの居宅へ紗里緒が転がり込んだらしい。二人は何気なく話していたが、家庭の内情を深掘りして聞くのは憚られた。というより、居た堪れなくなった俺が話題を変えてしまったのだ。もっと親密になれば、改めて聞く機会もあるだろう、なんて思っていた。
指定の時間より五分早く、自動扉から煌びやかな装いに身を包む三人が出てきた。
紗里緒はダークネイビーのフレアスカートに、花柄レースのロングスリーブ。スカートの細部に至るまで緻密な小紋が行き届いており、デザイナーの拘りを感じる。明色を好む紗里緒としては、だいぶ妥協したのだろう。派手過ぎず、控えめ過ぎず、本日の主賓に相応しい落ち着いたオーラを発している。
傍らには、黒のひざ丈ワンピースにレースのストールを羽織った響。少し地味で幼く感じるが、主賓を引き立てる気遣いが感じられる。ツグミはパステルピンクのカクテルドレス……あの不満顔は、無理矢理着させられたに違いない。いかにも窮屈そうなしかめっ面で、二人の後を追うようにふらふらと歩いてくる。
「ふぁ……見ないでくださいー!」
優奈がおもむろに両手で俺の目を塞ぐ。
「おい! なんなんだ⁉」
俺の叫びに我に返った優奈は、弾けるように手を反らせた。
「ごめんなさい! ……でも、許嫁を放っておいて見惚れないでくださいよぉ?」
そう言って、不機嫌そうに睨む。
「そんな無茶な……」
「朝から何をイチャコラしてるのよ!」
化粧の効果も手伝って、めっきり大人っぽい雰囲気を放っているものの、後部座席に乗りこむ紗里緒の第一声は、普段と変わらないガサツなものだった。
改めて三人の装いを間近で見て、再確認する。素材はいいんだ、素材は……。本性にさえ、目を瞑れば……。
「優奈も着替えたらよかったのに……響のだったらサイズも合うでしょう? 今からでも……」
心の底から口惜しそうに紗里緒は、制服姿の優奈へ詰め寄った。
「いえ、私はいいんです! ドレスなんて来たことないですし……それに……」
顔を真っ赤にして俯く優奈の声は、
「立食パーティーだっていうから……制服の方が……その……いっぱい食べられる、から……」
消え入るように小さくなっていく。
その様子が滑稽で愛らしく、俺は思わず噴き出した。
「もぉ! 笑わないでくださいー」
肩をポコポコと叩いて抗議する優奈を軽薄な平謝りで宥めつつ、車を出発させる。
「……食べ尽くしちゃいなさい」
腹を抱えて小刻みに震える紗里緒が、笑気を捻じ伏せるように言った。
会場となる都内のホテルまでは、一時間余りである。
高速を飛ばし、激しい渋滞に引っ掛かる事もなくランプを下りる。ナビの誘導のままにしばらく走ると、都心のど真ん中に木々の緑が映える厳かな洋館がひょっこりと姿を現した。警備員の居並ぶ正門脇に据えられた大きな案内看板を頼りに、石畳の坂を下る。
洋館の玄関前へ滑り込むように車を横づけると、控えていたボーイが駆けつけた。なんでも駐車場へ車を回してくれるという。そんな映画でしか見た事のない対応をするホテルの品格を、玄関先で大きく手を振る魔女の姿がぶち壊している。
「今日もその格好なのか⁉」
車を降りた俺は、後をボーイに任せて風理へ食って掛かった。
「正装で、とのことだったので」
魔女にとっては黒いローブにとんがり帽子が正装なのか⁉ TPOの概念が崩壊している。
「……今更着替えるのもなぁ……」
行き交う人が怪訝な顔を向ける。
ハロウィンにはまだ一月ほど早い。ドレスコード的に大丈夫だろうか……? 場違いな風理の姿がツボに嵌まったのか、笑い続けている紗里緒へ諸手を挙げて、お手上げの視線を送る。
「さっすが風理! いいじゃない! そのままでOKよ!」
主賓がそう言ってるなら、構うまい。
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