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ラノベ窟のヘヴィーな廃人  作者: 広江宇一
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第52話/五章-①

「この……ウンコ製造機がぁぁぁぁぁあ!」

薄暗い教室に銀髪少女の怒号が響き渡る――


純文学作家を目指すも挫折し、国内でも珍しい文学科を備えた高等学校『高村学園』に就職した和久井耀は、文芸部の顧問を任される。しかし、待っていたのは通称『ラノベ窟』。ライトノベルをこよなく愛する変人の巣窟だった。


新進気鋭の女子高生プロライトノベル作家に囲まれ、『ラノベ窟』の非常識な活動に翻弄されながら、耀は至高の作品を書き上げることができるのか――!?


【登場人物】

和久井耀わくいよう     高村学園常勤講師

那津川紗里緒なつかわしゃりお  執筆ジャンル:王道ファンタジー

紺野響こんのひびく     執筆ジャンル:男性向けラブコメ

ユピテル      執筆ジャンル:MMORPG中心

卍風理まんじふうり     執筆ジャンル:異世界転生モノ

小早川優奈こばやかわゆうな  執筆ジャンル:女性向け恋愛小説


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


☆一日一話、朝11時に定期更新☆


↓完結済みの過去作品もどうぞ↓

『国宝級イケメンの俺様が幼馴染彼女のストーカーに襲撃されたら、稀代のブサメンに生まれ変わっていた件 ~かくも人生は美しい…… ※ただし、イケメンに限る~』

https://ncode.syosetu.com/n0781ha/

『JK空海、吉備路を駆ける』

https://ncode.syosetu.com/n2890gw/


 ツグミが理事長?


 合宿から帰ってきた俺は、押し入れに仕舞いっぱなしだった学園案内を引っ張り出す。

 表紙をめくると、そこには『挨拶』と題された新入生へ向けた激励文が流麗な文章で綴られ、最後に『理事長 雷電鶫』と銘打ってあった。パンフレットの類を流し読みしていた俺が気づくはずもない。たとえ隈なく読み込んでいたとしても、若齢の女子学生が理事長だなんて思いもしなかっただろう。

 その流暢な文と寝っ転がってゲームを嗜むツグミとが脳内で交錯し、なんとも現実感が湧かない。




 九月に入り、新学期が始まった。古典の担任として、いくつかの授業を任された俺は、多忙の極みにいた。教材の準備に、答案の採点、各クラスの進捗を常に確認しつつ必要書類を作成、提出し、定期的に生徒と保護者の面談を差し挟む。これでもまだクラス担任を任されていない新人の業務量の範疇だと相模原教諭から聞いて、漠然とした不安に苛まれている。


 唯一の救いは、打ち合わせに出掛ける頻度が増し、部室を空けることの多くなった紗里緒の目を盗んで、溜まった業務を放課後に消化できる事だった。


しかし、その日は部室に入った瞬間、先に来ていた紗里緒から、低い声を投げられた。


「アンタ、ちゃんと書いてんの?」

 口調こそ普段通りだが、久しぶりに見るその顔は疲れを隠しきれない程に蒼白い。


「読んであげるって言ってから、どれだけ経ってると思ってるのよ?」


「いやー、それが……」

 言葉を濁すことしかできない。


 実のところ、作品は完成している。合宿で部員の情熱にあてられた俺は、余暇をフル活用して作品を書き上げていた。あとは、見栄えのするタイトルをつけるだけである。

 ライトノベルという未開のジャンル。読んでは書き、書いては読んで。インプットとアウトプットを繰り返し、精一杯、書き上げた、つもりだ。しかし、最後の一歩を踏み出せずにいたのだった。


 理由は色々とある。部室に来ない紗里緒に連絡を取り辛い、初めてのライトノベルで気恥ずかしい、自らの才能を評価されるのが怖い……。

 だが、今日、改めて紗里緒に相対して分かった。俺はこの部を気に入っている。そして、今の関係性を。それは単に、詰まるところ、紗里緒をがっかりさせたくないという尻込みに因るものだった。


「……自信がなくて、な……」

 こんな弱気を見せたら、罵声を浴びせられる! そう思った俺は、咄嗟に口をつぐんだ。


「そう……誰しも最初の一歩はある……そこを越えない限り、何者にもなれないのよ」

 しかし、予想に反して、その声音は優しい。言葉を失う俺に、紗里緒は続ける。


「アンタがアンタを信じなくて、誰がアンタを信じるって言うのよ」

 その通りだった。


 認めてもらいたいからこそ、真の仲間になりたいからこそ、俺は自分の作品に自信を持つべきなのだ。さもなければ、何も得ることはできない……。


「……あぁ、もう少し。あと、もう少しだけ待ってくれ」


「わかった……期待せずに待ってる……。でも、雑用の仕事はきっちり熟してもらうわよ。今週の土曜日、十三時に私のマンションへ迎えに来なさい」

 ほのかに力強さを取り戻しつつある紗里緒の声に、俺は安堵を覚えていた。


「何かあるのか?」


「前に伝えたでしょ。シリーズ完結記念の披露宴よ」

 そういえば、合宿の時に言ってたっけ。


「今回は遅刻厳禁だからね! 肝に銘じておきなさい!」

 射抜くような鋭い視線を前に、前科者はただ何度も頷く事しかできない。


「宜しい!」

 この時の輝くような紗里緒の笑顔を、今でも鮮烈に覚えている。

 いや、頭に焼きついて忘れられないと言った方が正確だろう。


 そして、何度も思い出す。忸怩じくじたる後悔とともに……。あの時、全ての雑念を振り払って紗里緒に俺の作品を読んでもらっていれば、少しでも未来を変えることができただろうか……。


 この時の無智蒙昧むちもうまいな俺は、その後やってくる未来など知る由も無かった。


お読みいただき、ありがとうございます。

皆様の応援が執筆の糧です。


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